イオンがついに売り上げ10兆円が視野に入りました。流通企業で10兆円の売り上げはセブン&アイHDに続いて2社目です。積極的な出店とM&Aで規模を拡大し首位のセブン&アイHDを追い上げています。

【イオンの業績】

   売上高    純利益  
 2023年2月期 9兆1168億円 214億円
 2024年2月期 9兆5536億円 447億円
 2025年2月期(予想) 10兆0000億円 460億円

※2025年2月期(予想)は2024年2月期時点における同社の予想

イオンは「JPXプライム150指数」メンバーの1人です。市場評価性(PBR基準)の高さから指数に採用されました。

イオンの概要と今期(2025年2月期)の見通しを押さえましょう。また2024年2月に発表したツルハHD子会社化のスケジュールも紹介します。

流通の代表格、金融や不動産も収益源 海外はアセアンを重視

イオンは多様な業態を展開する総合小売業です。中核業態は総合スーパーとスーパーマーケット、ディスカウントストアです。M&Aを通じドラッグストアや専門小売店も取得してきました。

また非小売事業として銀行やクレジットカードなどの金融業や、商業施設でテナント料を得る不動業も展開しています。連結子会社の数は300社超、従業員は16万人に達しています(2023年2月)。

【セグメントの状況(2024年2月期)】

           主な子会社 売上高    
 GMS  イオンリテール 3兆3893億円
 SM  ダイエー、いなげや、ミニストップ 2兆7821億円
 DS  イオンビッグ 4004億円
 ヘルス&ウエルネス  ウエルシアHD 1兆2351億円
 総合金融  イオンフィナンシャルサービス 4835億円
 ディベロッパー  イオンモール、イオンタウン 4683億円
 サービス・専門店  キャンドゥ、ジーフット 7974億円
 国際  イオンストアーズ香港 5087億円

※GMS:総合スーパー、SM:スーパーマーケット、DS:ディスカウントストア

かつてイオンは流通首位の地位を占めていました。しかし2021年度に売り上げでセブン&アイHDに追い抜かれています。セブン&アイHDが米コンビニのスピードウェイを取得したためです。連結でイオンの売り上げを上回り、差は翌年度に2兆7000億円まで拡大しました。なお、今期(2025年2月期)は1兆2500億円にまで縮まる見込みです。

出所:各社の決算資料より著者作成

地域別で見ると、イオンの国内の売り上げはセブン&アイHDの3倍です。しかし海外ではセブン&アイHDに大きな差を付けられています。イオンは最重要国に位置付けるベトナムのほか、マレーシアやカンボジアで出店を進め海外を強化しています。

【イオンとセブン&アイの地域別売上高(2024年2月期)】

        イオン     セブン&アイ 
 日本 8兆7393億円 2兆9006億円
 海外 8142億円 8兆5712億円
(参考)連結 9兆5536億円 11兆4718億円

※セブン&アイの海外のうち米国:8兆1376億円

出所:各社の決算短信

今期は利益も過去最高 上場50周年の記念配当も予定

今期(2025年2月期)の見通しはどうなっているのでしょうか。

イオンは今期に売り上げ10兆円を計画しています。全セグメントで増益を予想しており、連結の各段階利益でも増益を見込んでいます。計画通りなら、営業利益と経常利益は過去最高を更新します。

【業績の見通し(2025年2月期)】
・売上高:10兆円(+4.7%)
・営業益:2700億円(+7.6%)
・経常益:2600億円(+9.5%)
・純利益:460億円(+2.9%)
※()は前期比

今期計画には想定される費用の増加分も反映されています。前期比で人件費は650億円、水道光熱費は100億円、物流費は40億円の増加を見込みます。人件費には戦略的な積み増し分500億円も含まれます。

近年は特に人件費の上昇が顕著です。2024年2月期は前期比で800億円以上増加しました。今期も人件費の増加を見込みますが、増加幅はやや緩やかになる見通しのようです。

成長投資も拡大させます。

イオンは今期に5000億円〜5500億円の投資を計画しています。前期は3962億円で、中期経営計画(2021年度〜2025年度)の期間中は平均して4000億円〜4500億円を投じる計画でした。

投資の内訳は店舗に75%(国内50%、海外25%)、デジタル・物流に25%です。海外の出店を進めるとともに、国内はネットスーパーや店舗のデジタル化を強化し、収益の向上を図ります。

また、今期は記念配当の予定もあります。

イオンは1974年9月に上場しており、今期は上場50周年にあたります。それを記念し、上乗せの配当金を出す予定です。

予想配当額は1株あたり40円です。2024年5月10日終値(3336円)で計算した配当利回りは1.2%となります。

【予想配当(2025年3月期)】

      中間   期末   通期  
 普通配当 18円 18円 36円
 記念配当 2円 2円 4円
 合計 20円 20円 40円

ツルハ子会社化を発表 好採算のドラッグストアで利益率改善へ

イオンを巡ってはツルハHDの子会社化も話題です。

イオンとウエルシアHDは2024年2月、ツルハHDと経営統合に向け協議を開始したと発表しました。一連の取引を経て、最終的にツルハHDはイオンの連結子会社、ウエルシアHDはツルハHDの完全子会社となる内容です。合意は遅くとも2027年末までの締結を目指しています。

ウエルシアHDはドラッグストア業界で首位、ツルハHDは2位の企業です。統合が実現すれば売上高2兆円を超える企業連合が誕生します。

【主なドラッグストア企業の売上高(2023年度)】
ウエルシアHD:1兆2173億円
・ツルハHD:1兆0330億円(※)
・マツキヨココカラ:1兆0225億円
・コスモス薬局:9160億円(※)
・スギHD:7445億円
※ツルハHDとコスモス薬局は第3四半期時点の予想、その他は実績

出所:各社の決算短信

ドラッグストアは好採算の事業です。イオンの小売事業において、ドラッグストアのヘルス&ウエルネスは営業利益、営業利益率ともに最大です。

イオンは2025年度までに営業利益3800億円、営業利益率3.5%を目指しています。2023年度の実績はそれぞれ2508億円、2.6%でした。利益率の高いドラッグストア事業を強化し、目標の達成を目指します。

なお、統合に先立ってイオンは香港の投資ファンド、オアシス・マネジメントからツルハHDの株式を取得します。取得は2024年3月を予定しており、議決権比率は19.9%に達する見込みです。

法令の許認可等を得られれば、イオンはツルハHD株式を追加取得します。追加取得で議決権比率は27.2%に達し、ツルハHDはイオンの持ち分法適用子会社となる見込みです。

持ち分法適用子会社となった場合、ツルハHDの経営成績はイオンの営業外損益に反映されるとみられます。統合の最終的な合意は2027年末までとしていますが、ツルハHD取得の影響はそれより早く表れそうです。

文/若山卓也(わかやまFPサービス)