最近では「敵対的買収」と呼ばずに、「同意なき買収」と言うのだそうだ。運送業のAZ-COM丸和ホールディングス(以下丸和)が、同業のC&Fロジホールディングス(以下C&F)に対してTOBを実施すると発表したのは3月21日のことである。

 全国紙経済部デスクが解説する。

「丸和はアマゾンの配送を請け負い、急成長してきた独立系運送会社です。一方、C&Fは農協系の会社がルーツで、低温食品輸送に強い。その丸和がC&Fに経営統合を持ち掛けたのは2022年10月のこと。しかし、昨年10月になってC&Fが断ってきた。何としても低温食品輸送を拡充したい丸和が今回、一方的に買収を発表したというわけです」

敵対的買収には悪いイメージがあったが…

 買収目標は発行済み株式の過半数。買付代金は約652億円だ。丸和が買収を決断したのは時代の追い風もあった。

「従来の敵対的買収は“乗っ取り屋”の悪いイメージがあって銀行が買収資金を貸してくれませんでした。しかし、昨年8月、経産省が方針を変更し、企業価値の向上に資するなら敵対的であっても構わないという『企業買収における行動指針』を策定します。これによって、金融機関の姿勢が大きく変わり、今回もみずほ銀行が資金を融資することになったのです」(同)

後ろに控える「巨大利権」

 買収が成立すれば、売り上げ3000億円の大企業が誕生することになる。が、すんなりといくかどうかは分からない。C&Fの後ろに控えているのが、総資産100兆円の農林中央金庫だからである。

「C&Fの第2位の大株主(5.7%)には農林中金、そして5位にJA三井リース(3.4%)がいますが、それだけではない。1位の協同乳業や3位の共栄火災など、農林中金の息のかかった株主を合わせると約32%になる。そもそもC&Fの社長は農林中金の営業部長だった人です」(同)

 大が小を飲み込む合併に見えて、「巨大利権」の虎の尾を踏んでしまうことにならないか。そこで、丸和に聞いてみると、

「農林中金様をはじめ、C&F社の株主様には、これから本格的に真摯にご説明申し上げていきます」(広報・IR部)

 一方、農林中金は、

「取引先の個別の事項につきましては、回答を差し控えさせていただきます」(広報コミュニケーション班)

 TOBの開始は5月からである。

「週刊新潮」2024年4月4日号 掲載