「IPPONグランプリはバカリズムという大きな説得力で穴を埋めた」──Xに投稿された視聴者の感想だが、深く頷く人も多いのではないだろうか。2月3日、フジテレビ系列で「IPPONグランプリ」が放送された。大会チェアマンである松本人志の代役としてバカリズムが出演すると、これが非常に好評だったのだ。

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「IPPONグランプリ」は2009年に深夜のローカル番組としてスタート。当初から話題を集め、11年からゴールデン・プライム帯での全国放送が始まった。担当記者が言う。

「大喜利が得意な10人のお笑い芸人がプレーヤーとして出場し、そのナンバーワンを決めるという番組です。『M-1グランプリ』(テレビ朝日系列)や『R-1グランプリ』(フジ系列)などと同じように“芸人のコンテスト番組”と位置づけることができます。とはいえ、『IPPON』の独自ルールもあり、その中の一つにチェアマンというMC的な役割があります。そしてこの役は常に松本さんが担当していました」

 ところが松本は1月8日に活動休止を発表した。「M-1」や「R-1」なら、審査員の松本が欠席したとしても、他の審査員がいるため影響は少ない。ところが「IPPON」でチェアマンは1人しかいないため、代役を立てる必要がある。そのため誰が抜擢されるのか注目を集めていたのだ。

「バカリズムさんは『IPPON』の常連プレーヤーで、これまで全28大会のうち優勝6回という破格の記録を持っています。それもあって松本さんの代役に抜擢されたのでしょう。視聴者が注目する中、バカリズムさんは番組の冒頭でチェアマン用の別室に入りました。そして、松本さんが出演しない理由を『何でお休みかは知らないんですけど』ととぼけてみせたのです」(同・記者)

予想以上の高評価

 番組が終わると、SNSではバカリズムの進行を絶賛する投稿が相次いだ。バラエティ番組の制作スタッフも「予想以上の高評価でした」と言う。

「松本さんの不在に納得できないファンが、SNSでバカリズムさんを感情的に非難する展開も考えていました。ところが、蓋を開けてみると、視聴者は松本さんとバカリズムさんを冷静に比較した上で、バカリズムさんを称賛したのです。これは意外な結果と言ってよく、改めてバカリズムさんの人気と実力を再認識させられました」

 成功した要因の一つとして、いたずらに「バカリズムの独自性」を追求しなかったところが挙げられるという。

「もちろんバカリズムさんと松本さんでは個性が違いますが、プレイヤーの回答へのフォロー、リアクション、審査での気遣い、笑いどころでの笑い方など、バカリズムさんは細かいところまで松本さんが作り上げた“チェアマン”という役割を忠実に再現しました。そのため視聴者は代役に違和感を覚えることがなく、番組に集中できたのだと思います。これが高評価の理由でしょう」(同・スタッフ)

「プレーヤーで見たい」

 スタッフ氏は「バカリズムさんのチェアマンは、とりあえず今回限りだろう」と推測していた。だが、放送後、SNSに多数の絶賛コメントが寄せられたのを見て、違う展開もあり得ると考えを改めたという。

「松本さんが復帰するまでは、今回はバカリズムさん、次回は麒麟の川島明さん……と次々にチェアマンを変えていくのかなと思っていました。しかし、バカリズムさんが想像以上に適役だったので、次回以降も続ける可能性はあると考え直しました。しかし、一方で、SNSには『やはりバカリズムさんはプレーヤーとして見たい』という声も多いのです。そうなると、ごく数人でチェアマンを回すというアイディアも成り立ちます。ひょっとすると、番組スタッフも悩んでいるかもしれません」(同・スタッフ)

 ただし、不満の声もあった。SNSでは「バカリズムのチェアマンはよかったが、プレーヤーの回答がイマイチだった」という感想が多かったのだ。

「『IPPONグランプリ』という番組は、プレーヤーの人選が面白さの鍵を握ります。今回の放送で、歴代優勝組と初出場組のバランスはよかったと思います。残念なことがあったとすれば、笑い飯の西田幸治さんが不出場だったことくらいでしょう。ならば、なぜ視聴者がSNSで不満を漏らしたかというと、お題に原因があったと見ています。なぜかネット上では指摘する人がいないのですが、テレビ業界では『今回はお題がイマイチだった』という話で持ちきりです」(同・スタッフ)

松本不在の影響!?

 お題の持つ役割は極めて大きいそうだ。何しろ、プレーヤーが面白い回答を連発できるかどうかは、お題の出来栄えにかかっているという。

「まず、『写真で一言ルーレット』は写真のインパクトが弱かったと思います。『ドラムロール大喜利』もお題の当たり外れが目立ちました。他にもボケにくいお題が散見されましたし、そもそも全体的なテイストがマンネリ化しています。以前にウケたお題をアレンジしただけのものも多く、総じてインパクトに欠けました。つまり、視聴者から『回答が面白くない』と不満の声が出たのは、プレーヤーの責任ではなく構成を担当する放送作家に原因があったのです」(同・スタッフ)

 前回まではお題のクオリティーが維持できていたのに、なぜ今回になって突然、レベルが落ちてしまったのだろうか。

「実は『IPPON』の放送開始時、お題の選定は作家陣だけでなく松本さんも参加していました。番組の企画会議に出演者の芸人さんが参加するのは珍しいことですが、前回まで松本さんが会議に出席していたのなら、松本さんのおかげでお題のクオリティが保たれていたのかもしれません。今回の『IPPON』は意外なところで“松本不在”の影響が出てしまった可能性があります」(同・スタッフ)

改善は容易

 とはいえ、SNSなどで「お題が悪い」という意見は皆無だ。そのため、修正は比較的容易だという。

「この番組で最も大切なのは、あくまでもプレーヤーです。どれだけ実力のある芸人さんを選ぶかにかかっています。これさえ間違えなければ、今後も人気番組として安泰でしょう。その上で、お題の深刻なレベル低下をどう立て直すか、作家陣の奮起が期待されます」(同・スタッフ)

デイリー新潮編集部