人気タレントの独立や芸能事務所の休業が相次いでいる。その背景について、業界関係者は「コンプラ強化」と「ジャニーズ問題」の影響を挙げるが、その言葉に秘められた“身につまされる”真意とは。

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 4月1日、芸能プロダクション「ケイファクトリー」は俳優の佐々木蔵之介(56)や佐藤隆太(44)らとの「契約満了」を公表し、佐藤はこれを機に「独立」したことを自身のInstagramで発表。同じ日には女優の多部未華子(35)も約20年間所属した事務所を退所し、今後は独立して活動を行っていくことを表明した。

「その直前には女優の黒木華(34)が3月末で事務所を辞め、独立することを宣言。他にも女優の内山理名(42)が26年所属した事務所を退所し、夫で俳優の吉田栄作の事務所へ移籍すると発表しましたが、実態は“独立と同じ”との声が上がっている。またお笑いタレントのキンタロー。も松竹芸能からの退社&独立を公表しています」(スポーツ紙デスク)

 タレント側の意向によるものではないが、女優の吉岡里帆(31)や酒井若菜(43)、臼田あさ美(39)らが所属する「A-Team」の芸能業務「休業」発表を受け、臼田は3日、自身のSNSで「独立しました」と報告した。

 一連の「独立ラッシュ」の裏でいま、業界に何が起きているのか。さる芸能プロ幹部は「タレントが『辞めたい』と言っても、事務所側にムリに引き止める力はもはやない」として“内情”をこう話す。

「事務所依存」はキケン

「タレントにとって、事務所に所属しているメリットが薄れつつあるというのは数年前から業界内で囁かれてきたこと。所属タレントが事務所にとどまる最大の理由の一つに“仕事を取ってきてくれる”というものがあります。しかし事務所の力だけで仕事を取ってくるのは年々難しくなっていて、それはテレビ局など発注者側の考えに変化が生じている影響が大きい」(芸能プロ幹部)

 実際、テレビ局からのオファーで最近多いのが「〇〇さんでお願いします」とタレントを個人指名する“一本釣り”のやり方とされ、その流れを加速させたのが昨年のジャニーズ問題という。

「あの事件を機に、テレビ局は“事務所への過度な依存”をリスクと捉えるようになったのではないか。ひと昔前には当たり前だった、テレビ局の要望で売れっ子タレントのスケジュールを押さえる代わりに、駆け出しのタレントを端役や別の番組に出してもらうといった“バーター”も今では難色を示されるようになっている」(同)

 民放キー局関係者はテレビ側の「変心」についてこう話した。

「ジャニーズ問題は特殊なケースですが、それでも事務所絡みのスキャンダルが他の所属タレントにも波及し得ることを痛感させた。もしもの時の影響を最小限に抑えるにはタレント個人との結びつきを強めるやり方にシフトすべきと感じたテレビマンは多い」

LINEで「辞めます」

 一方で、テレビが「最大のマスメディア」でなくなった点を挙げるのは、都内の芸能事務所社長である。

「最近はテレビ局や事務所発のプロモーション以外にも、タレントみずからのSNS発信によって話題を集めるケースも珍しくなく、相対的に事務所の影響力は低下している。テレビ出演のギャラ単価が下がるなか、タレント個人のSNSを通じて仕事が舞い込むケースも増えています」

 他にも配信を通じての“投げ銭”など、テレビという媒体以外にも「稼ぐ」選択肢が増えたことで、事務所とタレント間のパワーバランスに微妙な変化をもたらしているという。

「正直、いまはある程度、名前が売れたタレントなら事務所に頼らず、個人でやっていくことも可能になりつつある。さらに昨今のコンプラ意識の高まりで、パワハラ紛いの言動は御法度となり、事務所側もタレントに過度な“縛り”はかけづらい。つい先日も、2年目の若いタレントに少しキツめの言葉で遅刻したことを注意すると、数時間後に〈辞めます〉とLINEで退所報告が送られてきた」(同)

増える「初期投資」未回収

 深刻なのは、業界を襲う“地殻変動”が各事務所の経営面にも暗い影を落としている点という。

「これまでの芸能事務所といえば、“タレントを育てる”ことが“売り出す”ことと同じくらい重要な仕事の一つに数えられた。まだ無名のタレントに住居やレッスンの機会を与え、仕事がなくても役者やタレントとしての基盤づくりをサポート。初期投資分は持ち出しとなりますが、タレントが売れれば十分に元を取り返せるため、長く“ウィンウィン”の関係と考えられていた。しかし、最近はそんな手厚い育成システムを維持できなくなる事務所も増え、結果としてタレントの帰属意識を薄れさせる要因にもなっている」(同)

 事務所としては、売れた後でタレントに辞められると先行投資分を回収できなくなり、ビジネスモデルの転換を迫られるケースも……。

「だからタレントに独立を思いとどまらせるため、各事務所とも試行錯誤の日々です。たとえば、小栗旬らが所属する『トライストーン・エンタテイメント』は映画『クローズ』シリーズや『ルパン三世』などの映画製作も手掛けますが、そういったコンテンツ製作に事務所が乗り出す手法に、改めて注目が集まっている。タレントが事務所に所属する理由に“あの映画に出たいから”などの動機が加われば、求心力も高まるとの期待がある」(同)

 独立ラッシュの裏にあった、業界が直面する大きな「曲がり角」。芸能事務所も“大サバイバル時代”に突入か。

デイリー新潮編集部