いまや女性だけでなく男性も足しげく通う「美容クリニック」。市場が急拡大するなか、施術数の増加とともにトラブルも絶えないとされる。なかでも最近増えているのが、初めての美容整形に挑んだ中高年女性たちから上がる「こんなはずじゃなかったのに……」といった“絶望”の声という。

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 国民生活センターによると、美容医療に関する相談件数は年々増えており、2023年度は過去最多となる6180件を記録。5年前(19年度)の2036件と比べると、3倍以上の急伸を見せている。

「国際美容外科学会が発表した数字によれば、日本における美容医療の施術数は〈世界3位〉となる約246万件(22年)。いまや日本は世界でもトップクラスの“美容大国”へ変貌を遂げつつあります。近年は男性も脱毛やスキンケアなどの美容医療を受けるケースが珍しくない一方で、患者の大半を占めるのはいまも女性である点に変わりはない。最近の特徴として、“シワ・シミ取り”や“たるみ改善”といったエイジングケアのほか、長年のコンプレックスを解消するため整形手術にチャレンジする中高年女性の増加ぶりが目立っています」(美容ライター)

 それにともない術後、「想像と違う」「しなきゃ良かった」など失望や後悔に襲われる30〜50代女性の存在に注目が集まり始めているという。

 都内在住の生田真紀さん(仮名・40代)もそんな一人だ。双子の子供たちが高校に入学し、子育てがようやく一段落したタイミングで「たまには自分に投資でもしてみよう」と考えたことが、美容医療に目を向けるキッカケだった。

軟骨を鼻へ移植…

 生田さんが語る。

「昔から“団子っ鼻”がコンプレックスだったこともあって21年、ある大手の美容クリニックで『降鼻術』を受けました。“切らない鼻手術”と謳われ、広告では6万円程度で受けられるとあったので、思い切って予約の電話を入れたのです。でもカウンセリング時に『鼻筋に糸状のメッシュを注射する手術法で、6万円はメッシュ1本の値段。あなただとメッシュを10本入れないと鼻は高くならない』と言われ困惑しました。『とても60万円なんて払えません』と答えると、『なら5本はどう? いまよりは鼻筋が出ると思う。今日やっていくなら割引して20万円にする』と説明され……」

 最終的に医療ローン(20万円)を組んで施術を受けることを了承した生田さんだが、術後、鼻が高くなった実感は得られなかったという。

「いまから振り返ると、この時点で諦めていれば良かったのですが、どうしても納得がいかず、寝る前にSNSなどで美容整形に関する情報を収集するようになりました。そのうち『鼻中隔延長術』という、耳の軟骨を切り取って鼻に移植する手術法があることを知った。そこで都内のクリニックに電話して、後日、説明を聞くことにしたのです」(生田さん)

 これが今につづく“受難”の始まりになったという。

「耳に激痛、呼吸困難」でも“ダウンタイム”のひと言

「最初にカウンセラーから『一緒にやると割引になるので、二重(ふたえ)手術も受けたほうがいい』と勧められ、『永久保証付き』とも言われたので了承。二重手術が30万円、鼻整形は鼻中隔延長術と鼻尖成、耳介軟骨移植の複合手術となるため『90万円』と提示された。高額でしたが、“これで長年のコンプレックスから解放されるのなら”と手術を受けることにしました」(生田さん)

 ところが、術後の仕上がりは想像とかなり違ったものだったという。目は二重というより、腫れぼったく瞼(まぶた)が垂れ下がり、どちらかというと“三重”に見える出来栄えだったとか。肝心の鼻についても、鼻先だけが歪に突出し、鼻の穴の左右差も拡大。さらに「鼻の中にピーナッツ状のものが挟まったかのような感覚」が常に続き、鼻呼吸がしづらくなったという。

「何より悩まされたのが術後、耳に激痛が走るようになったことでした。少しでも耳に何かが触れるだけで、飛び上がるほど痛い。手術から1週間後の検診時に『鼻で呼吸するのがツラい』ことや『耳の激痛』を訴えましたが、手術を担当した医師は『ダウンタイムの腫れの影響だ』と言うばかり。その後も鼻の息苦しさや耳の痛みはおさまらず、10カ月後の検診の際、思い切って『これはミスだと思います』と担当医師に言ってみたのです」(生田さん)

 すると医師は鼻の再手術については応じる意向を示し、22年秋に鼻の修正手術を受けたという。

「保証の対象期間内だったはずですが『麻酔代として5万円』を請求され、原因についても『(別のクリニックで行った)メッシュ注射の影響だ』と言われました。でも再手術の後も鼻の違和感と息苦しさは治らず、おまけに鼻の穴の左右差もさらに酷くなってしまい……」(生田さん)

「もとに戻すには300万円」

 ショックを受けた生田さんは自身のSNSで「鼻整形による後遺症」の経過を綴るアカウントを作成。同じような被害を防ぎ、対処法を模索するためだったが、投稿したその日のうちにクリニック側から「名誉毀損に当たる。もう診察は行わない」と一方的に通告する電話がかかってきたという。

「その後は自分の鼻を見るたび、一連の出来事がフラッシュバックし、昨年から心療内科に通うようになりました。別の複数のクリニックで修正手術のカウンセリングを受けましたが、いずれも『詰められた軟骨で鼻の中がグチャグチャになっている。もとに戻すには200〜300万円の手術代が必要』と言われ、途方に暮れました。健康とお金を失い、人生を壊された思いです」(生田さん)

 美容医療は「自由診療」が一般的なため、治療方針も医師の裁量に委ねられるケースが多く、それがトラブルの絶えない背景の一つに指摘されている。「城本クリニック」福岡院院長の小川英朗氏がこう話す。

「日本人の鼻の皮膚は“肉厚”な反面、鼻の形を決定する鼻翼軟骨は“小さくて脆い”という特徴を持っています。そのような鼻をしっかり変化させるために鼻中隔延長術が必要となるケースは多い反面、同施術は『難しい手術』の一つに数えられ、十分な経験やトレーニングを積んだ医師の手によって行われるべき。実際、正しく施術が行われても、鼻が曲がってくるリスクはありますし、未熟な医師の手にかかり通気障害を起こすなどの事例も報告されている。だからこそ事前に医師が患者に考えられるリスクを丁寧に説明し、かつ術後のアフターケアを怠らないことが何より重要となります」

 生田さんは現在、別のクリニックで修正手術を受けるため、コツコツとお金を貯めている最中という。

デイリー新潮編集部