世界陸上の男子400メートルハードルで2度の銅メダルを獲得するなど、「走る哲学者」の愛称を持つ為末大さん(45)が13日、X(旧ツイッター)で長文を連続投稿。大リーグのドジャース・大谷翔平選手が、元通訳の違法賭博をめぐる騒動の中で活躍を続ける精神状態をアスリートの立場で分析した。

 「大谷選手がなぜ心理的に大変な状況であれほど活躍できているのか不思議な方がいると思いますので、一応スポーツの世界の理論で説明してみます。とは言っても、それ世界レベルで実行しているのは、想像もできないほど難しいはずですが」と前置き。

 「大切なことは『分割』と『箱に入れる』です。まず分割はよく知られているストア派(古代ギリシャの一学派)の哲学から引用することがわかりやすいと思います。『コントロールできないことではなく、コントロールできることに注意を向けよ』、世の中にはコントロールできないこととできることが存在するとストア派は考えます。他人、過去などです。天気もコントロールできないし、自分が病になることや寿命もコントロールはできない。コントロールできないことについていくら考えても、結果はコントロール不可能なので、意味がありません」と解説。

 続けて「リソースは有限です。どうにもならないことに注意を向け、考え悩むことはリソースを無駄に使うことになります。まず物事を切り分け、整理し、コントロールし得ることのみにリソースを投下する。一方で、いくらそうしても人間ですから、思い出したり、それについて悩むこともあります」とリソース(資源、容量)という言葉を用いて指摘。

 「悩むというプロセスは段階があります。まず(1)注意が向かい、(2)想像が膨らみ、(3)情動が生まれます。この一連を悩みだと私は理解しています。悩む人は、忘れようとしてもふとしたきっかけ(1)に思い出して、そのこと考えると頭がいっぱい(2)になり、怒りや恨みや悲しみなど辛い感情(3)が浮き上がってくることで苦しんでいます。このプロセスは(1)がなければ作動しません。(1)を発生させないために、まずコントロールできないものを頭の中で意識的に箱に入れて蓋をしまいます。そして、ここが大事なのですが、解決したり忘却するのではなく『一旦閉まっておく』ことにします。なぜなら解決や、忘れることは不可能なので、それを意識すると結局とらわれることになるからです」と示した。

 さらに「お気づきの方も多いと思いますが、これは根本的な解決ではありません。一旦やり過ごす手法です。また、これを人生の早い段階でやらざるを得なかった場合は、自分でも気づかなくなっている箱が人生を苦しめてくることもあると思います。ですから万能の方法ではありません」とした上で、「しかし、人間はそれを悩むことで、悩む癖ができ、悩みが強化される生き物であることも真実です。一旦閉まった箱の中身は、時間が経つと小さくなっていたり、情動が動かされなくなっていたりするものです。私たちが振り回されているのは、事実ではなく、情動です。ですから事実そのものではなく、情動の発生に注意を向けそれが起こらないようにしています。大事なのは、全ての問題を解決するには人生は短すぎて、人間は小さすぎること。問題は主観によって発生すること。これらを理解することだと思います」と締めくくった。