4年に1度の韓国の国会議員の総選挙の投開票が、4月10日に行われる。目下、大騒ぎになっているのが、野党の立候補者たちの「前科」と「犯罪疑惑」である。

 渦中の候補者の筆頭は、「祖国(チョグク)革新党」を率いるチョ・グク氏だ。日本では「たまねぎ男」としても知られている彼は、今年2月に控訴審で懲役2年を宣告された直後に出馬を宣言した。

 チョ・グク氏にはさまざまな疑惑がある。娘のソウル大学医学専門大学院の入試に提出する書類の偽造疑惑をはじめ、息子が受けたアメリカの大学のオンラインテストを代理受験させて高得点を得た疑惑、その息子が弁護士事務室でインターン活動をしたという証明書を虚偽取得し、名門大学の入試に提出した疑惑などだ。むけばむくほど次々と疑わしい事件が出てくるので「たまねぎ男」と呼ばれた。

 一般人の場合、控訴審で2年の懲役刑を宣告されれば、拘置所へ直行するのが通例だ。チョ・グク氏は上告しているため、有罪は確定していないものの、最高裁判所で判決が覆される可能性はゼロに近い。共犯の疑いを受けてきた妻と知人は全員、有罪が確定してもいる。

 ところが、裁判所はチョ・グク氏を拘束しない異例の判断を下した。彼は収監しなかった裁判所の配慮を、自分の政治活動に利用したのだ。尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領 と検察が、罪のない自分を弾圧していると主張し、大統領の弾劾と検察改革を主張して左翼野党の支持者に訴え出た。

 彼が新しく作った「祖国革新党」は、比例代表のみ立候補している。事前の世論調査では、保守与党の比例代表政党である「国民の未来」に続き、2位の支持率を記録した。4月2~3日の間に公表したある世論調査では、支持率30.3%を記録し、比例代表政党支持率1位になってもいる。

「祖国革新党」を多くが支持しているという結果は、日本でもニュースになっていた。 そして同党から立候補したメンバーの過去も、チョ・グク氏に負けず劣らず衝撃的である。

「飲酒運転1回、無免許運転3回の前科」を吹き飛ばす

 そのひとりは、「祖国革新党」の推薦候補4位であり、国会議員当選が有力視されているシン・ジャンシク氏。彼は、文在寅政権時代、弁護士としてラジオ放送に出演しながら認知度を築き上げていった(主に左翼政治に偏向した放送だったため、保守支持者からは非難されていた)。

 彼については、立候補を宣言した直後、2006〜2007年の間に飲酒運転1回、無免許運転3回の前科があることが判明した。こ保守政党の支持者の間では「放送ではあたかも世の中で最も正義なふりをしながら、飲酒運転の前科者だったとは」と非難が集まっている。

 ところが、そんなシン・ジャンシク氏の前科歴を吹き飛ばしてしまう事実が発覚する。その人物は、「祖国革新党」の推薦候補1位で当選が有力されるパク・ウンジョン氏。検事出身の彼女は、文在寅政権寄りの人物とされ、当時検察総長だった尹錫悦大統領に圧力を加えた一件では、政治的判断によるものという疑惑をもたれた。尹大統領が就任するや否や左遷されたことで、左翼支持者の間で「不当な弾圧」を受けた被害者として、名前があがっている。

 彼女の夫にまつわるスキャンダルが浮上したのは、推薦候補1位に指定された直後だった。立候補直後に情報を公開したことで、弁護士である夫のイ・ジョングン氏の資産が9カ月で41億ウォン(約4億5,948万円)も増えたことが明らかになったのだ。

 彼も元検事だが、2023年4月に退職後に弁護士事務所を開業しており、莫大な財産はその後すぐに築いていることになる。いったいどうやって築いたのか。保守与党やマスコミの追及の結果、大型のネズミ講事件と仮想通貨詐欺事件の被疑者の弁護を引き受け、巨額の受任料を受け取っていたことが判明した。彼が引き受けた詐欺事件は、被害総額1兆ウォン(約1,121億円)という巨額詐欺で、容疑者から被害者への返済は滞っている状況だ。

 彼は、検事在任当時に担当弁護士として契約し、弁護を引き受けてもいた。かつて検察改革の指揮をとっていたチョ・グク氏は、まさにこのような「前官礼遇」の撲滅を主張していた。にもかかわらず、自身の政党の第一候補の夫がこのありさまだったのだ。

