「開発部門に薬理作用の知識のある人間が少な過ぎる」

 小林製薬が作った紅麹成分入りサプリメントを摂取した人に健康被害が相次いでいる。すでに5名もの死者が確認されており、食品をめぐる事件としては近年まれに見るひどい惨事となった。甚大な被害を生み出してしまった、同社の強欲な企業体質を解き明かす。【前後編の後編】

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 1919年に設立された同社は、6代にわたって創業家の小林家が経営してきた。かつては薬品の卸売りが主力事業だったが、現代表取締役会長の小林一雅氏(84)が60年代以降、アイデア商法路線に舵を切り数々の商品をヒットさせて会社を拡大し現在の礎を築いた。

 一雅氏と現社長の小林章浩氏(52)、親子2代にわたってケチな“なにわの商人”を貫く小林製薬は、儲けを重視し過ぎるあまりに疑念の目を向けられることもあった。

 さる製薬会社関係者は声を潜めてこう語る。

「開発部門に薬理作用の知識のある人間が少な過ぎるんです。10年ほど前は特にひどくて、脂肪を落とすナイシトールという漢方薬のシリーズがあるのですが、プロジェクトマネージャーですら生薬の基礎的知識を持ち合わせていませんでした。漢方の主な原材料は天然由来の生薬ですが、副作用などのリスクがないわけではない。ずさん過ぎる会社の体制に唖然とした記憶があります」

 もちろん、開発部門がこの調子だったことでお客様相談室のスタッフも、

「最低限必要な知識すら有していませんでした。だから、顧客からの問い合わせに対して“漢方だから安全ですよ”などと誤った内容の“珍回答”を繰り返していたのです」(同)

「被験者5人の身長を改ざん」

 薬に対するいい加減な姿勢は、13年に発覚した不祥事からもうかがい知ることができる。それは小林製薬にとって市販薬とはいえ初めての治験が必要な医薬品として、肥満症改善薬を開発していた時に起きた。

「治験の現場でコーディネーターが小林製薬の要望に応じるために、被験者5人の身長を故意に低く記録したのです。データ改ざんが明らかになった後、小林製薬は治験支援を請け負った企業に損害補償を求める方針を発表するなど自らが被害者である旨を強調しましたが、傍目には無理筋でした。治験に求められるレベルがさほど高くない一般用医薬品とはいえ、初めての試みでいきなりこのような雑な過ちが露呈してしまうなんてあり得ない」(同)

 この治験では、実施した医療機関の職員も被験者に含まれており、実施の方法自体が医療倫理的に問題視されていたとも。かねて承認済みで治験の要らない薬ばかりを売り、研究開発費を軽視しケチってきたからこそ起きた不祥事だとはいえまいか。

 同社は薬に限らず看板商品であるサワデーについても、ずさんな品質管理を行っていた。先の製薬会社関係者が明かす。

「以前宮城県の工場で、飛び散った黄などの蛍光色の塗料をスタッフたちが足で踏みつけ、製造ラインの床を汚している様子を見て、あきれた記憶があります」

 また、小林製薬は下請けいじめのうわさも絶えない。

「よく聞くのが、パッケージや原材料を曖昧な契約で仮発注しておいて、後から急にキャンセルを申し出てくるパターンです。小林製薬は常に新商品を売り出し、ダメならラインナップから消すことを繰り返しており、その際の雑な仮発注に下請けが振り回されるのです。すでに仕事が動き出していたら、下請けにとっては大きなダメージになってしまうのですが……」(小林製薬関係者)

「取り締まる専用の法律がないのが問題」

 以上の企業体質に関して指摘すると小林製薬は、

「皆様にご心痛やご不安をおかけしており、おわび申し上げます。紅麹関連製品の回収およびお客様への対応等に全力を挙げて取り組んでおり、回答を差し控えさせていただきます」

 現在、紅麹サプリが機能性表示食品だったことも波紋を広げている。

 食の安全・安心財団理事長の唐木英明氏によれば、

「機能性表示食品制度では、ある食品について効果を謳うにあたって、国の審査を必要としません。消費者庁への提出が義務付けられている、有効性と安全性を示す論文の形式さえ整っていれば、申請どおりの内容で機能性表示食品として登録できてしまうのです。費用を抑えて簡単に登録できる制度だといえます」

 ただし、提出した論文は消費者庁のホームページで公開される。つまり、審査の必要がない代わりに国民の監視の目にさらされるというわけだが、

「取り締まる専用の法律がないのが問題です。人体に作用する効果を謳っているにもかかわらず、あくまで食品に過ぎないという考え方のもと、食品衛生法などで取り締まることしかできないのです。薬であれば薬機法によって製造工程の基準が厳格に定められていますが、機能性表示食品はそうではない。今回、トクホなども含めた健康食品と一般食品を区別する専用の法律がないことで、安全性が担保しづらいという問題が露呈したと思います」(同)

経営上の危機を迎える可能性も

 さて、小林製薬はこの先どうなってしまうのか。

 企業ガバナンスに詳しい青山学院大名誉教授の八田進二氏に聞くと、

「損害賠償の総額がどれほどになるのか、まだ予測がつかないので何とも言えませんが、訴訟が日本国内だけであれば会社の負担は限定的かもしれません」

 同社は8割近くの高い自己資本比率を誇り、実に約1680億円もの内部留保をため込んでいて、財務的に余裕があるように見える。

「内部留保などの数字を見るかぎり、払えないことはないと思います。とはいえ、すでに社会的信用が大きく毀損しているので、長期的に見れば人材が流出したり商品が売れなくなったりして、売り上げが縮小していく。最終的には経営上の危機を迎えてしまう可能性も十分に考えられます」(同)

 前編では、不祥事の背景にある強欲な企業体質について、一雅会長の人物像などと併せて報じている。

「週刊新潮」2024年4月11日号 掲載