4月8日に門前仲町で開かれた会見で、乙武洋匡氏が正式に東京15区の補欠選挙への立候補を表明。自ら8年前の不倫騒動について反省の弁を述べるなど、初当選に向けただならぬ覚悟を滲ませた。だが、政界からは早くも「誰も法定得票数を上回れず、再選挙になるのでは」と訝る声が――。

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公認を巡る調整が難航

「“本日はまことにお忙しい中、これだけ多くの皆様に……”という原稿を用意していたんですけれども、その予想を超える皆さまにお集まりいただきまして……」

 スピーチの冒頭、乙武氏がそう挨拶した通り、会見場は報道陣で埋め尽くされ、世間の関心の高さを窺わせた。ただ、乙武氏に注目が集まるのは、その知名度もさることながら、肝心の公認を巡る調整が難航していることも理由となっている。

 政治部記者が解説する。

「今回の補欠選挙は、公職選挙法違反(買収)で有罪が確定した柿沢未途・前法務副大臣(53=自民党を離党)の辞職に伴うもの。ただでさえ裏金問題で逆風が吹いている自民党は、独自候補の擁立を見送り、『都民ファーストの会』に“相乗り”する形で、乙武氏を推薦する方針と報じられました」

 しかし8年前、自民党の推薦で参院選に立候補する予定だった乙武氏は、『週刊新潮』の「5人の女性との不倫関係」を巡る報道により、出馬を断念することに。

「過去の女性問題が、今も各党が推薦に二の足を踏む要因となっているのです」(政治部記者)

 事実、4月2日には自民党の茂木敏充幹事長が乙武氏を推薦する方向である、と記者団に明かしたにもかかわらず、未だに自民党内で意見がまとまっていないとされる。背景には、連立を組む公明党の支持母体・創価学会の女性部が応援に難色を示していることが影響していると言われている。

誰より歯痒く思っているのは乙武氏本人

 そんな混迷ぶりを反映してか、この日の会見も、どこか煮え切らなさが漂っていた。会場に貼られたポスターには

〈ファーストの会 副代表 乙武ひろただ〉

 と書かれているのに、会見で乙武氏は都民ファーストの会からの推薦について明言しなかったのだ。これも、

「自民など各党との調整がまとまっていないから、というのがもっぱらな見方です」(政治部記者)

 ただ、そうした事情を誰より歯痒く思っているのは当の乙武氏本人だろう。自ら“8年前の過ち”について言及し、

「もちろん、こうした私の言葉をなかなか素直には受け取ることができない。そう、お感じになる方々が少なからず、いらっしゃることも承知しています。8 年前の私生活における出来事は、今振り返っても恥じ入るばかりですし、深く反省もしております」

 と述べ、影響の払拭に努める場面もあった。

元妻と3人の子どもとは8年間やり取りなし

 しかし、たとえ8年前の出来事とは言え、妻と子どもを裏切り、5人もの女性と次々に不倫関係に耽っていたという負のイメージを消し去るのは容易ではないだろう。

 質疑応答ではこんな質問も飛んだ。

「2年前の参院選出馬も含め、こうした出馬の際には、 3人のお子さんや元の奥様に報告とか相談はされていらっしゃるのでしょうか」(記者)

 この質問に乙武氏は、

「もうすでに家族でなくなって 8 年が経っておりますし、先方も乙武の元妻であるというような見られ方は避けたいと思っているでしょうから、特に私の方から個人的にご連絡をするということは、前回も今回もしておりません。また日頃から連絡を取り合うということもしておりません」

 とした上で、

「3人の子どもに対する経済的な責任というのはしっかりと果たしておりますので、特段、それ以上のやりとりというのはこの 8 年間しておりません。私自身が様々な思いを飲み込んで、そうしたスタンスを貫いております」

 口数は少なく、その声や表情はあまりに暗い。「障碍者支援政策」への意気込みや、「政治とカネ問題」への怒りについて語る際のトーンとの落差に、乙武氏自身にとっても過去の清算が容易ではないことを窺わせるのであった。

8人の大混戦が予想されている

 出馬について、小池百合子・東京都知事から打診があったのは3月に入ってからだったと明かした乙武氏。

「私も少し意外だったんですけれども、SNS などを通じて、これまでの私の発言、また活動をチェックしてくださっていたようで、非常にそこに対して高く評価をしていただけていたことに、私自身、非常に心を動かされました」(乙武氏)

 ただ、「選挙にめっぽう強い」と言われる小池都知事の全面的なバックアップを受けてもなお、今回の選挙は一筋縄ではいかない。

 乙武氏以外に既に7人もの立候補予定者が乱立しており、その中には須藤元気氏をはじめ、乙武氏に負けず劣らずの知名度を持つ候補者もいる。

【立候補予定者】
●須藤元気(46)無所属 参議院議員(1期)・元格闘家
●秋元司(52)無所属 元自民党衆議院議員(IR汚職事件で起訴され上告中)
●金沢結衣(33)日本維新の会 元会社員
●小堤東(34)日本共産党 党地区委員長
●吉川里奈(36)参政党 看護師
●飯山陽(48)日本保守党 麗沢大客員教授
●酒井菜摘(37)立憲民主党 元江東区議

「ただ、決め手に欠けるというのが正直な印象です。ただでさえ候補者が乱立した状況で、本命視されている乙武氏に、万が一また何か不利なニュースでも出てしまったら、いよいよ票が割れて大混戦になる」(政治部記者)

当選に必要な最低得票数は約4万票

 前回、2021年の衆院選では、東京15区(江東区)の有効投票の総数は約24万票。この時は柿沢未途・前法務副大臣が32%の76,261票を得て当選。前々回、2017年の衆院選での有効投票の総数は約22万票で、この時は今回の補選への立候補を予定している秋元司・元衆院議員が45%の101,155票を得て当選している。

「公職選挙法では、“法定得票数以上の得票者がいない場合は再選挙を行う”と定められています。衆議院の小選挙区と、参議院の選挙区選出は、それぞれ法定得票数が“有効投票の総数の6分の1”とされています」(政治部記者)

 今回の補選に当てはめた場合、仮に有効投票数が前回と同じ24万票とするならば、必要な得票数は約4万票となる。

「乙武氏が順当に選挙を戦ったとしても、4万票を集められない可能性も。結果的に誰も法定の得票数をクリアできずに、再選挙にもつれ込む可能性もあるのでは、と話す永田町関係者もいるのです」(政治部記者)

デイリー新潮編集部