 件の詐欺事件の被害者たちは、妻であるパク・ウンジョン氏の立候補取り消しと謝罪を要求した。保守与党はイ・ジョングン弁護士を「犯罪収益授受」疑惑などで告発し、検察は捜査に乗り出した。

大学生の娘に「11億ウォン」ローン

 野党ではほかに、「共に民主党」の京畿道安山選挙区から出馬し、かねてより激しい左翼系政治家として知られていたヤン・ムンソク氏が、家族ぐるみの詐欺疑惑で検察の調査を受けることになった。

 文在寅政権下では、不動産取引を抑制するため、銀行の住宅ローンの限度額を引き下げる融資制限政策が行われた。ところがヤン・ムンソク氏は、大学生の娘の名義で銀行から11億ウォン(約1億2,340万円)を借り入れ、ソウル市江南(カンナム)区の高級マンションを購入していた。大学生の娘がなぜ、文在寅政権下で11億ウォンも借りられたのか。銀行の監査部と金融監督院が調査した結果、娘が事業者であると虚偽の書類を作成し、融資を受けていたことが発覚。事業融資は事業目的以外に使ってはいけないが、その資金を高級住宅の購入にあてていたのだ。当の娘は住宅の購入直後に、カナダのバンクーバーに留学していたことも分かった。

 与党と野党はヤン・ムンソク氏に対し、立候補の辞退を求めた。しかし彼は辞退することなく、むしろ尹錫悦大統領と与党を攻撃する材料にした。結局、金融監督院も「不法詐欺」が明白だとし、調査結果を捜査機関に通知した。よってヤン・ムンソク氏は、仮に当選しても、家族全員に対する検察の捜査は免れられないといわれている。

“朴槿恵の父が慰安婦と関係した”

「共に民主党」では、京畿道水原市選挙区からの立候補したキム・ジュンヒョク氏も名誉棄損罪の疑いがもたれている。過去に左翼政治系ユーチューブに出演した際の発言が問題視されているのだ。彼は、朴槿恵元大統領の父親・朴正熙(パク・チョンヒ)元大統領が男性と経験をもっていたとか、日本軍に入隊したときに従軍慰安婦と関係をもったなどと、噂レベルの発言をしていた。「死者名誉毀損罪」である。彼はまた、韓国の名門女子大学である梨花女子大学の元総長が、生徒たちを「慰安婦」として売り渡したり、在韓米軍を体で接待をさせたりした、といった確証のない話も発信したのだ。

 これに対し、梨花女子大学同門会は4月4日、梨花女子大学のソウルキャンパスでキム・ジュンヒョク氏の候補辞退を要求する記者会見を行った。保守与党と女性団体は、彼を名誉毀損などの疑いで告発してもいる。

 さらにキム・ジュンヒョク氏は、2020年に女性秘書へのセクハラ疑惑で自らの命を絶った朴元淳(パク・ウォンスン)元ソウル市長に対し「名誉回復を必ずする」というコメントをSNSに投稿したことも明らかになった。保守与党は出馬辞退を要求するとともに「国会議員の立候補者ではなく、病院での治療が必要な人」と非難した。

立候補者587人のうち144人に前科歴

 韓国の国会議員は、たとえ当選しても、刑事裁判で禁固以上の有罪判決を受ければ、当選無効になる。しかし、国会議員になったとなれば、彼らに有罪判決を下すのは容易ではない。そのため、立候補を自ら取り下げようとしないのだ。

 今回の韓国の総選挙では、5つの政党の立候補者587人のうち144人が犯罪の前科者だった。特に飲酒運転の前科者は52人に達している。先に触れた不法融資疑いのヤン・ムンソク氏も、1993年に暴行、2004年に傷害罪で罰金刑の処罰を受けている。

 これだけ犯罪歴のある候補がいるにもかかわらず、左翼野党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)代表は、同党の立候補者の取り消しを考えていない。なぜなら彼自身も飲酒運転と公務員不法詐称、公務執行妨害疑惑などの前科4犯だからだ…。

 立候補者の4人に1人は前科歴。そんな選挙はまもなく行われる。

ノ・ミンハ(現地ジャーナリスト)

デイリー新潮編集部