2018年7月10日、業界2位の「出光興産」と5位の「昭和シェル」が経営統合を発表しました。2014年に持ち上がった大手同士の統合計画は、当初反対した出光創業家の理解を得て3年越しにやっと成就しました。

再編が相次いだ石油元売り

出光興産のような大手石油会社は「石油元売り会社」と呼ばれることがあります。あまり聞きなじみのない言葉ですから、混乱する人もいるかもしれません。

単に石油会社という場合、石油に携わる広範な企業を指すことが多い傾向にありますが、特に石油元売り会社という場合、販売網を通じて石油製品を運送業者や工場などの需要家に販売する会社を指すことが一般的です。大まかに自社の製油所で精製から行う企業と、他の石油精製会社から石油製品を調達して販売する企業があります。

石油元売りは再編が顕著に進んだ業界の1つです。背景には石油製品に対する需要が低迷し、生産設備の稼働率が低下するようになったことが挙げられます。政府も過剰設備の削減に動いたこともあり、業界で提携や合併の動きが活性化しました。1985年に12社あった石油元売り会社は、現在ではその多くが大手3社に集約されています。

【石油元売り大手3社の概要】

 

出所:エネオス「石油便覧」および各社の決算短信

石油元売り会社はどんな仕事をしている?

石油元売り会社は、大まかに言えば海外から調達した原油をガソリンなどの石油製品に精製し、それを販売するビジネスを展開しています。このためタンカーや石油製品の精製工場といった大規模な設備を持つほか、広く販売するための大きな流通網も備えています。

また石油元売り会社は化学メーカーとしての面も持っています。原油は石油ガスやガソリンといった燃料に精製されますが、その過程で生まれる「ナフサ」はさらにエチレンといった基礎的な製品に分解され、誘導品(中間品)を経て多種多様な製品の原料に生まれ変わります。あなたの身の回りにも石油由来の製品がきっと見つかるでしょう。ちなみに出光興産は、エチレンでトップクラスの生産能力を持つ企業です。

【ナフサの主な用途】

 

出所:石油化学工業協会 石油化学製品はこうしてつくる

【エチレンの年間生産能力上位5社(2020年末時点)】
・出光興産:99万7000トン
・ENEOS:89万5000トン
・京葉エチレン:69万トン
・昭和電工:61万8000トン
・三井化学:55万3000トン

出所:石油化学工業協会 主要石油化学製品のメーカー別生産能力

このように石油ビジネスの裾野は広く、燃料の需要家である発電所のほか、他の化学メーカーの工場も石油精製工場の周辺に集積される傾向にあります。こうして形成される大規模な工業団地を「コンビナート」と呼び、原油を運ぶタンカーが利用しやすいよう沿岸部でよく見られます。

原油価格の上昇で石油元売り会社の利益が増加する理由

近年は原油価格の上昇を受け、石油元売り会社の利益が増加傾向にあります。出光興産も2022年3月期に最高益を更新しました。しかし翌期は原油の値段が下落したことから最終利益は約9%減少しており、2024年3月期も6割の大幅な減益予想となっています。

【出光興産の業績】

※2024年3月期(予想)は、2023年3月期時点における同社の予想

出所:出光興産 決算短信

石油元売り会社は原油を仕入れて製品を作るわけですから、原油価格が安い方が利益に結び付きそうです。しかし実際には逆の動きとなりました。なぜこのようなことになるのでしょうか。

原因は、石油元売り会社の備蓄が関係しています。石油会社は法令や事業上の制約から、在庫として大量に原油を備えています。そのため、原油の値段が上がると在庫に評価益が生じるのです。出光興産も最高益を達成した2022年3月期では、前期に75億円だった在庫評価益が2330億円にまで拡大しました。

また原油価格の上昇は一般に石油製品の価格を押し上げる傾向にあるため、仕入れと販売の価格差が拡大し利益が増加する効果もあるでしょう。このような理由から、原油価格が上昇すると石油元売り会社の利益が増えると考えられます。

【原油価格と出光興産の四半期営業利益(2022年3月期)】

Investing.comおよび出光興産 決算短信より著者作成

執筆/若山卓也(わかやまFPサービス)

証券会社で個人向け営業を経験し、その後ファイナンシャルプランナーとして独立。金融商品仲介業(IFA)および保険募集人に登録し、金融商品の販売も行う。2017年から金融系ライターとして活動。AFP、証券外務員一種、プライベートバンキング・コーディネーター。