子どもの小学校入学に伴い、共働き家庭に立ちはだかる「小1の壁」。最近では、放課後だけでなく朝の子どもの居場所の問題も注目されており、全国各地の小学校で開門時間を早め校庭を開放する取り組みが進められています。

「まずは門を開いて、できることから」

子どもが小学生になると保育園のときよりも家を出る時間が遅くなるため、親の勤務時間や勤務形態の見直しが必要になったり、親の出勤時間に合わせて子どもが朝早く家を出て、校門の前で待たなければならないことが問題となっています。

その解決策のひとつとして、この春から大阪府豊中市ではすべての市立小学校で午前7時から校門を開放する取り組みが始まりました。

東京都三鷹市でも、2023年11月1日より市立小学校の朝の校庭開放が実施されています。開始から数か月、取り組みの経緯や現状、課題について三鷹市教育委員会事務局の宮﨑治さんに聞きました。

朝の校庭開放の様子(写真提供/三鷹市教育委員会)

── 朝の校庭開放の概要について教えていただけますか?

宮﨑さん:三鷹市には市立小学校が15校あります。そのすべての学校で朝7時半に校門を開門し、児童のみなさんに校門の中で安全に過ごしていただくというのがまず第一のねらいです。

それに伴い校庭を開放していますので、子ども達がある一定の遊びができる仕組みにして、体力作りにも使ってもらえるようにしています。

春休みや夏休みなど長期休業期間を除いた平日の朝7時半から1時間程度の開放で、各校2人ずつ三鷹市のシルバー人材センターの方にお願いして、子ども達を見守っていただいています。

── 校庭開放の経緯を教えていただけますか?

宮﨑さん:昨年6月の市議会で、3名の議員の方から小1の壁や体力作りなどに関連して「朝の時間に校庭は使えないのでしょうか」という質問が出まして、それを受けて市の方で実施することになりました。議会が3か月に1回あるのですが、6月の質問を受けて、9月に補正予算を出して11月1日に開始となりました。

── 最初の質問から5か月で実施というのはかなりスピード感を持って取り組まれたように感じます。これまで多くの子ども達が校門前で待っていたのでしょうか。

宮﨑さん:私が知っている範囲では、門のところで10人前後が待っていたかなと思います。ただ、これまで校門を開ける時間は学校によって異なりました。以前から朝早くに開門していた学校もあります。子ども達はバラバラに登校してくるので、校門の前で何人待っていたのか正確にはわからない部分があります。

三鷹市は都心へ出勤される方が多く、朝早く家を出なければいけない保護者の方もいらっしゃいます。まずはすべての市立小学校で朝7時半から校門を開き、課題解決をできることから段階的にやっていきましょう、というスタンスで早め早めに取り組んできました。

── 校庭で、子どもたちはどのように過ごしているのでしょうか?

宮﨑さん:15校それぞれ状況が違いまして、遊具や遊び道具が使えたり使えなかったり、児童数が多いところでは子どもたちの安全を考慮し、「校庭は開いているけれど遊ばないでね」というところもあります。

鉄棒など備えつけの遊具は使ってもいいというルールの学校もありますし、ボールは使えないとか備えつけの遊具も使えないとか、細かいルールは学校の状況によってバラバラです。ただ、子どもたちの様子を見ていると、遊具が使えなくても鬼ごっこをしていたり走り回ったり、おしゃべりしている子たちもいました。それぞれが校庭で思い思いに時間を過ごしている、そんなイメージですね。

シルバー人材センターの方にも子ども達がどんなふうに過ごしているか記録を取っていただいているのですが、それを見ても「走り回っている」や「鬼ごっこしていた」などの記述が多いです。校庭で遊べない学校は、昇降口前でおしゃべりしながら待機してもらっています。

── 晴れの日は校庭で過ごせますが、雨の日はどうしているのでしょうか?

