自民党の二階俊博元幹事長

 自民党の二階俊博元幹事長(85)が3月25日に記者会見を開き、次の総選挙には出馬しないことを発表した。二階派の政治資金パーティーにまつわる裏金事件については語らず、質問した記者には「ばかやろう」と吐き捨てる場面も。党幹事長を歴代最長の5年2カ月務めた重鎮の“出処進退”発言がたったの10分程度。すべてをのみ込んでの幕引き引退か。さまざまな臆測が飛び交っている。

「派閥の元会計責任者と私の元秘書が刑事処分を受けています。すべて監督責任は私自身にある」

 二階氏はそう述べ、次の衆院選に出馬しないことで裏金事件の責任を取るとの考えを示した。

■なぜか林幹雄議員が代弁

 ただ、会見では政治倫理審査会に出席しなかった理由や裏金づくりの経緯などについては自分の口では語らず、付き添いのようにして二階氏の後ろに立っていた側近の林幹雄元幹事長代理が、

「いちいち政倫審に出なくてもわかってもらえる」

 などと答えていた。

 そして、次期衆院選の不出馬の理由について、

「年齢の問題か」

 と記者に聞かれると、

「お前もこの年がくるんだよ。ばかやろう」

 と食ってかかった。

「政界引退」を示唆するような内容だったが、二階氏が身を引くのかどうかについては明言しなかった。

 この日の夕方、岸田文雄首相は二階氏と会談した。

「国会審議がある多忙ななかで、時間をやりくりしてまで二階氏の労をねぎらった。二階氏の選挙不出馬の発表は、岸田首相にとっては追い風になることは間違いない」

 官邸関係者がそう打ち明ける。

 岸田首相が自ら申し出て出席した政倫審には、西村康稔、世耕弘成、下村博文、塩谷立の各氏も出席した。2022年4月に当時安倍派会長の安倍晋三元首相の指示で提案されたキックバック廃止の方針を、7月に安倍氏が死去した後、復活させるなどの協議をした4人だ。

 しかし、4人からは具体的な経緯などは語られず、それまでの説明に終始した。

岸田首相には追い風?となった二階氏の不出馬発表

 岸田首相は4人について、次の選挙で非公認もしくは党員資格停止という、想定よりも重い処分を課す方針を打ち出した。

 ある安倍派の衆院議員は、

「3月23、24日の土曜、日曜には、岸田首相の処分案に不満をもった4人の幹部や、その意を受けた議員があちこちに電話をかけて、『なんとか岸田首相に翻意してもらうように』と働きかけていたようだ。私にも幹部の一人から『岸田の処分はいったいなんだ』とすごい剣幕で電話があった。30分以上、岸田首相の悪口を言いまくっていた。『誰のおかげで総理になれたのかわかっているのか。安倍派のおかげだ』と言っていたのが印象に残っている」

 と明かす。同議員のスマートフォンにはメッセージも届き、

<岸田のむちゃくちゃさを森喜朗元首相にも言ってやる>

 との内容も入っていた。

■処分は党員資格停止が濃厚

 岸田首相もあまりの反発に、一時は、

「弁明を再度聞いてから判断する」

 と発言が後退した。そこへ二階氏の不出馬の報が飛び込んできたのだ。

「安倍派の4人を処分したところで国民は納得しません。政治資金収支報告書への不記載額では最高額の約3500万円だった二階氏も責任を取れとなります。そうなる前に辞めれば処分は回避できると、事前に岸田首相らと調整したうえで、選挙不出馬を決断したと聞いています。処分を受けなければ議員を辞めても影響力を残すことができる。安倍派の4人の処分にさまざまな横やりが入り、困っていた岸田首相にも恩を売れます。二階氏が辞めたのだから、4人にはより厳しい処分を課すことが当然という空気になってくる」

 とは二階派の国会議員の話。

 前出の安倍派の衆院議員は、こう話す。

「二階氏の決断で、自民党の党則から見ると3番目に重い党員資格停止になるとの見方が強い。ただそうなると裏金が1千万円を超すような他の安倍派幹部にも軽い処分とはいかず、それで新党結成となると困るので岸田首相も悩んでいるようだ」

 自民党で政務調査役を長く務めた政治評論家の田村重信氏は、

「二階氏は先手を打って自身の処分を避け、一方で岸田首相の応援にまわり、安倍派の4人に処分を下しやすい環境をつくった。二階氏が選挙不出馬なので、安倍派の4人には最低でもこれと同等か、それ以上に厳しい処分も出しやすくなった。だから、岸田首相は夕方にわざわざ二階氏と会談をしたのでしょう」

 と指摘した。

政治倫理審査会で弁明する西村康稔前経産相=2024年3月1日、国会内、代表撮影
衆院政治倫理審査会で弁明する塩谷立元文科相=2024年3月1日、国会内、代表撮影
衆院政治倫理審査会で弁明する下村博文氏=2024年3月18日、国会内、代表撮影
参院政治倫理審査会で弁明する自民党の世耕弘成・前参院幹事長=2024年3月14日、国会内

 二階氏にとって重要なのは地元の後継候補だ。記者会見では、

「地元の皆さんのご判断にお任せしております。(和歌山)県連にもこの旨、お伝えしたところ」

 と述べた。

 二階氏の和歌山3区は次の衆院選で「10増10減」の区割り変更の対象となり、現在の和歌山2区の大部分と一体になる。

 二階氏の秘書には長男と三男がついており、

「いろいろ問題はあるが、二階先生が引退となればどちらかが後継になるのは既定路線です」

 と自民党和歌山県連の幹部は話す。

■じわじわと効いてくる「過激ダンスショー」

 一方、以前から二階氏の選挙区を狙っていた世耕氏の動きも気になるところだ。

 これまで何度も衆院にくら替えするとの話が浮上していた。参院の任期は来年夏まで。くら替えするにも、参院選で出馬するにも党の公認が得られなければ、厳しい選挙になるのは間違いない。

 また、世耕氏には、元秘書と現秘書が関わった和歌山県での「過激ダンスショー」もボディーブローのように効いている。さかのぼれば、世耕氏が陣頭指揮をとった昨年4月の衆院和歌山1区の補選は、維新候補に大敗している。

 前出の田村氏は、

「安倍派が解散し、官邸の力が強くなるなかで、派閥も、森元首相ももう頼れないという現実をまずは直視すべきだ。そこに裏金事件があるので、世耕氏は新党だ、他の党に移籍だとか考えたとしてもとても無理。そんなことを考えずに、無所属で戦い勝ち抜かないと政治家として未来はない。他方で、岸田首相が捨て身で派閥解消を打ち出したことが、ひいては二階氏の不出馬にまでつながった。これで、岸田首相は安倍派4人を思い切って処分できるので、“低空飛行”の支持率を戻せるチャンスがきた。処分内容も報道より厳しくなる可能性もある」

 との見方を示している。

(AERA dot.編集部・今西憲之)