エービーシー・マート(東京都/野口実社長)が4月12日に公表した2023年2月期連結決算は、売上高が対前期比18.9%増/前期から461億円増の2900億円、営業利益が同54.1%増/同148億円増の423億円、当期純利益が同74.1%増/同128億円増の302億円だった。売上高は2ケタ増、営業利益は5割増しとまさに絶好調で、1月11日の第3四半期決算発表時の見通しも大幅に上回った。投資家も同社の業績を好感、決算発表当日から1週間で株価は終値ベースで12.0%(7030円→7880円)も上昇した。

ABCマート外観

既存店売上高は12カ月連続で前期をクリア

 コロナ禍が収束に向かい、人々が控えていた外出・旅行を再開するようになった。結果として、靴の需要も勢いを取り戻している。

 入国者に対する水際措置の撤廃に伴い、インバウンドも戻りつつある。訪日観光客の単価は日本人より高いとされる。エービーシー・マートの知名度はとくにアジア圏で高く、ガイドブックで推奨店として取り上げられていることも多い。

 2年前、エービーシー・マートの2021年2月期は、コロナ禍に伴う外出自粛や東京オリンピック開催延期の影響が直撃し、売上高は同19.1%減と大きく落ち込んだ。2023年2月期は前期に続いての連続の増収増益で、コロナ前の売上を上回った。完全に勢いを取り戻し、再び成長軌道に乗った格好だ。

 23年2月期は既存店売上高も12カ月連続で前期実績を上回り、とくに2022年2月は39.8%増と驚異的な伸びを示した。通期累計(既存店ベース)の客数(同5.5%増)、客単価(8.1%増)のいずれも伸びた。

 ジャンル別では、レジャー・旅行向けのカジュアルシューズ、レディスシューズの売上増が大きく寄与。人気アーティストとコラボした企画アイテムや高価格のレザー系もヒットした。

 新規出店も積極的で、2023年2月期は郊外のショッピングモールを中心として47店舗を出店した。一方で、26店舗を閉鎖してスクラップ&ビルドを推進。期末時点における国内店舗数は1074に達する。

 国内事業(売上高同16.6%増)だけでなく、海外事業も好調で売上高は同24.3%増と高い伸び率をマーク。海外売上の比率は約32%まで高まっている。

盤石のエービーシー・マートが見据えるのは……

 通期決算と同時に発表した2024年2月期業績予想では、営業収益が対前期比7.4%増/前期から214億円増の3115億円、営業利益が同4.0%増/同16億円増の440億円、当期純利益が同0.5%増/同1億円増の304億円と増収増益計画する。達成すれば売上・利益とも過去最高だ。

 インフレ進行に伴う消費減退や世界的なリセッションが懸念されるものの、国内外ともに経済が正常化しつつあり、訪日観光客の大幅増も期待できる。

 こうした環境を踏まえ、2024年2月期は「Japan LIMITEDの発信」をテーマに各種施策を推進する。具体的には、日本でしか買えないオリジナル商品の充実・強化する。訪日観光客も含め、「ここでしか買えないアイテム」で顧客を引き寄せ、ライバルとの差別化を図ろうというわけだ。

 エービーシー・マートの好業績を支えてきたのは、「VANS(バンズ)」「Hawkins(ホーキンス)」といった人気海外ブランドの存在だ。いずれもエービーシー・マートが商標権を取得しており、企画・製造・販売といったサプライチェーンも同社に委ねられている。これらの商品群は粗利益率も高く、収益への寄与度も高い。

 そのほか、エービーシー・マートでは「NIKE(ナイキ)」をはじめとした有名ブランドとの共同開発アイテムに注力してきた。ライバル店には売っていないだけに、値下げ競争に陥る懸念も少ない。

 結果としてエービーシー・マートの収益性はライバルを圧倒し、小売業でも抜きんでて高い。1ケタ代前半が当たり前の業界にあって、同社の売上高営業利益率は15%近くに達する。

 これだけを見ると、靴販売は「おいしいビジネス」にように見えるが、エービーシー・マートがホーキンスと国内総代理店契約を結んだのは、前身の国際貿易商事時代で30年以上前にさかのぼる。ライバル店たちが「仕入れた靴を販売する」という“ラク”な商売に安住し、オリジナル商品開発には見向きもしなかった中で、エービーシー・マートは着実にノウハウを積み上げていったのである。

 同社が今期推進する「Japan LIMITEDの発信」においては、この路線のさらなる強化をめざす。この実現を具体的に裏付けるのが、「販売」「デジタルコマース」「出店」からなる3つの戦略だ。

 販売戦略では、健康ブームに乗ったアウトドア向け・スポーツ向けのアイテムはもちろん、アウトドアグッズや小物といった靴以外の品揃えも強化する。デジタルコマースでは、リアル店舗とオンラインの相互送客を図る。出店戦略では新規出店だけではなく、既存店舗の複合業態化も含める。

 靴専門店チェーンとして盤石の地位にあるエービーシー・マート。今後の同社の“一人勝ち”が続くのだろうか。次の打ち手に注目だ。

著者:棚橋 慶次