「先発ローテーション」に入るか…

 投手に転向して3シーズン目を迎える根尾昂(23)が、中日ドラゴンズの救世主になるかもしれない。立浪和義監督(54)が開幕投手に関する質問に答えたのは、キャンプ最終日も迫った2月26日だった。

「4人います。柳(裕也=29)と小笠原(慎之介=26)、メヒア(27)、(高橋)宏斗(21)です」

 立浪監督は3月半ばまでには決めたいとも語っていたが、オープン戦5試合を消化した3月3日時点でもまだ決まっていない。いや、決められないと言ったほうが的確かもしれない。

「自ら立候補しているのは高橋です。でも、キャンプ後半のシート打撃に登板しても、抜け球が多く、制球に苦しんでいました。立浪監督の評価が高かったのはウンベルト・メヒアでしたが、発熱があってチームを1週間ほど離れ、調整が遅れています」(名古屋在住記者)

 4人とも決め手に欠くようだが、指揮官が決断できない理由はそれだけではない。同時に6人の「先発ローテーション」も決めなくてはならないからだ。開幕候補の4人がローテーションに入ってくるのは間違いないにせよ、5、6番手はいまだ競争が続いている。

「根尾がオープン戦でチャンスをもらいました。2敗したものの(3月2日時点)、上(一軍)で投げさせているということは、立浪監督もそのレベルになったと認めている証拠でしょう」(前出・同)

 根尾が2度目の先発チャンスをもらったのは、3月2日。今季初の本拠地・バンテリンドームでのマウンドを託したことでも期待の大きさが窺えるが、結果は4回3分の1を投げ、被安打6、失点5。立浪監督は試合後、

「制球で課題が出た。良いボールもあったけど、精度を上げていかないとね」

 と、厳し目の評価だったが、周囲からはこんな声も聞かれた。

「前回の先発登板は2月24日でした。主力級の選手を調整させなければならないこの時期に、根尾に『中6日』での先発機会を与えているのです」(球団関係者)

 つまり“模擬・ローテーション”を体験させたわけだ。24日も4イニングを投げさせており、2日の課題は無失点に抑えることではなく、中6日での登板間隔を体に染み込ませることにあったのだという。

大阪桐蔭の大先輩が教えた変化球

「2日の投球内容ですが、暴投が2つ記録されました。この時期はドーム球場でも夕方の時間帯は寒くなるので肩へ負担がかかることもあり、根尾を庇う声も聞かれました。でも同日、ゼロに抑えていたら、立浪監督は開幕一軍の合格点を出していたと思います」(前出・名古屋在住記者)

 昨季は1試合も一軍登板のなかった状況を考えると、「開幕一軍」となれば大きな前進である。しかし、根尾自身の捉え方は違うようだ。今季からチームメイトになる大阪桐蔭高校の先輩・中田翔(34)が、興味深い「根尾評」を語っていた。

「ポテンシャルはすごく高いものを持っていると思うんで。後輩だから気にしていたけど、チームメイトになればなおさら」

 これは、系列新聞社の企画で、大阪桐蔭高校の大先輩に当たる今中慎二氏(52)との会談で出たもの。会談内では根尾を加えた3人で“OB会”を開いたことも明かしていたが、球団関係者の話を総合すると、根尾は「開幕一軍」「初勝利」程度では満足できない性格なのだという。目標を高く設定することは悪いことではないが、アダになることもある。

「根尾の持ち球は真っ直ぐとスライダー。150キロ強の球速がありますが、根尾はもっと速いボールを投げようとし、かつスライダーもウィニングショットになるまで精度を上げようとしています。どちらか一方を見せ球にするくらいのメンタル的な余裕があればいいんですが…」(前出・関係者)

 とはいえ、今年の根尾にはカーブという新たな武器も加わった。投げ方は分かっていた。大阪桐蔭時代の公式戦で投げたこともあるが、実戦レベルではないと判断していたのだろう。投手に専念した一昨年のシーズン途中以降も投げていない。だが、今春のキャンプで臨時コーチとして合流した今中氏が「フォロースルーを大きく」と助言すると、根尾のイメージする軌道に変わった。

「2月17日の練習試合ではそのカーブが決まり、DeNA打線を翻弄させました。110キロ台のカーブにタイミングだけでなく、体勢を崩されたバッターもいました」(前出・同)

 立浪監督は「今日は良く出来ました」と報道陣の前で根尾を褒め、その1週間後の24日の先発へとつながった。もっとも、この日もストライクかボールかがはっきりと分かる抜け球もあり、根尾自身も「今後の課題」に挙げていた。

開幕一軍もあり得るか

「今中氏から助言を受け、すぐに結果につなげられるところは大したもの。でも、完璧な人間なんていない。2、3球抜けた球があっても仕方ないんだけど、根尾は一つの小さな失敗が出たら、全てが失敗と解釈しているみたい」(前出・同)

 中田が認めた「ポテンシャルの高さ」でもあるが、完璧を求めすぎるために今の足踏み状態にもつながっているようだ。今中氏も心配していたが、根尾を「何とかしてやりたい」と思っているのは、大阪桐蔭の先輩たちだけではなかった。

「ファームでの全体練習が終わると、根尾はブルペンに行ってネット相手に投球練習をしてきました。ファーム担当の浅尾拓也コーチ(39)は、選手が質問してこなければ見守るという姿勢ですが、根尾が居残り練習に熱を入れすぎて、ストップを掛けたこともありました」(前出・名古屋在住記者)

 3月2日の降板後も根尾はブルペンに行き、投球練習を行っていた。

 即戦力投手として期待されていた草加勝(22)は右肘の故障でメスを入れた。ベテラン・大野雄大(35)も復帰に向けて調整中だが、開幕には間に合いそうにない。涌井秀章(37)、松葉貴大(33)らもいるが、調子が上がらず、先発ローテーション入りには決め手に欠く状態だ。序盤戦ではベストメンバーを揃えられないかもしれない。だが、その間は新戦力をテストする機会とも言える。

「根尾にチャンスを」と進言してくれそうなコーチ、スタッフは必ずいるはずだ。

デイリー新潮編集部