ミズノといえば「アイアン」のイメージが強いですが、最新モデルのドライバーはどんな性能なのでしょうか? ゴルフライターの鶴原弘高が、メーカー各社の新製品を比較試打して性能を検証する定例企画「ギアくら―Gear Comparison club―」第3回は、ミズノの最新ドライバー「ST-X 230」と「ST-Z 230」の2モデルの性能差を検証します。

新技術「コアテックチャンバー」を採用

 ミズノの「ST」は、もともとアメリカを中心に海外だけで展開されていたシリーズ。2000年モデルの「ST-200」からはワールドワイドモデルとして日本でも展開されるようになり、その最新作が2023年3月に発売された「ST-230」シリーズです。

左から「ST-X 230」と「ST-Z 230」ドライバー
左から「ST-X 230」と「ST-Z 230」ドライバー

「ST-230」シリーズには新たなテクノロジーが採用されていて、それがソールのフェース寄りに設けられた「コアテックチャンバー」。溝型の形状を埋めるようにウレタン樹脂がはめ込まれていて、その中にステンレス製の“鉄芯”が内蔵してある独自構造。これによってボール初速アップが図られています。また、従来どおりフェース素材にはミズノが“禁断の素材”としてアピールする「フォージドβチタン」が使われているのも特徴です。

ソールのフェース寄りにウレタン樹脂がはめ込まれ、その中にステンレス製の“鉄芯”が内蔵してある「コアテックチャンバー」
ソールのフェース寄りにウレタン樹脂がはめ込まれ、その中にステンレス製の“鉄芯”が内蔵してある「コアテックチャンバー」

 ドライバーに「X」と「Z」の2モデルが用意されているのは、従来のシリーズと同様。ヘッドの性能としては、球をつかまえやすい「X」に対して、叩いても左へのミスが出づらい「Z」というラインアップになっています。

デザインは似ているが、フェースの見え方はまったく違う

左から「ST-X 230」と「ST-Z 230」ドライバー。フェース向きは「X」はスクエア、「Z」はかなり右を向いて見える
左から「ST-X 230」と「ST-Z 230」ドライバー。フェース向きは「X」はスクエア、「Z」はかなり右を向いて見える

■構えてみると: 2モデルともヘッドのクラウン側にはカーボンの編み目が見えていて、それがフェースのトップライン側で黒になるようにグラデーション化されています。ヘッドの投影面積が大きめで安心感もありながら、カラーリングのおかげでカッコよくも見えます。このヘッドデザインは好印象です。

「ST-X 230」のフェースアングルはスクエア。フェース面のロフトがよく見えて、球が上がってくれそうな雰囲気もあります。それに対して「ST-Z 230」は、分かりやすいくらいのオープンフェース。ヘッドをソールした瞬間から、ボールを左に飛ばさないようなオーラを放っています。「ST-Z 230」は、ボールを右に打ち出したいフッカーには構えやすいでしょうが、スライサーなら打つ前から手ごわいモデルだと認識するでしょう。

弾道計測しながら兄弟モデルをインプレッション

ライター鶴原の感覚よりもボール初速がよく出ていた
ライター鶴原の感覚よりもボール初速がよく出ていた

■「ST-X 230」試打クラブのスペック:ロフト10.5度。シャフトは「Tour AD GM D」フレックスS■「ST-Z 230」試打クラブのスペック:ロフト9.5度。シャフトは「Diamana MM D」フレックスS 

「ST-X 230」を打ってみると

 打感は心地よく、ボールがフェースに食い付いているような感触が得られます。スイング中にヘッドを軽快に振り抜けるフィーリングがあり、単純にこれを「振りやすい」と感じるゴルファーも多いでしょう。ヘッドの挙動は極めてニュートラルで、つかまり感のあるストレート弾道を打ちやすい。とはいえ、ドローヒッターが手にしても左にしか飛ばせないモデルではなさそうです。重心距離が短めに設計されているおかげで、ヘッドをコントロールもしやすいのも特徴です。

 スピン量は多からず、少なからず。キャリーとランのバランスがいい中弾道が打ちやすくなっています。弾道計測数値を見ると、自分の感覚よりもボール初速がよく出ていました。ひょっとすると、これが新テクノロジー「コアテックチャンバー」の効果かも知れません。