宮﨑さん:体育館で静かに待ってもらう学校もありますし、昇降口の内側や大きなひさしの下で待ってもらう学校もあります。雨の日に朝早く来る子どもは少ないのですが、早く来た子どもはみなさん静かに落ち着いて待機しているようです。

── どれくらいの数の子どもが利用しているのでしょうか?

宮﨑さん:ある学校では7時半に来ている子が3、4人ほど。それから10〜15分後に20人、30人とどんどん増えていくイメージですね。学校によってまちまちで、雨の日など天候でも変わります。

遊び方や保護者、地域の理解に課題「時間をかけながら進めたい」

── 利用するのに登録は必要なのでしょうか?

宮﨑さん:登録の必要はありません。結局、授業開始までには児童がみんな登校してくるため、早めに来たい人は自由に来ていいですよという話ですので。

お勤めされている保護者のお子さんは毎日の利用になるかもしれませんが、ご家庭によっては月曜が休みという方もいらっしゃるでしょうし、それぞれ必要がある際に利用してくださいねという仕組みです。

── お勤めでなくても、「今日は朝早くに出る用事ができたから使いたい」という方も便利ですね。

宮﨑さん:そうですね。ある学校では、お子さんが早く出られるご家庭の子が友だちを誘ってきているケースもあるようだという話も出ていました。保護者の方からは「助かっている」「校門を開けていただいてよかった」という声をいただいています。

ただ一方で「学校によっては遊べないからつまらないのではないか」というご意見もありました。

── 見守りをシルバー人材センターの方々にお願いしているのは、学校の先生方のご負担を考えてのことなのでしょうか。

宮﨑さん:おっしゃる通り、現場としても働き方改革が課題になっておりまして、我々としましても先生方の負担を増やすのは避けたいと考えております。

シルバー人材センターのみなさんには、子ども達を見守りながら「危ないよ」「そっちに行ったらダメだよ」という声掛けをしていただいています。もし軽いケガなどがあれば絆創膏などを準備して対応できるようにしています。大きなケガの場合にも救急車を呼べるよう備えてはいるのですが、今のところ、そういったことは起こっておりません。

「見守りの数は2人でたりるのか」というご意見もいただいているのですが、今の段階で2人以上必要な状況だとは考えていません。今後活動が活発になれば人を増やすことも検討しなければならないかもしれませんし、この事業で児童のみなさんがケガをすることがあってはいけませんので、安全を第一に進めたいと思っています。

── 昨年11月の開始から数か月経ちますが、課題はありますか?

宮﨑さん:もうちょっと子ども達が体を動かせる仕組みができたらと思っています。今のところ具体的な話はないのですが、例えば、毎日でなくてもいいのでドッジボール大会などイベントを開きたいねという話が出ています。

これまでも朝の時間にボールを使った運動などを行っていて、朝の校庭開放にも引き続きそういった運動を取り入れている学校もありますので、各校の経験を生かせたらと思っています。子どもたちの意見も聞きながら環境を整えたいです。

ただ、校庭開放自体、早く来ることを強制する制度ではないですし、保護者の方のご負担が増えてはいけないので、みんな来てくださいというイベントにはしづらく、保護者の方や地域の方のご協力も必要になってくるのも悩ましく思っています。

また、これも学校の状況で変わりますが、校庭を開放することで早朝から子ども達の声がするので地域の方のご理解も必要です。「子どもたちの居場所なので全然問題ないですよ」というお話も伺いますが、もう少し時間をかけてどういう対応ができるのか少しずつ検討していきたいですね。

保護者の方のご理解やご要望、近所の方のご理解などいろいろな要素がありますし、学校ごとに状況も違います。一足飛びに進めるのは難しいですが、時間をかけながら進めて参りたいと思っています。

子どもが安心して過ごすことができる校庭開放の取り組み。個別に学校の状況が違い制約もある中で、子ども達の安全を第一に、できることから進めていく姿勢が印象的でした。今後の三鷹市の取り組みと、他の地域で朝の校庭開放がどのように展開していくのか注目されます。

取材・文/阿部祐子 写真/PIXTA