「次の総裁選、どうするかわからねえよ」

 ソフト帽をかぶり、唇をひん曲げながら辺りをじろりと睥睨する……。マフィアのボスのような政界のキングメーカー、麻生太郎・副総裁(83)。かつて自民党を下野させ、今も失言続きなのに、一体なぜこんなにエラくなったのか。【前後編の前編】

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「岸田は何を考えているかわからねえ」

 麻生太郎・自民党副総裁は最近、周囲にそう漏らしているという。そして、

「このままじゃあ、こっちも次の総裁選、どうするかわからねえよ」

 とも……。これでは誰が総理なのか分からない。そして、まるで次の総理は自分が決めるとばかりの物言いにも聞こえる。

「政権の生殺与奪権のひとつを握っている」

 支持率低下で風雲急を告げている岸田文雄(66)政権の行方。その鍵を握るといわれるのが、麻生氏である。

「紛れもなく現在の政界の、陰の権力者ですよね」

 と述べるのは、元日本テレビ政治部記者で政治ジャーナリストの青山和弘氏。

 直近の3月9日を含め、麻生氏はこのひと月で総理と3度も会食している。

「政権の生殺与奪権のひとつをこの人が握っています」

 麻生氏が「キングメーカー」と言われるようになったのは2021年10月の岸田政権発足後だ。その力は人事に顕著に表れていて、例えば直近、昨年9月の内閣改造・党役員人事では、

「岸田総理は、総裁への意欲を隠さない茂木(敏充=68)さんを警戒し、幹事長から外したかった。それを思いとどまらせたのが麻生さんです。また、岸田さんが一時検討していた石破茂さんの入閣も阻止した。これは麻生政権時、石破さんに退陣を迫られた恨みといわれています。さらには、国対を実質的に仕切っていた御法川信英さんが国対委員長代理を外れたのも、彼が麻生派を退会した意趣返しとみられています」(同)

 その後、裏金問題を受け、12月には安倍派の閣僚が4名更迭されたが、

「その際も、麻生さんは官房長官の後任に浜田靖一さんを推し、岸田さんも従った。浜田さんが断ったため、総理はやむなく林芳正さんを起用しましたが、今度はこれに麻生さんが“親中派だから”などと難色を示した。そのため、岸田さんは総務大臣の後任に麻生派の松本剛明さんを付けたほどの気の使いようです」(同)

なぜ力を持つように?

 時の総理が言いなりだが、なぜかような力を持つことになったのか。

「もともと岸田さんが総理になれたのも麻生さんあってこそ。3年前の総裁選には河野太郎(61)さんも立候補し、国民的人気では上だった。河野さんは麻生派の所属ですが、それにもかかわらず、麻生さんは岸田さんを推した。総理は麻生さんに足を向けては寝られないんです」(同)

 それに加え、麻生氏はもう一人の「ポスト岸田」有力候補を押さえている。

「茂木幹事長です。茂木さんは総理への野心を隠しませんが、率いる茂木派は第3派閥に過ぎなかった。だから第2派閥の長・麻生さんにべったりなんです。逆に、岸田さんにとっては、麻生さんを抑え込んでおけば、同時に、河野、茂木という自分にとっての脅威も抑え込めるんです」(同)

 政権発足時、岸田政権で主流派と呼ばれたのは、安倍、麻生、茂木、岸田の4派。一方、非主流派は二階派、森山派、そして菅義偉前総理のグループだった。岸田総理の政権運営の基本戦略は、麻生氏に忠誠を誓うことで麻生・茂木両派を引き入れ、自派を含めた「三頭体制」を組む。その上で安倍派は人事で優遇して抱き込み、主流派をがっちりと固めることだった。

“麻生詣で”

 この権力構造の中、麻生氏は人事を半ば壟断してきたわけだが、すり寄っているのは総理だけではない。

「茂木さんは近年、葉巻を吸うようになりましたが、党内では麻生さんの趣味をまねし、こびたとみられています。また、最近、総理候補と目されるようになった上川(陽子)外務大臣(71)は、外遊から帰るとわざわざ麻生さんに報告に行き、『麻生詣で』と揶揄されています」(同)

 もっとも、この1月、岸田総理の突然の「派閥解散」発言で、派閥維持が持論の麻生氏との間には隙間風が吹いたとされる。実際、それを受けて麻生氏は冒頭の発言をしている。

「派閥の解散について麻生さんへの相談は一切なく、翌日両名が口論になったほど。手打ちは行われましたが、側近は“麻生さんは岸田さんを見捨てた”と語っています。岸田さんを支えるというのが麻生さんのスタンスでしたが、今は上川さんなど別の選択肢もあるという腹になっています」

 ますますその力に注目が集まるのである。後編では、当初は「傍流の人」だった麻生氏が権力の座を上り詰めた過程について報じる。

「週刊新潮」2024年3月21日号 掲載