6億8000万円もの大金をスポーツベッティングで失うーー。賭博を禁じられている日本人からすれば水原一平氏のやったことは狂気の沙汰だろう。だが、ギャンブル大国アメリカではありふれた光景だ。水原氏が居住していたカリフォルニア州はポーカーが盛んで、「10分で4億円以上が動く」超高レート卓も立っている。メンバーには詐欺師まがいの人もいて…。

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スポーツベッティングが違法でポーカーが合法な理由

 水原氏がモグリのブックメーカー、マシュー・ボウヤー氏と知り合ったのは、2021年、カリフォルニア州サンディエゴのポーカーテーブルだった。

 同卓した元エンゼルスのデービッド・フレッチャー選手によれば、チームが宿舎に使っていたホテル内で行われた「プライベートゲーム」だったようだ。プレイベートゲームとは仲間内で自宅などに集まって開かれるゲームである。

 ロサンゼルス在住の日本人によれば、カリフォルニア州ではポーカーは合法で、このようなゲームはそこかしこで開かれているという。だが、スポーツベッティングは違法であることは今回の報道で周知の通りだ。なぜポーカーが許されてスポーツベッティングがダメなのか。

「カリフォルニア州では胴元とプレイヤーとの賭けを禁じているのです。一方、ポーカーは胴元が介在していたとしても寺銭を取るだけ。基本的にはプレイヤー同士が賭け合うゲームです。同州にはいくつものカジノがありますが、スロットマシンもなく、ポーカーテーブルで埋め尽くされています」(同)

たった10分で4億7000万円が動いたビッグゲーム

 プレイヤー同士の賭けならば健全なギャンブルなのかというと、まったくそうではない。

「ロス市内にある『ハスラーカジノ』は超高レートの勝負が開かれることで有名です。数千万円から数億円が動くゲームが頻繁に開催されています」

 同カジノではその模様を毎日のようにYouTubeで生配信しているが、アーカイブでは、尋常とは思えない金額をテーブルに置いて一喜一憂するギャンブラーたちの様子が閲覧できる。

 昨年5月、ポーカープロのトム・ドワンとヘッジファンド設立者のレスリーが繰り広げた大一番では賭け金が310万ドル(約4億7000万円)まで膨らんだ。レスリーが“オールイン”をすると、トムは5分以上悩み、最後は顔をしかめながら“コール”した。

 蓋を開けるとレスリーの手は“ブタ”でブラフだった。ブラフする方も受けて立つ方もどうかしている。レスリーはこの勝負で155万ドル(約2億3500万円)を失った。たった10分あまりで終わる勝負に、大卒サラリーマンの生涯年収を賭けるのである。

被害総額500億円の暗号資産トラブルを起こした日本人ギャンブラーも

 このような恐ろしいギャンブルをしている面々はいったい何者なのか。各々、会社経営者、カジノ経営者、投資家、暗号通貨で大儲けした人、プロギャンブラーなどと名乗っているが、中には当然、胡散臭い人間も混じっている。

 デイリー新潮が昨年6月に取り上げた日本人男性もその一人だ。男は被害者2万人、被害総額500億円もの暗号投資トラブルを起こした後、アメリカに逃亡した人物で、このカジノのハイレート卓の常連メンバーだった。

 しかも、堂々とYouTube配信されるゲームに参加。日本で裁判を起こしている被害者たちを激怒させた。ハスラーカジノでは勝っても負けてもニコニコ笑ってプレイする“グッドプレイヤー”として馴染んでいたが、数カ月後、忽然と姿を消した。

「資産家ぶって大金をかけ続けていましたが結局、破産。最後はプライベートゲームなどで総額50万ドル(約7500万円)もの借金を踏み倒して、ドバイに逃亡しました」(ロサンゼルス在住のポーカープレイヤー)

ボウヤー氏が見抜いた水原氏の“素質”

 まさにボウヤー氏のような魑魅魍魎がカリフォルニア州のポーカーテーブルには紛れ込んでいるのである。ポーカー好きでカジノディーラーまで目指していたと言われる水原氏が、実際にどのようなレートでポーカーに興じていたかはわかっていない。だが、前出のポーカープレイヤーはこう予測する。

「水原氏がボウヤー氏と出会ったポーカーゲームも、現役の大リーガーが参加していたのだからそこそこの高レートだったでしょう。いくら大谷翔平の通訳だからと言って、ボウヤー氏がちまちま数十ドル賭けている男を自分が運営するノミ賭博に誘うとは思えません。一緒のテーブルに座って水原氏のギャンブラーとしての“素質”を見抜いて誘ったのではないでしょうか」

 日本人の常識では計り知れない狂気のギャンブルが、海の向こうでは繰り広げられているのである。

デイリー新潮編集部