MLBソウルシリーズ2024では3月21日、ドジャース対パドレス戦の第2戦が開催された。前日の20日、大谷翔平の専属通訳だった水原一平氏が解雇。そのためドジャースのベンチには、臨時の通訳としてウィル・アイアトン氏が入った。たちまち日米のメディアが注目したのは言うまでもない。

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 担当記者は「アイアトン氏は1988年12月生まれの35歳。東京で生まれ、15歳まで過ごしました」と言う。

「お父さんが日系アメリカ2世、祖母が日本人ということもあり、アイアトン氏の日本語は流暢です。以前から『メジャーリーガーになる』という夢は明確に持っていたそうで、高校はハワイの学校に進み、カルフォルニア州にある2つの大学で野球に打ち込みました。ちなみに卒業時には卒業生総代を務めたそうですから、まさしく“文武両道”の大学生活だったのでしょう」

 母親がフィリピン人だったことから、アイアトン氏はフィリピンの国籍も持っていた。そのため大学を卒業すると、2013年のWBC(ワールド・ベースボール・クラッシック)でフィリピン代表に選出されている。

「その後、レンジャーズとマイナー契約を結びました。しかしプロ選手として芽が出ることはなく、1年で引退します。その後、レンジャーズとヤンキースでインターンを経験。さらに日本で会社勤めをしていたこともあったそうですが、フィリピン代表の編成業務に携わったことが彼に大きな影響を与えました。チームの全体を取り仕切るという仕事だったので、いわば球団マネジメントのイロハを実地で学んだわけです」(同・記者)

水原氏の“代役”は「主任」

 そして2016年、ドジャーズに入団した前田健太の通訳を担当したことで、日本のメディアから注目を集めるようになった。

「当時、前田選手のInstagramには、たびたびアイアトン氏が登場しました。それも“いじられキャラ”とでも言うべき立ち位置で、前田選手がロッカールームや車の陰、廊下の隅などに隠れ、アイアトン氏が歩いてきたら『わっ!』と驚かせるという動画が何本もアップされています。今回、アイアトン氏が大谷選手の通訳を務めたことから前田選手の動画が“発掘”され、再びネット上で拡散しています」(同・記者)

 前田にデータを翻訳して説明する機会が増えたことから、データ分析に関心を持つ。ドジャース傘下の3Aチームに“移籍”してデータ担当コーチを務めた。

「20年にはドジャースに戻され、22年からはドジャースのパフォーマンス・オペレーション主任に就任、チームの要となるデータ分析を担当しています。水原氏が解雇されて慌てて通訳を探したのではなく、ドジャースで働く“主任”がピンチヒッターの通訳として借り出されたということになります」(同・記者)

「マトリックス」の大ヒット

 これだけでも充分に興味深いが、実は彼の父親も“業界”では相当な有名人だとご存知だろうか。こちらは野球業界ではなく、日本のエンタテインメント業界、それも映画業界で名を轟かせた人物なのだ。

 2019年1月、ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメントは「ソニー・ピクチャーズ
インターナショナルプロダクションズの日本代表にウィリアム・アイアトンが就任」との報道資料を配信した。

「こちらのアイアトン氏は1955年生まれ。父親がアメリカ人、母親が日本人で、両親共に映画関連の仕事をしていたので、幼い時から映画は身近なものだったそうです。大学も上智大学で、日本人より日本語が上手です。映画業界に入ると、今のワーナー・ブラザース・ジャパンで26年のキャリアを構築、2006年に代表取締役社長に就任しました。『マトリックス』シリーズを日本でも大ヒットさせたことや、邦画を積極的に制作したことで有名です。製作者としての代表作は『るろうに剣心』シリーズ、『最後の忠臣蔵』、『黒執事』、日本版リメイクの『許されざる者』などが挙げられます」(同・記者)

映画一筋の人生

 読売新聞は2010年12月、インタビュー記事で有名な「顔」の欄で、アイアトン氏を取り上げた。15日の朝刊に「映画『最後の忠臣蔵』の製作総指揮を務めた ウィリアム・アイアトンさん」との記事が掲載されたのだ。

《父がアメリカ人、母が日本人で、日本育ち。両親が海外向けの映画業界誌を発行していたため、映画は常に身近にあった。8歳の時、アカプルコ映画祭で「切腹」(小林正樹監督)を見たことが忘れられない。「腹を切る人物の顔は平静を保っているのに、足は痛みのために動いている。あの映像は強烈でした」》

《映画一筋の人生。「ほかの人と一緒に泣いて、笑って、ハラハラドキドキできるのが素晴らしい。人間はソーシャルアニマル(社会的動物)なんですから」》

「大谷選手の横に座るアイアトンさんの姿がテレビなどで紹介されると、日本の映画業界では『通訳のアイアトン氏って、あのアイアトンさんの息子さんだよね?』と、すぐに話題になりました。なぜかと言えば、実は通訳のアイアトンさん、お父さんに瓜二つなのです。あまりにそっくりなのでネットで検索し、『やっぱり親子だったんだ』と確認。Xに投稿する関係者も現れ、親子の話題が徐々に広がっているというわけです」(同・記者)

 デイリー新潮は複数回、アイアトン氏に取材を依頼した。一度は丁寧な返信が届いたこともあったが、4月4日現在、文書でのコメントやインタビューの要請に対し、可否の回答は寄せられていない。

デイリー新潮編集部