NTTドコモの看板(東京・有楽町)

2024年3月のM&A件数(適時開示ベース)は前年同月比13件増の118件となり、前年同月を6カ月連続で上回った。1−3月の累計も16年ぶりに1000件の大台を突破した2023年を40件上回る315件とハイペースで件数を重ねている。一方、取引総額は5063億円。数千億円規模のメガ案件がゼロで、5カ月連続の1兆円超えはならなかった。

上場企業の適時開示情報のうち、経営権の移転を伴うM&A(グループ内再編は除く)について、M&A Onlineが集計した。

金額上位の案件は?

取引総額1位は、三浦工業が米ボイラーメーカーのCleaver-Brooksを約1191億円で買収する案件。将来の国内人口の減少が見通されるなかで三浦工業は、海外に活路を見出し事業を展開している。そして、注目したのが、サプライチェーンの国内回帰が進む米国だった。

エネルギーコストが上昇した米国では、事業展開においてコストを無視できない状況になっており、これまで低効率だったボイラーを高効率化する動きが出ているという。ここに商機を見出しのが、省スペース、熱効率の高い貫流ボイラーを手がける三浦工業だった。Cleaver-Brooksを買収し、同社の幅広い製品ラインアップと販路を活用し、米国での市場シェア拡大を目指す。

金額2位は、オリックス傘下の総合信販会社、オリックス・クレジットの持ち分66%をNTTドコモに譲渡する案件で、792億円。ドコモはスマートフォンから無担保少額ローンが利用できるdスマホローンを展開しており、事業拡大に向けてオペレーションの高度化が不可欠だったとし、傘下に迎えることを決めた。

ドコモは2023年10月にマネックス証券の子会社化を発表、今回のオリックス・クレジットも加えて事業の大幅な強化が達成することになるが、金融分野ではKDDI、ソフトバンクに後塵を拝していた。両社は銀行、証券機能をすでに有し、通信と組み合わせたサービス展開。ドコモも新たなサービス開発の幅が広がった形で、今後の展開が注目される。

金額3位はリース大手の東京センチュリーが米国子会社を通じて、NTT Global Data Centers CHの持ち分80%を取得して子会社化した案件。NTTデータグループ傘下で米国でデータセンター事業を展開する企業で、シカゴで事業を共同運営するために取得した。

東京センチュリーはNTTと2020年に資本業務提携を締結して以降、オートリース、不動産など様々な分野連携を進めており、今回もその一環となる。データセンター事業ではインドでの案件に続いて第3号案件となる。

同意なきTOBが連続

3月のトピックスは、同意なきTOB(株式公開買い付け)が連続したこと。ブラザー工業は3月13日に産業用プリンターに強みを持つローランド ディー.ジー.をTOBで子会社化すると発表。ブラザーとしては産業領域を強化したい考え。ローランド ディー.ジー.は2月9日に米投資会社のタイヨウ・パシフィック・パートナーズとローランド ディー.ジー.の経営陣が組んで、TOB後に経営者による買収となるMBOを実施すると発表しており、ブラザー工業は優位な買付価格を提示して、ここに割って入る形になる。

ただし、ブラザー工業としては、ローランド ディー.ジー.とは、プリンターの共同開発プロジェクトを推進した過去があり、提携の強化をもちかけ、買収提案も行っていた。

もうひとつが、物流大手のAZ-COM丸和ホールディングスが3月21日にC&FロジホールディングスがTOBで子会社化する発表した案件。AZ-COM丸和は低温食品物流事業の強化を図るとともに共同配送による効率化などで相乗効果を見出している。

こちらも対象会社からの同意を得ないままのTOBとなるが、両社は物流業界の課題について意見交換を交わしてきた仲。2022年10月にAZ-COM丸和HDが経営統合の話を持ちかけたものの、C&FロジHDは検討を見送り、破談に終わった経緯がある。

ローランド ディー.ジー.はMBOの実施とTOBの応募について、株主に対して推奨から中立へと意見を変更。また、C&FロジHDも4月1日に外部有識者も交えた特別委員会を立ち上げ、真摯に検討するとしている。ブラザー工業もAZ-COM丸和HDも、かねてよりつながりを持った相手へのTOBであり興味深い。

◎3月M&A:金額上位

1 三浦工業 米ボイラーメーカーのThe Cleaver-Brooksを買収 1191億円
2 オリックス 子会社のオリックス・クレジットがNTTドコモ傘下に 792億円
3 東京センチュリー NTTデータグループの米NTT Global Data Centersを子会社化 693億円
4 AZ-COM丸和ホールディングス C&FロジホールディングスにTOBを実施し子会社化 651億円
5 ブラザー工業 対抗TOBでローランド ディー.ジー.の子会社化目指す 640億円
6 三菱商事 ベトナム関連の子会社5社を譲渡 284億円
7 コニカミノルタ 医療画像データ分析サービスなど創薬支援の米Invicroを米Calyx Serviceに譲渡 173億円
8 東京センチュリー NTTデータグループ、シンガポールのNAV2 Holdingを子会社化 95.5億円
9 ロードスターキャピタル ひらまつ運営のホテル取得を目的にしたLD1合同会社を子会社化 80億円
10 エイベックス 子会社のエイベックス・ライヴ・クリエイティヴの「LivePocket」事業をKDDIに譲渡 46.5億円
11 グラフィコ Church & Dwight JapanがTOBで株式を非公開化 38億円
12 トナミホールディングス 民事再生手続中のアペックスの新設会社を子会社化 37億円
13 円谷フィールズホールディングス 遊戯機販売・メンテナンスのソフィアを子会社化 31.6億円
14 信和 仮設施工グループを統括するCTRを子会社化 30.7億円
15 SREホールディングス 治療院などにクラウド型レセコン提供のメディックスを子会社化 28.3億円

文:M&A Online