収穫したブロッコリー(写真:安井ファーム提供)

 2026年度からブロッコリーの「格」が上がることになった。農林水産省が、国民生活において重要だと認める「指定野菜」にブロッコリーを追加するのだ。“筋トレ民”からも愛されるブロッコリーは年々出荷量が増えているが、難点は調理にかかる手間。家庭ではブロッコリーをさばくことが敬遠されつつあり、大きな課題に直面しているという。ブロッコリー市場の最前線に迫った。

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 農水省によると、ブロッコリーの2022年の出荷量は15万7100トン。20年前の約2倍、10年前の約1.3倍と、着々と増え続けている。その背景には、健康志向の高まりによってビタミンやミネラルなど栄養豊富なブロッコリーに注目が集まっていることや、昨今熱を帯びている筋トレブームの影響があるとされる。

 ブロッコリーは野菜の中でもタンパク質を多く含むだけでなく、タンパク質を代謝して筋肉の合成を助けるビタミンB6が豊富で、“筋トレ民”にとっては心強い味方だ。実際、「ボディメイクを頑張るあなたに!」と銘打った、鶏むね肉とブロッコリー専門の飲食ブランドまで登場している。

「ブロッコリーの需要は、年々右肩上がりです」

 こう話すのは、石川県産ブロッコリーの3分の1を生産する農家「安井ファーム」(白山市)の広報担当・土田龍之介さん(35)だ。

安井ファームのブロッコリー(写真:安井ファーム提供)

■「生のブロッコリー」は敬遠されがち

 安井ファームがブロッコリー栽培を始めたのは03年。米どころである加賀地方の農家ということでもともとは米作りに励んでいたが、米を収穫した後の田んぼでも育てられる野菜としてブロッコリーに目をつけた。高い需要に後押しされ、近隣農家の田んぼを借りるなど畑を拡大し続けており、「今はブロッコリー農家と言っても過言ではないです」(土田さん)。

 農畜産業振興機構の担当者によると、ブロッコリーは水田転作にも向いている野菜だという。生産調整下で供給が飽和している米よりも野菜のほうが“もうかる”ため、米作り→野菜作りへのシフトを推進する自治体は多く、裏作や転作に適したブロッコリーの生産量は順調に増えてきた。

 しかし、ブロッコリー農家が直面している“課題”もある。共働き世帯の増加といった社会の変化によって、手間と時間のかからない料理がもてはやされ、包丁を使ってさばいたり、下ゆでしたりといった工程が必要な”生のブロッコリー”は敬遠されるようになったのだ。

 結果、スーパーの野菜売り場に並ぶホールのブロッコリーよりも、冷凍やカット処理された加工ブロッコリーのニーズが高まっているが、この状況は多くの農家にとって喜ばしいものではない。

「生鮮野菜として市場に時価で卸す場合、良いタイミングにあたれば高単価で買い取ってもらえます。一方で加工用ブロッコリーは、買い取り価格が一定でギャンブル性はないものの、単価が低めに設定されているので、卸したがる農家が少ないんです」(同機構担当者)

出荷されるブロッコリー(写真:安井ファーム提供)

■安い外国産との価格競争

 さらに、冷凍加工される場合は、メキシコやエクアドルなど外国産の安い冷凍ブロッコリーとの競争にさらされる問題もある。

 世界で流通しているブロッコリーの品種の大半は日本の種苗メーカーが手がけたものだといい、どの国のブロッコリーも品質にほとんど差はない。また冷凍技術も確立されており、畑近くの工場で収穫後すぐに急速冷凍されれば、十分な鮮度を保ったまま日本に届く。

 そこで同機構担当者は、日本の消費者に向けて、こんな“お願い”を呼びかける。

「冷凍ブロッコリーを買うときは、できれば顔の見える国産のものを応援していただきたい。国産のニーズが増えて生産量が増えれば、冷凍ほうれん草のように輸入品との価格差は縮まっていきます。また、冷凍品は手軽ですが、やはり生のブロッコリーのおいしさにはかないません。茎の部分も甘くておいしいので、ぜひ丸ごと食べてもらえたらうれしいです」

 ブロッコリーを丸ごと楽しむ方法は、前出の土田さんが運営する安井ファームのX(旧Twitter)で、数多く紹介されている。

 実は安井ファームは、7.7万人のフォロワーを抱えるインフルエンサー農家でもある。土田さんは“中の人”として、<茎の周りの固い部分は、ピーラーで取り除くか、あるいは加熱することでヌヴァっと剥がせるようになります>などと、日々ブロッコリーにまつわるお役立ち情報を発信している。

土田さんオススメのブロッコリーの茎の食べ方(安井ファームのXから)

■ブロッコリー農家オススメの調理法

 そんな土田さんオススメの、「ブロッコリー調理法」の一例がこちら。

<ブロッコリーの茎は外側のかたい部分を取り除き、スライスしてから、白だし(または麺つゆ)+ごま油少々に3時間漬けることで歯ごたえのあるおつまみとしてオッケーブロッコリーできます>

<ブロッコリーの葉っぱはケールのような感覚で、ベーコンと一緒に炒めていただくか、さっとゆでて酢醤油につけても美味しいです>

<上級者編になると「茎を薄くスライス、あるいは取り除いた皮のような部分をしゃぶしゃぶでいただく」といったものもありますが、こちらはおすすめというよりは「こんな食べ方もある」という程度のご紹介にとどめておきます>

 ブロッコリーが指定野菜となることが決まった今、土田さんは、「今まで以上に『おいしい食べ方』の提案に力を入れることで、ブロッコリーの消費量を増やしたい」と意気込んでいる。

(AERA dot.編集部・大谷百合絵)