吉岡里帆(左)と壇蜜

 最近、芸能事務所の破産や休業に関するニュースが世間の耳目を集めている。

 3月27日にはタレントの壇蜜、吉木りさらが所属する芸能事務所「フィット」が破産手続きを開始したことが報じられて話題となったが、4月1日には女優の吉岡里帆や臼田あさ美、酒井若菜らが所属する「A-Team(エー・チーム)」が公式サイトで芸能関係の業務を休業することを発表した。

 昨年11月には、かつて水川あさみや大東駿介らが所属していた「A.L.C.Atlantis」が破産手続きを開始したと報じられた。

 これらとは別の芸能事務所のマネジャーは語る。

「『フィット』は“バラドル”として一世を風靡した大原がおりさんをはじめ、かつては乙葉さんや杉原杏璃さんらも所属し、グラビア業界では昔から名の知れた事務所です。『A-Team』も関連会社にはDAIGOさんや松井玲奈さんなどが所属し、かつては岩城滉一さんや伊藤英明さん、松本まりかさんらが在籍し、芸能界に一大勢力を築いていました。2018年に創業者が亡くなり、その後は後継社長と創業者の親族との間で“お家騒動”が勃発しているという話もありましたが、いずれにせよ、景気が良ければそうしたトラブルも大事にはならないわけで、台所事情は苦しかったのでしょう」

個人事務所を設立した水川あさみ(写真:2020 TIFF/アフロ)

■かつての先輩ほど稼げない

 前述の会社にとどまらず、近年は芸能事務所を取り巻く状況は極めて厳しいものになっているという。

 実際、ここ数年は全盛期には都内の一等地に本社を構えていた芸能事務所が経営のスリム化の一環として事務所のスぺースを狭くしたり、比較的家賃の安い郊外の土地に移転したりするケースも多い。また、人気芸能人の“独立”も後を絶たないが、これも業界の不景気とは無関係ではないという。

「独立の背景には当然、待遇や収入への不満もあります。ひと昔前に比べるとテレビ番組やCMのギャラなど仕事の単価もかなり下がっていますからね。番組のMCクラスでもかつては1本300万円近かったギャラが50万円とか70万円になっているなんていう話はザラです。知名度がない芸人だと、ひな壇のバラエティー出演でギャラ1万5000円なんてもこともあります。芸能事務所のビジネスモデルは売れっ子タレントによって培った稼ぎやコネクションを活用し、次世代を担う若手や新人を育てるのが基本。そのため、会社の経営が厳しくなると、自然と稼ぎの良い売れっ子に依存する部分が大きくなります。もちろん売れっ子たちも下積み時代は先輩たちの恩恵に授かっていたわけですが、とはいえ、かつての先輩たちほど稼げないうえ、負担ばかりが大きくなれば、フリー転身や待遇の良い事務所移籍を目指す人が出てくるのは必然です」(前出のマネジャー)

休業した「A-Team」に所属していた臼田あさ美(写真:つのだよしお/アフロ)

■タレントが“メリット”を感じにくい

 では、こうした不景気の要因は何か。まず挙げられるのは、言うまでもなくインターネットやSNSの普及による“テレビの凋落”だろう。

「日本の芸能界は長きにわたりテレビを中心に回ってきて、芸能事務所のビジネスモデルもそこに依存してきました。人気テレビ番組やテレビCMのギャラが雑誌などに比べると桁違いの高さだったのに加えて、幅広い視聴者層を持つテレビで活躍するメジャータレントを抱えることで、スクールビジネスや商品のプロモーション、プロデュースビジネスも展開できました。テレビの時代だったからこそ、テレビ以外のビジネスに結び付けて莫大(ばくだい)な収益をあげることもできたわけです」(同マネジャー)

 もっとも、テレビの存在が薄くなる一方で、YouTuberやインフルエンサーなどネットやSNSを活用した新たなビジネスも生まれているわけだが、この点に関して別の芸能事務所の幹部はこう話す。

「良くも悪くも、大手芸能事務所はこれまで培ってきた実績や関係性によりテレビ局に強力なパイプを持ち、それゆえ影響力を保っていた側面があります。そもそも、芸能人を対象によく使われる『干す』や『消える』といったフレーズ自体、テレビでの露出を前提とした表現ですしね。ただ、YouTubeやSNSを活用したビジネスに関しては、そうした優位性が発揮できず、タレントに対して“メリット”を与えにくい。それに多少バズッたとしても、かつての人気番組やテレビCMのギャラほどの利益は見込めない。音楽にしたって、レコードやCDという形でリリースしていた頃の方が、配信やサブスクよりも格段に利益率は高かったですからね」

■追い打ちをかけた「コロナ禍」

 テレビの凋落により仕事の単価が下がっているうえ、既存のビジネスモデルも崩壊の兆しを見せていた中で、追い打ちをかけたのが新型コロナウイルスの猛威だった。

「コロナ禍やそれに伴う緊急事態宣言を受けてリアルイベントが軒並み中止を余儀なくされました。テレビ番組に関しても、コロナ対策にかかる経費により、ただでさえ削られていた番組制作費がさらに抑えられて、そのあおりを受けてギャラが下げられたり、出演者の数が減らされたり、番組自体が放送中止を余儀なくされたりもしました。あれから3年半近くがたちますが、いまだに当時のダメージを引きずっている芸能事務所は少なくないと思いますよ」(同幹部)

 エンターテインメント業界が大きく変革している今、タレントを抱える芸能事務所もまた、岐路に立っている。

(立花茂)