なにわ男子の道枝駿佑(21)が主演しているテレビ朝日の連続ドラマ「マルス-ゼロの革命-」(火曜午後9時)が苦境に陥っている。高校生たちの物語であるものの、10代の視聴率が深刻なまでに悪く、全体の数字もかなり低い。【高堀冬彦/放送コラムニスト、ジャーナリスト】

「マルス-ゼロの革命-」の深刻な不振

「マルス-ゼロの革命-」は1月23日に始まった。第1回の個人視聴率は3.2%。つまり100人のうち3.2人が観た。上々の滑り出しだった。

 個人視聴率は2020年3月に世帯視聴率に代わって導入されたテレビ界とスポンサーの新たな指標。「何人観たのか?」などのデータがすぐに分かるのが特徴の1つである。

 また、世代別のデータがすぐに出るのも個人視聴率の利点。このドラマの場合、メインターゲットと思しきT層(13〜19歳に限定した個人視聴率)の第1回の数字は2.4%だった。すなわち、この年齢層の100人のうち、2.4人が観た。これも悪くない結果だった。

 ところが、以降は暗転する。第2回は個人視聴率が2.5%に、T層視聴率が0.8%に落ちた。第3回はさらに下落し、個人視聴率は1.8%に。放送日の火曜午後9時台の6番組の中で最下位になってしまった。T層視聴率は0.1%を記録した。深刻と言わざるを得ない。13歳から19歳の1000人に1人しか観なかったのだから。

 プライム帯(午後7〜同11時)のほかの冬ドラマ(計17作品)と比べ、どうなのか。対比してみたい。T層視聴率も付記する。(2月1日から同7日まで。ビデオリサーチ調べ、関東地区)

「マルス-ゼロの革命-」は15位

 1位はTBS「さよならマエストロ〜父と私のアパッシオナート」(日曜午後9時、2月4日放送の第4回)で個人6.6%、T層2.0%。個人は「マルス-ゼロの革命-」の3倍あった。

 2位は日本テレビ「となりのナースエイド」(水曜午後10時、同7日放送の第5回)で個人は4.4%、T層は2.5%。3位はTBS「不適切にもほどがある!」(金曜午後10時、同2日放送の第2話)で個人4.1%、T層2.3%。若い人には理解し難いはずの昭和の言葉がセリフに多いが、幅広い層に観られている。

 4位はテレ朝「グレイトギフト」(木曜午後9時、同1日放送の第3話)で個人3.9%、T層は0.9%。5位はTBS「Eye Love You」(火曜午後10時、6日放送の第3回)。ラブストーリーで、個人は3.5%、T層は2.0%。6位はやはりラブストーリーのフジテレビ「君が心をくれたから」(月曜午後9時、同5日放送の第5話)。個人は3.3%でT層1.6%である。

「マルス-ゼロの革命-」は15位だ。個人視聴率もT層視聴率も「Eye Love You」、「君が心をくれたから」の約半分からそれ以下。厳しい。

 一方、ラブストーリーの2作品は、世帯視聴率が6%前後だったことを一部で指摘された。「Eye Love You」の世帯視聴率は6.1%、「君が心をくれたから」は同5.3%だった。

新聞の世帯視聴率離れ

 もっとも、テレビ界とスポンサーが使わない世帯視聴率によって、ドラマに評価が下される時代はそろそろ終わりそうだ。産経新聞は1月18日付紙面から「週間視聴率ベスト10」を「週間個人視聴率ベスト10」に切り替えた。

 産経の同日付の紙面にはこう書かれている。

「番組の評価指標とされてきた視聴率の調査対象が、『世帯』から『個人』へとシフトしている」(産経新聞1月18日付)

 他紙も続くと見られる。読売新聞オンラインも同時期にこう書いた。

「家族がそろってテレビを見ていた時代の名残とも言える『世帯視聴率』」(読売新聞オンライン1月21日付)

 世帯視聴率を過去の産物のように扱っている。実際、トレンディドラマ全盛期の1990年と今では世帯視聴率の1%が持つ意味が全く違うのである。

 1990年の時点では65歳以上の高齢者のいる世帯は全体の26.9%に過ぎなかった。しかし、2019年の段階で2倍近い49.4%になった。その後も増えている(内閣府調べ)。

