JRA(日本中央競馬会)歴代最多勝利数を誇る騎手の武豊氏の自宅から高級腕時計や指輪など数十点が盗まれる窃盗事件が発生――。事件の詳細が明らかになるにつれ、専門家は意外な「犯人像」を指摘した。

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 京都市左京区にある武氏宅から「家で物音がする」と、110番通報があったのは3月24日の午前5時頃。すぐに警察官が駆け付けたが、侵入者はすでに去った後だったという。

「到着した警察官が武さんの自宅の窓ガラスが割られていることを確認。警察によると、侵入時刻は23日午後11時から24日午前5時頃の間と見られています。通報した武さんの家族は不審な物音を“6分程度”にわたって聞いたといい、滞在時間の短さから、あらかじめ特定の部屋などに目星を付けて侵入した可能性が浮上している。京都府警が付近の防犯カメラ映像を解析したところ、不審な人物が複数映っていたということです」(地元紙記者)

 盗まれたのは、高級腕時計と指輪・ネックレスなどの貴金属類がそれぞれ数十点。さらにブランド品のバッグや財布、現金なども奪われ、被害総額は数千万円にのぼる可能性があるという。

「トートバッグもなくなっていましたが、これは腕時計やネックレスなどを入れる“運搬用”に使われたと見られています。侵入時、武さんは不在で、在宅だった妻の佐野量子さんにケガなどはありませんでした。京都府警は“空き巣”など窃盗事件を専門に扱う捜査3課の精鋭を投入するとともに、防犯カメラの映像を繋ぎ合わせ、犯行グループの侵入・逃走経路を解明するリレー捜査にも注力しています」(同)

異例だった「複数犯」

 武氏は4月4日、自身のオフィシャルサイトで「現在、警察によって懸命な捜査をいただいており、詳しいことはこれ以上言えないのですが、物質的な被害よりも家内の精神的なショックの方が大きく、私自身ももちろんショックを受けています」とコメントを発表。

 一方で、事件について「不可解な点」があると話すのは、元神奈川県警刑事で警察本部捜査第三課に所属した経験を持つ犯罪ジャーナリストの小川泰平氏だ。

「今回の手口は、俗に『忍び込み』と呼ばれるもので、家人が寝静まっている深夜に侵入し、貴重品を奪う窃盗行為をいいます。通常、『忍び込み』は単独犯と相場が決まっており、複数で侵入するなど耳にしたことがない。人数が増えればそれだけ発覚のリスクが高まり、また家人に気づかれるような物音を出して通報までされている点から、明らかにプロではない者たちの犯行と考えられます」

 忍び込みのプロは「ノビ師」と呼ばれ、2019年に山崎まさよし主演で「影踏み」のタイトルで映画化されたことでも知られる。日中、不在時を狙って家に押し入る「空き巣」と比べるとリスクが高く、より経験や技量が求められる忍び込みに“素人が参入”する理由とは何なのか。

ルフィ事件との“接点”

「犯行グループは当然、武豊氏の自宅と知って侵入したと考えるのが自然で、住所だけでなく、土日は武氏が競馬のため不在だという点も把握していたことでしょう。また夜間はセンサーなどによる機械警備が手薄になる点なども考慮して、あえて深夜帯を狙ったと考えるのが合理的。つまりターゲットに関する必要な情報を揃えて犯行に及ぶ“周到性”が窺える反面、実行役には一転して“素人臭”が付きまとう。このアンバランスな構図で思い浮かぶのは、昨年に摘発が相次いだ〈ルフィ事件〉です。事前の情報収集やリサーチは入念ですが、肝心の実行犯らはSNSの闇バイトなどを使って募集した“寄せ集め”に過ぎませんでした」(小川氏)

 京都府警もロレックスなど高級腕時計のコレクターとして知られる武氏の「高価なコレクションを狙って押し入った可能性が高い」(前出・記者)と睨んでいるといい、警視庁関係者もこう続ける。

「香港やマカオなどには“盗品”であっても高値で買ってくれる業者やマーケットが存在し、仮に海外で売り飛ばされれば、被害品から犯人を追うのは不可能になる。昨年のルフィ事件で周知されたのは、暴力を行使するようなタタキ(強盗)をやれば長い懲役刑が待っており、銀座の高級腕時計店で起きたようなハデな強盗劇も捕まる確率が高いということ。そのため闇バイトでその手の犯罪に加担するメンバーを集めようとしても、いまはリスクを恐れてなかなか人が集まらず、同じ強盗でもよりハードルを下げたものへ勧誘するケースがあると聞く」

 捜査の先に現れるのは「ルフィの亡霊」か。1日も早い犯人逮捕が期待される。

デイリー新潮編集部