◇獣医師記者・若原隆宏の「競馬は科学だ」

 皐月賞出走馬には、ここまでの過程でフレグモーネによる一頓挫を経験している馬が2頭いる。サンライズジパングは若駒S勝ちの後、弥生賞ディープインパクト記念をステップにする予定だったが回避。メイショウタバルはスプリングSで権利取りの予定が1週スライドすることになって毎日杯勝ちから1冠目へ駒を進めた。

 フレグモーネは厩舎用語では「キズ腫れ」とも呼ぶ。皮下における細菌感染による炎症だ。原因最近は多様だが、黄色ブドウ球菌や化膿(かのう)レンサ球菌によるものが多い。人でも転んだりして擦りむいた傷を適切に消毒せず放っておくと化膿(かのう)することがあるが、あれと原理的に同じことが馬の皮下で起こる。

 現役競走馬でフレグモーネが起こるのは、外見的にほとんど見えないくらいの小さな傷から細菌が侵入することで起こるケースがほとんどだ。走行時にチップや砂の衝突で起こるミクロな傷が端緒になると考えられている。肉眼的に分かる外傷には丁寧な消毒が施される。だから、いざ発症してしまったケースに、だれの責任と言うこともできない。不運というほかない。

 時間薬でも治るのだが、細菌感染症なので早期に収めるためにはしばしば抗菌剤を使う。予定していた競走を回避するのは、フレグモーネの症状で走れないというよりも、競走が休薬期間にはまってしまってエントリーできないという理解の方が適当だ。熱発などによるトレーニング1週休みなどのケースより後への影響はしばしば小さい。時系列は厩舎から詳細のアナウンスがなくとも、乗り込み再開のタイミングを見ることである程度推測できる。

 サンライズジパングは弥生賞に特別登録していて当週の火曜に坂路入りしたが回避。その次の登坂記録は弥生賞次週の土曜だ。当週追い直前にフレグモーネのため追わず、投薬し回避となったのだろう。そこから1カ月断続的に乗り込んでいるから、影響は予定していた1走を使えなかったことの1点に集約される。

 メイショウタバルも予定していたスプリングSには特別登録していて、前週日曜の10日には登坂している。次の登坂はスプリングS当日の17日だ。これも追い切り前に発症が分かって投薬したのだろうと分かる。こちらは1週スライドして毎日杯を勝ったのだから、中間の上積みも大きめに見積もれるだろう。