 世間の高齢化は世帯視聴率のサンプル調査にもダイレクトに反映される。だから1990年と比べ、今は高齢者に向いた番組でないと、世帯視聴率を得るのが難しいのである。

 テレビ局とスポンサーは、もとから世帯視聴率など気にしていない。だから、世帯視聴率が低くてもラブストーリーをつくり続ける。代わりに高い個人視聴率を望んでいるのかというと、そうではない。若い女性のF1層(20〜34歳の女性)視聴率や10代のT層視聴率、49歳以下のコア視聴率(13〜49歳に限定した個人視聴率)を獲ってくれたら良いと考えている。

あまりに奇抜な設定とストーリー

「マルス-ゼロの革命-」の話に戻りたい。不振の原因が道枝にあるとは全く思わない。むしろ、若い俳優なのにお膳立てをしてもらえなかったということで、被害者に見える。設定とストーリーがあまりに奇抜すぎる。視聴者が早々に逃げ出したのもやむを得ない。

 物語は道枝が演じる高校生・美島零が、桜明学園高校に転校して来るところから始まった。美島は5人の落ちこぼれ生徒を集め、動画研究会「マルス」を結成する。その目的は「腐った大人たちがつくった社会を壊すこと」。突飛に思えてならない。

 第3回では美島らが地面師集団をやっつけた。高校生たちが地面師の存在と手口を当たり前のように知っていたのは不思議でならなかった。ドラマは全てウソだが、うまいウソが求められる。そうでないと、観る側はその世界に入り込めない。

 テレ朝は2000年以降、プライム帯における若者向け作品があまりヒットに恵まれない。そもそも若者向け作品の制作本数が少ない。日テレ、フジとは対照的である。

 そればかりではない。「ザワつく!金曜日」(金曜午後6時50分)などのバラエティも視聴者はミドル層以上が中心である。さらに平日の午後9時54分からはやはりミドル層以上に向けた「報道ステーション」がある。

個人視聴率トップでもCM売上高で遅れ

 ミドル層以上にはありがたい局だが、このままでは収益が高まらない。理由をご説明したい。まず主要4局の2022年度の個人視聴率を見ていただきたい。1年間の平均値であり、全日帯(午前6時〜深夜0時)の数字である。

【2022年度個人視聴率】
1位:日本テレビ 3.6%
1位:テレビ朝日 3.6%
3位:TBS    2.8%
4位:フジテレビ 2.4%

 テレ朝と日テレはピタリと並んでいる。視聴者のイメージと近いのではないか。ところが、CM売上高は意外な結果になる。

【CM売上高】
1位:日本テレビ 約2369億800万円
2位:テレビ朝日 約1791億4100万円
3位:TBS    約1628億8500万円
4位:フジテレビ 約1603億8000万円

 テレ朝は日テレに600億円近く差をつけられ、個人視聴率では完勝しているTBS、フジにも追いつかれそうになっている。

CMをよく流す企業は多くが若者ターゲット

 その理由は2022年度のコア視聴率(13〜49歳に限定した個人視聴率)でお分かりいただけるはず。こちらも全日帯の数字で、1年間の平均値だ。

【2022年度コア視聴率】
1位:日本テレビ 2.9%
2位:フジテレビ 1.8%
3位:TBS    1.6%
4位:テレビ朝日 1.4%

 これが、テレ朝が日テレに大差を付けられてしまった理由である。テレ朝はミドル層以上には滅法強いが、若い視聴者が弱点。コア視聴率争いでは4位だった。

 多くのスポンサーは、行動的な若い視聴者も観てくれる番組のスポンサーになることを望む。また、CMをよく流す企業はゲーム会社、携帯会社などで、その多くが若者をメインターゲットにしている。だから、テレビ局は若者にも観てもらわないと収益が高まらない。

「マルス-ゼロの革命-」は若い視聴者を開拓するために制作されたのかも知れない。仮にそうだった場合、ミッションは今のところ成功していない。どう修正するのかが注目される。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。放送批評懇談会出版編集委員。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。

デイリー新潮編集部