オーストリアのバイクブランド、KTMがラインナップするネイキッドロードスポーツ「DUKE」シリーズは、2024年で誕生から30年を迎えました。その歩みと、試乗した最新3モデルを紹介します。

こうして生まれた、「DUKE」シリーズ

 純粋なまでにパフォーマンスを追求し、目指すは自身が冒険して見えたモノとし、自分の限界はそうしたエクストリームな挑戦の先にあることを知るブランド、それがKTMです。「READY TO RACE」を掲げるオーストリアのメーカーから送り出されるプロダクトは、プロユースに匹敵するまとめ上げや性能で乗り手をワクワクさせるのが特徴です。

1994年の初代登場から「DUKE」シリーズは30年を迎え、その節目にKTMは新型3機種をリリース。スペイン南部のアルメリアで開催されたメディア試乗会に筆者(松井勉)も参加
1994年の初代登場から「DUKE」シリーズは30年を迎え、その節目にKTMは新型3機種をリリース。スペイン南部のアルメリアで開催されたメディア試乗会に筆者(松井勉)も参加

 そんなKTMがラインナップするネイキッドロードスポーツ、それが「DUKE(デューク)」シリーズです。2024年で誕生から30周年を迎えました。

 初代が登場したのは1994年のこと。排気量609ccの水冷単気筒エンジンをセミダブルクレードルフレームに搭載し、スズメバチのアタマを思わせるフェイスを持つヘッドライトマスクが印象的で、当時、ヨーロッパを中心に大人気だったモタードモデルよりもさらに舗装路でのアジリティーに振ったモデルでした。

 それはオフロードレース界に大きなプレゼンスを持つKTMが、いよいよロードバイクへと乗り出した記念碑的なものだったのです。

 オフ車由来の軽量な車体、モタードではないスタイルはそのまま初代の進化版、「DUKE II」に引き継がれ、エンジン排気量を拡大し、さらに性能を強化してゆきます。

KTM「DUKE」シリーズの30年
KTM「DUKE」シリーズの30年

 KTMのロードバイクへのアプローチはさらに続きます。2001年、念願だったダカールラリーで初勝利を収め、そのファクトリーマシン「950ラリー」に搭載していた水冷75度Vツインエンジンや車体まわりを使ったアドベンチャーバイク「950アドベンチャー」を2003年にリリースします。

 その年の秋には東京モーターショーにおいて、2008年に発売されるKTM初のスーパースポーツ「RC8」のコンセプトモデルを発表し、KTMはロードバイクにもいよいよ本気であることをアピールしたのです。

 KTMのロードバイク戦略はさらに高まります。2005年には950エンジンの排気量を999ccとしたストリートファイター「990スーパーデューク」をリリースします。ドゥカティ「モンスター」が席巻するマーケットへ真っ向に挑んだのです。

 その後、1人乗り専用でエンジン、サスペンションをスポーツ走行に振った「990スーパーデュークR」、ツーリングも考慮したフェアリング装備の「990スーパーデュークT」などが展開されていきます。

 同じく2008年、新しい水冷単気筒エンジンを搭載した「690デューク」が登場します。ホンダ「CBR600RR」と中速サーキットならばラップタイムもたいして変わらない、とKTMは自信満々に話していました。初代のオフ車から間借りしたような雰囲気は消え、トレリスフレームやWPサスペンションを装備し、前後ホイールはキャストを採用、フレームもロード系モデル専用のものとなりました。

誕生30周年の節目に登場した「DUKE」シリーズの旗艦モデル「1390 SUPER DUKE R EVO」(2024年型)
誕生30周年の節目に登場した「DUKE」シリーズの旗艦モデル「1390 SUPER DUKE R EVO」(2024年型)

 2011年、KTMは「デューク」の世界観、性能をもっと世界中の若年ライダーとともシェアしたい、急激に伸びるアジアマーケットに一石を投じたい……そんな思いから、まさに世界戦略車とも言える排気量125ccクラスの「125デューク」が登場します。「スモールデューク」とも呼ばれ、オーストリアで設計、デザインされてインドで生産し、需要地に運ばれます。

 これは「125」だけにとどまらず、車体の多くを共用する「200デューク」(2012年)、「390デューク」(2013年)もラインナップされ、各国で人気を呼びます。現在は125/250/390がその需要を満たしています。

 2016年には「1290スーパーデュークR」が登場します。1301ccというKTM史上最大排気量の水冷Vツインエンジンを搭載したストリートファイターは、最上級モデルにこそ相応しい性能、装備を与えられました。

