「勝ちに不思議の勝ちあり。負けに不思議の負けなし」との名言を残したのはプロ野球界の名匠・故野村克也さん。ドラマの視聴率と内容の関係はどうなのか? プライム帯(午後7〜同11時)の冬ドラマ17本を考察してみたい。(ビデオリサーチ調べ、順位の「個人」=個人視聴率、「コア」=コア視聴率。調査対象を13〜49歳に限定した個人視聴率のこと)【高堀冬彦/放送コラムニスト、ジャーナリスト】

「パクリ」の意見は言い過ぎか

●個人1位(6.7%)/コア2位(3.1%)
TBS「日曜劇場 さよならマエストロ〜父と私のアパッシオナート〜」(日曜午後9時)2月25日放送の第7回

「さよならマエストロ」の「日曜劇場」はもとから幅広い年齢層の視聴者に観てもらうことを強く意識した放送枠。50代の西島秀俊(52)と石田ゆり子(54)に夫婦を演じさせ、さらに10代の芦田愛菜(19)を娘役に配したことにもそれは表れている。夫婦の物語と父娘の物語を掛け合わせ、ミドル層以上にも若い層にも共感しやすい内容にしてある。さらにポンコツ楽団の再生劇も加え、間口を広げた。

 ポンコツ楽団の再生劇が日本テレビ「リバーサルオーケストラ」(2023年)のパクリ(盗用)だとの意見も一部にあったようだが、それは言い過ぎではないか。ダメ組織の再生劇は古くからあり、ドラマの定番の1つなのだから。

 会社や警察などのポンコツ部署やポンコツ学校、あるいはポンコツ野球部などの再生劇は過去に数限りなくつくられてきた。それらはパクリとは言われない。ポンコツ楽団の再生劇のみ二度とつくってはならぬというのでは理屈が通らない。

若い視聴者は「ふてほど」から脱落していない

●個人2位(5.0%)/コア1位(4.4%)
TBS「不適切にもほどがある!」(金曜午後10時)2月23日の第5回

「不適切にもほどがある!」に関しては誤解が広がっている。「昭和期が描かれているので、視聴者にも昔を懐かしむ昭和世代が多い」「昭和の価値観の押し付けを嫌がり、令和の若者は脱落している」。どちらもエビデンスに反している。

 このドラマをよく観ているのは49歳以下の若い視聴者。コアは断トツのトップである。特に視聴者が多いのは昭和期を全く知らない若い女性たち(F1層=20〜34歳の女性)であり、4%超えの極めて高い個人視聴率をマークしている。

 また、若い視聴者から脱落者が出ているどころか、個人もコアも数字は右肩上がり。ちなみに1月26日の第1回は個人4.4%、コア3.1%だった。若い視聴者は昭和期の描写を、別世界を観るような感覚で楽しんでいるのではないか。

「不適切にもほどがある!」の視聴者層の誤解は世帯視聴率を基に推量するから起こるのだろう。しかし、世帯視聴率で分かるのは「観ていた家の割合」だけなのである。それもあるから、テレビ界とスポンサーは2000年4月から個人視聴率にシフトした。

ストレスが溜まらない「ナースエイド」

 世帯視聴率の最大の欠陥は「高齢者の好み」が数字を大きく左右するところ。1990年の時点で65歳以上の高齢者のいる世帯は全体の26.9%で約4分の1に過ぎなかったが、極端な少子高齢化で2021年には約半分の49.7%にまで急上昇したからだ(内閣府調べ)。

 一方、個人視聴率の数字は「100人中、何人が観たか」を表す。コア視聴率は「13歳から49歳の100人のうち、何人が観たか」である。観ていた人の世代や性別も細かく分かる。

●個人3位(4.4%)/コア6位(2.4%)
日本テレビ「となりのナースエイド」(水曜午後10時)2月21日放送の第7回

「となりのナースエイド」は川栄李奈(29)が演じるナースエイド(看護助手)の主人公が活躍する医療ドラマ。川栄の溌剌としたキャラクターもあって、作風は全体的に明るい。また、主人公の奮闘は最後には認められるから、ストレスが溜まらない。それが高い個人視聴率の大きな理由だろう。

 半面、ナースエイドの主人公が手術室に入ってしまうなどリアリティは二の次。コア世代にはやや物足りないのではないか。

世帯視聴率の特性が顕著なドラマ

●個人4位(3.8%)/コア9位(1.9%)
テレビ朝日「グレイトギフト」(木曜午後9時)2月22日放送の第6回

●個人5位(3.3%)/コア4位(2.6%)
TBS「Eye Love You」(火曜午後10時)2月20日放送の第5回

「グレイトギフト」は、ドラマにはまず登場しない「病理医」を主人公とし、ストーリーのカギを握るのは「殺人球菌」。まず、このオリジナリティが買える。ストーリーにも破綻がない。主演の反町隆史(50)の哀愁を漂わせた演技もいい。

 コアが低い理由の1つは若い世代にはピンと来ないドロドロとした人間模様が描かれているからだろう。

「Eye Love You」は二階堂ふみ(29)の演じる主人公が、テレパスの持ち主であり、他人の心の声が読み取れる。相手役に韓国実力派俳優のチェ・ジョンヒョプ(30)を配した見応えのあるファンタジー・ラブストーリーである。

