新年度の春。わが子の教育には一層力が入り、自らの新たな学びに挑戦する向きも多かろう。だがわが国の教育事業は、学校教育からリスキリングまで、ベネッセの一強支配が進んでいるのだという。その“問題営業”や“癒着疑惑”の実態とは――。(以下は「週刊新潮」2024年4月11日号掲載の内容です)

 教育産業を代表する企業として君臨するベネッセグループ。「こどもちゃれんじ」に「進研ゼミ」と、誰もが見聞きしたことのある教材の親しみやすいイメージとは裏腹に、昨今では、大学入試や都立高入試における公的業務を大口受注するなど、教育産業において、他を寄せ付けない圧倒的な存在感を見せている。

「入試関連の事業において“右に出る者なし”であるのは、もはや周知の事実でしょう。加えて、どの教育現場でもベネッセの存在感は別格。まさに教育産業のガリバーと呼ぶにふさわしい会社といえると思います」(全国紙記者)

“入試の作成者が対策講座を提供”

 だからこそ、と言うべきか。同社をめぐって度々取り沙汰されるのが、“癒着”の二文字だ。一民間企業でありながら、国家の基盤ともいえる公教育に対して、なぜここまで入り込めるのか。その不自然さを指摘する声が高まっているのだ。

「昨今のベネッセを見ていると、国や自治体との関係性に、疑念を抱かざるを得ません」

 そう話すのは、英文学者で、東京大学文学部教授の阿部公彦氏だ。

「例えば、2020年度から実施された一連の大学入試改革です。新たに始まる『共通テスト』で、英語には複数の民間試験が導入されることになりましたが、中でもベネッセ主催の『GTEC』は多くの受験生を獲得すると見込まれた。さらに、国語と数学の『記述式』導入にあたっては、その『採点業務』を、ベネッセの子会社が約62億円で一括受注したのです。そもそも国が掲げた入試改革自体に無理があり、結局両者の導入は見送られたのですが、“なぜベネッセばかりが”という疑惑の視線が、改めて強く向けられることとなりました」(同)

 これは企業努力という“美談”で済ませていい問題ではないと、阿部教授は続ける。

「ベネッセは通信教育や塾などの事業を核としています。そんな企業が大学入試市場を独占してしまっては、“入試の作成者自身がその対策講座を提供できる”という構図が生まれてしまう。こうなれば、他社ではなくベネッセの講座に人気が集中するのは当然のことで、公平性の観点からもおかしいのは明らかです」

文科省から“厳重抗議”

 事実、先に挙げた「採点業務」をめぐっては、公平性を害するような営業手法が既に見られていた。さる高校教員が明かす。

「ベネッセは、記述式試験の採点業務や、それに付随したアドバイザリー業務を受注したことを、露骨に営業に用いていたことがありました。高校教員向けの会合で配布した資料の中で、『ベネッセが関連業務を受注しました』という内容を強調した上で、『だから弊社の模試を使うのが一番です』という営業を堂々と行っていたのです」

 この問題は、衆議院文部科学委員会でも取り上げられ、当時の萩生田光一文科相が事実関係を認めることとなった。

「文科省はベネッセに対して“厳重抗議”を行いましたが、こうなることは最初から予測できたはずで、白々しく感じてしまいます。いずれにしても、利益相反の営業が現実に行われていたことが明らかになっているわけです」(同)

 同様の事案は、東京の都立高入試や、学校教育の現場をめぐっても起こっているという――。

有料版では、大学入試と都立高入試をめぐる疑惑のほか、国との“癒着”問題、学校教育を支配する実態と問題点、そして次の商機を見出しているという「リスキリング事業」など、「ベネッセの正体」について詳報している。

デイリー新潮編集部