新幹線開業でアクセスが不便に

 3月16日、北陸新幹線の金沢〜敦賀間が開業した。これで東京駅から北陸4県の県庁所在地の駅まで新幹線一本で直通できるようになり、関東地方から北陸4県へのアクセスが飛躍的に向上した。福井県はこれを100年に一度のチャンスと見込み、積極的な観光PRを仕掛けている。首都圏の駅では、福井県の観光ポスターを見ない日がないくらいである。

 その一方で、中京・関西エリアの人々からは嘆き節が聞こえる。北陸は文化的にも経済的にも、中京・関西エリアとの結びつきが強い地域である。これらの地域からは、直通の特急列車「サンダーバード」や「しらさぎ」で乗り換えなしでアクセスできた。ところが、これからは名古屋駅、岐阜駅、京都駅、大阪駅から福井や金沢方面にアクセスする際、敦賀駅で必ず乗り換えが必要になる。

 2014年に北陸新幹線の長野〜金沢間が開業した際、富山駅に向かう時は金沢駅で乗り換えが必要になった。ところが、これからは富山駅だけでなく、金沢駅、福井駅に向かう際にも、一様に敦賀駅での乗り換えが生じるのだ。しかも、それが面倒なのである。駅の1階から3階までをエスカレーターで上り下りしなければならない。大阪駅で駅弁を買って、車内でビール片手にくつろぎ、うとうとしていたら金沢駅に到着……という旅ができなくなるのである。

 それでも、時間短縮効果が劇的に高いのならまだ理解できる。しかし、大阪〜福井間の所要時間は最大でたったの3分の短縮効果しかない。大阪〜金沢間は最大22分、大阪〜富山間は最大29分。名古屋〜金沢間は最大16分と、こちらも絶妙な数字である。さらに、大阪〜金沢間の料金は1620円高くなってしまう。時間短縮がわずかで、料金も高くなり、そのうえ面倒臭い乗り換えが発生する。中京・関西エリアの利用者から不満しか上がらないのは、当然である。

 筆者は先日、名古屋から金沢に向かう用事があった。せっかくなので敦賀駅前のホテルで一泊し、敦賀駅の様子をレポートしながら、今回の乗り換えの何が問題なのかを検証してみたい。

乗り換えがとにかく面倒すぎる

 2022年に長崎〜武雄温泉間が開業した西九州新幹線は、長崎方面や博多方面に向かう際、武雄温泉駅で乗り換えが必要である。しかし、新幹線が駅に着いたら、ホームの向かいに乗り継ぐ特急が停まっているので、それほどストレスは感じない。1〜2分もあれば楽々乗り換えは完了する。

 ところが、敦賀駅は違う。先に述べたように、駅の1階から3階までをエスカレーターで上り下りすることになるのだ。筆者が名古屋から特急「しらさぎ」に乗って敦賀駅に着くと、新幹線に乗り換える乗客が、キャリーバッグやボストンバッグを手に一斉に階段を駆け上がっていった。JRが想定している乗り換え時間は、わずか8分しかない。高齢者や介助が必要な人が、うまく乗り換えできるのだろうかと心配になった。

 乗り換えを間違えたり、乗り遅れたりする人を防止するためとはいえ、駅員のアナウンスが駅の中に響いてかなり耳障りだった。案内に当たる警備員や駅員は、他の駅より多い印象を受けたが、関西で一杯飲んで北陸に向かう際、乗り換えのアナウンスを聞かされると思うとかなり苦痛である。

 北陸新幹線は金沢〜敦賀駅間で建設が終わるのではない。さらにその先、新大阪駅まで延伸して、ようやく全線開業となるのだ。途中に小浜駅を通るルートが計画されているが、予算面や環境問題への対策が原因で着工の見込みは立っておらず、開業は早くても2030年代、もしくは2040年代までずれ込むのではないかと予測をする人もいる。したがって、当面は敦賀駅で乗り換えを強いられるのが既定路線である。

フリーゲージトレインの不採用の影響

 こうした事態が起こることは、開業前から予測されていた。2018年には沿線の自治体などが中心となり、新大阪延伸までの間、福井駅まで直通する特急を残すようにと国やJRに要望しているのだ。しかし、新幹線が開業すると、特急が走っていた北陸本線の一部は第三セクター鉄道に移管されてしまうため、実現しなかった。

 いったいなぜ、こんなに面倒な乗り換えが生じる羽目になってしまったのだろうか。それは、フリーゲージトレインの開発が難航したためである。JRでは、新幹線と在来線で線路の幅が異なるため、相互に車両の乗り入れができない。そこで、線路の幅に合わせて車輪の幅を変えて、新幹線でも在来線でも走行できる列車の開発が進んでいた。これがフリーゲージトレインである。