 しかし、高齢者の多くはファンタジーもラブストーリーも好まないから、世帯視聴率は5.9%と低い。映画だってファンタジー・ラブストーリー作品のお得意様は若者なのである。世帯視聴率の特性が顕著になっているドラマ。

ハンデを個性と捉えた「厨房のありす」

●個人6位(3.0%)/コア5位(2.5%)
日本テレビ「厨房のありす」(日曜午後10時半)2月25日放送の第5回

●個人6位(3.0%)/コア8位(2.0%)
フジ「君が心をくれたから」(月曜午後9時)2月19日放送の第7回

「厨房のありす」はハンデを個性と捉えたところが新しい。「ハンデのある人は悲劇の人」として描きがちだったドラマ界に一石を投じている。門脇麦(31)が演じる主人公には自閉スペクトラム症(ASD)というハンデがあるが、明るくて純粋無垢。周囲の大人たちの心を洗う。

「君が心をくれたから」は永野芽郁(24)が演じる主人公が、好きな人である山田裕貴(33)を救うため、五感を差し出す物語。「Eye Love You」と同じくファンタジー・ラブストーリーであるため、やはり世帯視聴率は低く、5.1%。個人、コアと順位の隔たりが大きい。

 毎日新聞、産経新聞は視聴率ランキングを個人視聴率の順位に基づいて作成するようになった。世帯視聴率を単独表記する新聞は消えている。年内にも新聞から世帯視聴率は消滅するのではないか。

若者向けに特化した「新空港占拠」

●個人8位(2.9%)/コア10位(1.8%)
関西テレビ制作・フジ系「春になったら」(月曜午後10時)2月19日放送の第9回

●個人9位(2.8%)/コア3位(2.9%)
日本テレビ「新空港占拠」(土曜午後9時)2月25日放送の第7回

●個人10位(2.6%)/コア13位(0.9%)
NHK「正直不動産2」(火曜午後9時)2月20日放送の第7回

「春になったら」は主人公の1人である奈緒(29)とその相手役の濱田岳(35)の演技が相変わらず抜群にうまい。福田靖氏による脚本にも惹き付けられる。

「新空港占拠」は全編が考察付きのバトルゲームのようなもので、こちらも高齢者が好みそうもない作風だから、世帯視聴率は4.8%と低い。しかし、コアはしっかりと獲っている。10代(T層=13〜19歳)の個人視聴率は3〜5%でトップ。若者向けに特化された作品なのだ。

「正直不動産2」は前作「大奥」の約1.5倍前後の視聴率をマークしている。こちらの数字を押し上げているのは大人たち。「仕事とは何か」「家族とは何か」を考えさせて、さらに不動産知識を与えてくれるからだろう。

一定の存在感を示している「大奥」

●個人11位(2.4%)/コア12位(1.3%)
フジ「大奥」(木曜午後10時)2月22日放送の第6回

●個人12位(2.2%)/コア14位(0.9%)
フジ「院内警察」(金曜午後9時)2月23日放送の第8回

●個人13位(1.9%)/コア14位(0.9%)
朝日放送制作・テレ朝系「アイのない恋人たち」(日曜午後10時)2月25日放送の第6話

 おどろおどろしさは「大奥」ならでは。現代劇では描けない空気感であり、一定の存在感を示す。ハマる人が多いか、少ないかの勝負である。

「院内警察」は作風がダーク。主演が陽キャラの得意な桐谷健太(44)ということもあり、もう少し明るくても良かった気がする。

「アイのない恋人たち」は認知度不足もあって、大苦戦を続けている放送枠だが、浮上の兆しを見せている。作品自体は秀逸。

低視聴率…それぞれの理由

●個人14位(1.8%)/コア13位(1.0%)
テレビ朝日「マルス ゼロの革命」(火曜午後9時、同20日放送の第5話)

●個人14位(1.8%)/コア17位(0.2%)
NHK「お別れホスピタル」(土曜午後10時、同24日放送の最終回)

「マルス ゼロの革命」は主演の道枝駿佑(21)ら高校生たちが動画を使って革命を起こそうとする物語だが、そもそもメンバーに高校生らしさが感じられないのが痛い。

「お別れホスピタル」は終末病棟の物語。家族を看取った人、死を意識した人にしか身に迫らないドラマだろうから、低視聴率もやむなし。NHKらしいドラマ。

●個人16位(1.7%)/コア11位(1.4%)
フジ「婚活1000本ノック」(水曜午後10時、同21日放送の第6回)

●個人17位(1.0%)/コア16位(0.3%)
テレビ東京「ジャンヌの裁き」(金曜午後8時、同16日放送の第6話)

「婚活1000本ノック」は幽霊が出てくる現実離れした物語だ。その分、ほかの部分はリアリティを持たせるのが説得力を出すためのセオリーであるものの、そうなっていないから、つかみどころがない。

「ジャンヌの裁き」は昨年4月にリニューアルした放送枠。中高年以上オンリーだったターゲットに若者も含めるようになったが、不振が続く。方向性が定まっていないように見える。主演の玉木宏(44)と題材の検察審査会も生かし切れていないようで惜しい。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。放送批評懇談会出版編集委員。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。

デイリー新潮編集部