 翌年には早くもアップデイトを行ない、MotoGPマシンライクなローンチコントロールなども搭載します。電子制御、ダッシュパネルのTFT化など大きく進化していました。

 2018年には「LC8c」と呼ばれる並列2気筒、285度位相クランクを持つエンジンを搭載した「790デューク」を投入。その後「890デューク」へとアップデイトされて、ミドルクラス層のライダーが注目するモデルとなります。

 こうして見ると、「デューク」の30年間は休むこと無く進化を続けてきた様子が分かります。そして30年目の2024年、「390デューク」と「990デューク」、「1390スーパーデュークRエヴォ」が新登場しました。

 30年の節目に、一挙3モデルをリリース。KTMにとっても「デューク」ファミリーが重要なポジションを担っていることが解ります。

最新3モデルにイッキ乗り! それぞれの印象は……

 日本への導入に先駆けて、海外で行なわれたメディア向けの試乗会が行なわれました。そこにはKTMのフラッグシップネイキッド、新型「1390スーパーデュークRエヴォ」をはじめ、完全ブランニューの「990デューク」、そしてフルモデルチェンジとなった「390デューク」が用意され、30周年の節目にリリースされた3機種に乗ることが出来ました。それぞれの印象をコンパクトにお伝えします。

■390 DUKE

KTM「390 DUKE」(2024年型)に試乗する筆者
KTM「390 DUKE」(2024年型)に試乗する筆者

 最上級モデルで採用されたクロームモリブデン鋼のトレリスフレームとアルミダイキャストサブフレームを採用し、リアショックの位置をセンターから右サイドに移動させることで、車体レイアウトを刷新。従来モデルからシート高を10mm下げ、エアクリーナーボックス形状の最適化が図られました。

 いよいよスロットルバイワイヤーを採用したことにより、ライディングモードも搭載されます。市街地から郊外のツーリング、タイトな峠道でも抜群のアジリティーを見せる「390デューク」は、さらに高速道路でも、ヨーロッパの速い流れの中でも「ホントに単気筒?」と思うほど速度の延びが良く、不満がありません。

 最高出力45hp、最大トルク39N.mのスペックから想像する通りのパフォーマンスです。ライト回りの造形も「新・デューク」フェイスになっています。

■990 DUKE

KTM新型「990 DUKE」(2024年型)に試乗する筆者
KTM新型「990 DUKE」(2024年型)に試乗する筆者

 先代「890デューク」からエンジン、フレームまわりなど95%を刷新した完全ニューモデルの「990デューク」です。

 LEDのデイタイムランニングライトとヘッドライトで造るフェイスは、これまで以上にアグレッシブ。車体の構成は「390デューク」同様にアルミダイキャスト製のリアサブレームを採用したことで、シリーズ全体に最上位モデルと同様の車体構成を採用したことになります。

 排気量が増えたこと、前後サスペンションのセットアップ、ブリヂストン「S22」を採用する足まわりもあって、雨のワインディングでも安心感は充分。扱いやすいエンジン特性と車体のマリアージュでスポーティさを手軽に楽しめるようになり、究極の走りへの近道とも言えるバイクに仕上げられています。1000ccクラスに成長したものの、ヤマハ「MT-07」的な親しみやすさがあるのが驚き。そんなバイクでした。

■1390 SUPER DUKE R EVO

KTM新型「1390 SUPER DUKE R EVO」(2024年型)に試乗する筆者
KTM新型「1390 SUPER DUKE R EVO」(2024年型)に試乗する筆者

 排気量を拡大し、スペックも最高出力190hp、最大トルク145N.mへと強靱化。電子制御まわりはさらに細分化した変更可能領域を拡大し、WP製電子制御セミアクティブサスペンションの旨味を使い倒せる仕立てです。

 テストライダーがMotoGP経験者だったりと、現在KTMが持つリソースをしっかり注ぎ込み、先代「1290」からのニックネーム「ザ・ビースト」を踏襲しつつも、「最恐」(ってリリースに書いてある)のビーストとなった新型は、サーキットで走らせるとまさにその印象の通り。しかもちゃんと開けられる特性にまとめています。

 まあそこは「READY TO RACE」の真骨頂、「開けられないと勝てませんから」と、笑顔で語るバイクでした。

※ ※ ※

 KTM新型3機種の価格(消費税10%込み)は、それぞれ次の通りです。

「1390 SUPER DUKE R EVO」:269万9000円
「990 DUKE」:179万9000円
「390 DUKE」:78万9000円