 当初は、西九州新幹線の開業に合わせて採用が予定されていた。しかし、走行試験を繰り返す中で台車に亀裂が見つかったという理由で、2018年に開業時の実用化を断念した。その影響を大きく受けたのが北陸新幹線である。実は、北陸新幹線の金沢〜敦賀間開業の際は、新大阪駅まで全通が実現するまでの繋ぎとしてフリーゲージトレインを採用する予定だったのだ。乗り換えの手間を省いて利便性を確保しようという構想だったが、北陸新幹線も導入を断念してしまった。

 フリーゲージトレインの技術が未熟なまま、見切り発車で計画を進めたことが、今回の不便な乗り換えに繋がっているのは否めないだろう。高齢者が重そうな荷物を持ち、敦賀駅の階段を上っているのを見て、気の毒に思えた。全通までは特急を数往復でもいいから、残すべきだったのではないかと考えてしまう。せめて対面乗り換えを採用するなど対策を練って欲しかったが、導入を断念してから駅舎の設計を変更するのは難しかったのであろう。

GW、混雑なく乗り換えができるか

 合間に駅弁を買う時間があったり、途中下車をしたりする余裕がある旅であれば、乗り換えはそれほど苦痛ではない。しかし、一刻も早く目的地に向かいたい場合は本当に面倒であり、心理的な負担は大きい。それでも、特急から北陸新幹線に乗り継ぐ際は、ひたすら新幹線乗り場を目指せばいいので、まだ負担は少ないかもしれない。問題は、北陸新幹線から特急に乗り継ぐ場合である。

 関西に向かう「サンダーバード」と中京に向かう「しらさぎ」は33番・34番乗り場から発着するが、ホームを挟んで向かい合わせに並んでいることがあるのだ。これはいただけない。目的地と別方向に行く列車に乗ってしまう可能性があるし、しかも列車のデザインがかなり似ているのだ。鉄道ファンなら見分けがつくかもしれないが、一般人は違いがわかりにくい。せめて、車両のカラーを赤と青くらい明確に塗り分けるなど、対策が必要だったのではないか。

 また、乗り換えの便を図るため、敦賀駅の床には色分けして、特急「サンダーバード」と特急「しらさぎ」の乗り場が案内されている。はっきり言って、「京都・大阪方面」と「岐阜・名古屋方面」と併記した方が良かった気がするのだが、いかがだろう。鉄道ファンでもない一般人は、列車の愛称などどうでもいいし、頭に入っていないのだ。

敦賀駅の構造そのものが良くない

 敦賀駅の問題点は他にもある。まず、これほど多くの人が利用する駅なのに、改札外に“みどりの窓口”が1ヶ所しかないことだ。改札内には2ヶ所(台)あるが、当日分の発売しかしておらず、事前に買っていた切符を変更したい場合は改札外に出なければならないのだ。

 しかも、その窓口が東口(やまなみ口)にある。氣比神宮や敦賀港などの観光地に向かう玄関口で、ビジネスホテルが多く建つ西口(まちなみ口)には、評判がよくない“話せる指定席券売機”が1台あるのみである。

 この券売機は、自分で操作もできるが、オペレーターに繋いで切符を発券して貰えるシステムが搭載されている。しかし、繋がるまで時間がかかるため、ギリギリに駅に着くと切符が買えず、乗り遅れる可能性がある。何より、高齢者は使いにくい。そして、西口から新幹線乗り場までが遠かった。跨線橋で線路を跨がなければならず、動く歩道やエスカレーターを利用しても、3〜5分はかかる。

 JR各社はインバウンドの受け入れに熱心であるし、若者よりもシニア向けの旅行商品を積極的に発売している。その一方で、JR東日本はみどりの窓口を積極的に削減している。これはあまりに不親切であろう。高齢者が駅員に怒鳴り散らす光景は、出張で駅を利用していると頻繁に目にする。インバウンドや高齢者を重視しているのに、彼らの利便性を損ねるコストカットばかりしているのだから、極めてちぐはぐな経営である。

 敦賀駅は、昨今のJR各社を取り巻く問題が凝縮したような駅、と言わざるを得ない。折しも、もうすぐゴールデンウイークが到来する。帰省客と観光客がドッと北陸に押し寄せるであろう。スムーズにトラブルなく、遅れなく列車を発着させることができるのだろうか。JR西日本の手腕が試されていると言っていいだろう。

ライター・宮原多可志

デイリー新潮編集部