最も打撃が大きい若者たち

 中国経済は悪化の一途を辿っている。不況の元凶である不動産市場に復調の兆しがまったく見えない。

 中国政府が3月15日に発表した2月の主要70都市の新築住宅価格の平均は前月に比べて0.4%下落した。販売不振のため9ヵ月連続で低下し、価格の水準は3年9ヵ月ぶりの低さになった。だが、割高感が残っており、価格はさらに下がる可能性が高いと言われている(3月16日付日本経済新聞)。

 3月上旬に開かれた全国人民代表大会も景気回復に向けた具体的な対策が示されず、肩すかしに終わってしまった。

 経済の不振が続いている中、最も大きな打撃を被っているのは若者だ。

失業で加速する節約志向

 昨年12月の16〜24歳までの若者の失業率は14.9%と高止まりが続き、雇用市場の構造的な問題は解決されていない。今年の大学新卒者数は過去最多の1179万人になると見込まれており、職に就けない若者がさらに増えることは確実だ。

 このような状況に置かれた中国の若者が節約志向に走るのは自然の流れだ。クレジットカード離れが進み、最近の調査によれば持っているのは半数以下だ。「収入以上に使いすぎてしまうから危険だ」というのがその理由だという(3月16日付Record China)。

 クレジットカードを使って消費を謳歌していた若者の姿は今の中国にない。バブル崩壊後の日本の若者も節約志向が強まったが、中国の若者はそれをはるかに上回っている感が強い。

 中国の若者の徹底した節約ぶりを象徴しているのが、高齢者向けサービスに便乗する「高齢者あやかり消費」だ。

老人ホームに「入居」する若者

 中国の主要都市には高齢者の生活を支援する目的で安価な食事を提供する「老年食堂」が設置されている。そこで最近、若者の姿が目立つようになった。先行きに不安を感じる若者が200〜300円で腹一杯になる老年食堂の魅力に気づいたからだ。

 高齢者向けのカルチャースクールである「老年大学」に通う若者も急増している。費用が相場の半値以下と格安なことから、出費を極力減らしたい若者にとって人気の的だ。

 極めて家賃が安い「老人ホーム」に入居する若者の姿も見られるようになっている(2月15日付CGTN Japanese)。

 受け入れる高齢者側には「若者と交流することができて刺激になる」と好評のようだが、懸念する声も高まっている。中国が豊かになる前に高齢に入った国民への支援は不十分であり、若者の利用がさらに増えれば、本来の受益者がサービスを受けられなくなる可能性が高いからだ。貧しい若者と高齢者が「小さなパイ」を奪い合う事態が起きるのではという不安が頭をよぎる。

「恋愛、結婚、子供、家」を諦める

 個人消費を牽引する若者の節約志向が高まれば高まるほど、中国経済のデフレ化が進んでしまうだろう。

 中国では3年ほど前に、他者との競争を諦め、シンプルな生活を選択する、いわゆる「寝そべり族」が話題となったが、バブル崩壊でこの傾向が強まっている。

「四不青年」という四字熟語が昨年の流行語となった。この用語が意味するのは、恋愛、結婚、子供、家を諦める若者のことだ。自己防衛のために「4つの希望」を断念せざるを得なくなった若者に対して多くの共感が集まったと言われている。

「貧すれば鈍する」ではないが、日々の生活を暮らすのがやっとの中国の若者にとって結婚は「高嶺の花」だ。2022年の婚姻件数は前年比11%減の683万組と9年連続で減少し、ピークの2013年からは半減した。

 気がかりなの、男性よりも雇用環境が恵まれているとされる女性の間で「非婚主義」が広がっていることだ。「結婚は女性に不公平な制度だ」との不満がその背景にある(3月8日付ロイター)。

 恋愛離れも進んでいる。この傾向は女性に顕著であり、「現実の交際は面倒くさい」と称して人工知能(AI)との恋愛に夢中になっているという(2月13日付独ドイチェ・ヴェレ)。

 若者が結婚や恋愛に消極的になっていることは、少子化対策に本腰を入れ始めた中国政府にとって大きな障害だ。

絶望から「自由」を求めてタイへ

 国民の海外脱出が活発化していることも心配の種だ。

 中国から米国に渡る移民の急増が問題になっているが、若者の間ではタイへの移住がブームとなっている。ゼロコロナ対策の長期化など抑圧的な政策をとり続けた政府や「過酷でやりがいのない仕事」に絶望した若者が「自由」を求めて陸続きのタイに押し寄せている(3月4日付AFP)。

 国民の海外脱出の急増に危機感を覚えた中国政府は規制の強化に乗り出している(2月20日付ZeroHedge)が、祖国を離れる中国人の流れを止めることはできないだろう。

 若者の絶望がもたらす少子化と海外流出によって、中国の人口減少は今後さらに加速する可能性が高いと言わざるを得ない。

 人口動態は経済成長の鍵を握る最重要ファクターだ。この点が好転しない限り、中国経済が低迷から脱出することは不可能なのではないだろうか。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部