「ST-Z 230」を打ってみると

 ヘッドをソールさせると、自然とフェースが右を向きます。その状態でヒットすると、当然のことながらボールは右に飛び出します。著者がニュートラルなスイングをすると、「ST-Z 230」はオートマチックにプッシュフェードになるようなモデルです。

 しっかりと球をつかまえるように意図して打っても、思ったほどヘッドがターンしてきません。インパクトエリアでヒール側が前に出ようとする動きが強く、静的にも動的にもフェースが左を向きづらい。ストレートドローではなく、プッシュドローを打ちたい人に合いそうなヘッド特性になっています。著者が弾道計測したときには、自分で無理に球をつかまえにいったせいで、逆に左に飛ばしてしまいました。

 スピン量は「ST-X 230」よりも少なく、強く前へと飛ばしやすい。打ち出しから球を上げられる人でないと、むしろドロップしてしまう危険性までありそうです。

ミニドライバーに興味がある人は「ST-X 230」を使うべき

 ドライバーに苦手意識を持っている人のなかには、高慣性モーメント化された現代的なヘッドに振りづらさを感じている人が一定数います。そんなゴルファーがアイアンと同じような感覚で振ることができて、なおかつ飛ばせるようなモデルとして開発されているのが「ST」シリーズです。そのためミズノのドライバーは、ヘッドの重心距離を短く設計しているのが大きな特徴。今の市場にあるモデルのなかで、こういった短重心距離のドライバーは希少な存在といえます。

「ST-X 230」は、重心距離の短さによるメリットが存分に感じられるモデルです。振りやすく感じられるし、ヘッドの挙動もコントロールしやすい。また、前作に比べるとボール初速を出しやすくなっているのも高評価のポイント。海外メーカーの宣伝と人気に押され、そもそもミズノのドライバーに興味を持っている人は少ないのですが、実際に打ってみると、このヘッド特性がハマるゴルファーも多いはず。個人的には、今、最も過小評価されているモデルがこの「ST-X 230」だと思っています。

 今どきのドライバーはヘッドの操作性の良さを重心深度の浅さで演出しているモデルがほとんどです。でも、そういったモデルはヘッド挙動がピーキーで扱いづらい。その点、「ST-X 230」はヘッドが機敏に動きすぎず、扱いやすさも担保されています。現代的なドライバーが苦手で小ぶりヘッドのミニドライバーに手を出すような人にも、著者はこの「ST-X 230」をオススメしたい。物理的にヘッドは大きいほうが、スイートリアも広いからです。

「ST-Z 230」は、見た目以上に「ST-X 230」との性能差が大きいモデル。端的にいうと、「ST-Z 230」はハードヒットできるプッシュドローが持ち球の人向けで、絶対に引っかけたくない人向け。こういう性能のモデルは他メーカーにもあるし、前述した重心距離うんぬんのメリットも「ST-Z 230」にはあまり感じられません。こちらは、ミズノらしい打感の良さに魅力を感じるフッカーだけが使うべきモデルといえそうです。

 幅広いゴルファーにフィットさせるべく、ミズノはメーカー標準シャフトとして30グラム台から60グラム台まで重量帯別に4種類ものラインナップをそろえています。これは喜ばしいことなのですが、肝心のヘッドは「ST-X 230」が10.5度のみ、「ST-Z 230」は9.5度のみというワンロフト設定になっています。これは従来の「ST」シリーズから続いている良くない伝統。ネックの調整機能でロフト変更が可能とはいえ、どうしても腑に落ちない部分です。

試打・文/鶴原弘高つるはら・ひろたか/1974年生まれ。大阪出身。ゴルフ専門の編集者兼ライター。仕事のジャンルは、新製品の試打レポート、ゴルフコース紹介、トレンド情報発信など幅広く、なかでもゴルフクラブ関連の取材が多い。現在はゴルフ動画の出演者としても活躍中。ギア好きゴルファーの会員制コミュニティサイト『3up CLUB』(https://3up.club/)では、配信される動画のキャスター兼編集長を務めている。Instagram :tsuruhara_hirotaka

鶴原弘高