■中長期の成長戦略



1. 中期事業計画-Vision2023-

戸田工業<4100>は2021年8月に、2023年の創業200周年を念頭に3ヶ年の中期事業計画「Vision2023」(2022年3月期~2024年3月期)を発表、数値目標として2024年3月期に売上高365億円、営業利益23億円を掲げた。「Vision2023」の進捗状況は、2022年3月期実績で計画値を超え、営業利益は最終年度の計画値を上回った。しかし2023年3月期は、原材料の高騰や為替の円安傾向のほか、自動車生産の回復の遅延、ウクライナ紛争によるエネルギー価格の高騰など、同社を取り巻く環境が激変し、売上高は計画値を上回ったものの営業利益は大幅未達となった。さらに2024年3月期は戸田聯合の除外影響、LIB用材料を扱う戸田アドバンスマテリアルズの不振、景気減速で伸び悩み、期初計画に対し2度の減額修正を余儀なくされ、目標には大きく及ばない結果に終わる見通しである。



このため同社は、200年の歴史に学び未来を切り開くため原点に回帰し、収益基盤事業である機能性顔料の付加価値を高め、用途を広げる。その上で高品質な磁石材料や誘電体材料、LIB用材料を成長事業と位置づけ事業拡大を図る。パーパス「微粒子の可能性を、世界の可能性に変えていく。」を掲げ、次期中期経営計画(2024年5月公表予定)で新たな再生を目指す。



2. 戦略4事業

(1) 磁石材料

磁石材料は従来用途に加え、自動車用途に適した耐熱性の確保を目指し、素材開発、サプライチェーンの強化を図る。中心となるボンド磁石材料は、複写機・プリンターなどのマグネットロール向け、エアコンのファンモーターなどで利用されているが、今後は特に自動車用の希土類ボンド磁石の拡大が期待される。現在EVが普及しつつあるが、EVではモーターコアのローターに磁力の強いネオジウム磁石が使われており、同社の希土類ボンド磁石はEV用電動ウォーターポンプ(EWP)向けに拡大が期待される。EVにおいては内燃機関と異なり、バッテリーの温度とモーターの冷却、熱風の管理、吸気インタークーラーからの熱の調節などシステムの性能を維持するために効率的な熱マネージメントが必要で、その中心的な役割を果たすのがEWPとなる。EWPには軽量化、軸インサート成形が可能なボンド磁石が多く使われているが、高温対応や耐環境性、高磁気特性の要求が高まり、高性能な希土類ボンド磁石の需要が拡大している。すでに同社のボンド磁石全体での希土類ボンド磁石の売上構成比は30%まで高まっている模様であるが、さらにこの比率が高まろう。なお2022年には、ボンド磁石材料の1つであるフェライトPPS※コンパウンドの設計を見直し、新たな製品を開発した。具体的には、樹脂の配合割合を工夫し、従来品よりも1.25倍高い靭性を有し、高温での連続使用に対する耐久性も優れた製品で、EVのEWP向けをメインターゲットとしている。ちなみに最近発表されたQY Research(株)のEV用EWP市場予測では2022年が約11.5億ドル、現在はボッシュ、コンチネンタル、デルファイ、ジョンソンエレクトリックなどでシェア5割超となっており、これが2029年には46.1億ドルと年率20%の伸びで拡大するとのレポートが出されている。日本でのEV本格拡大で今後、日系ポンプメーカーの拡大が見込まれるため、売上拡大が加速してこよう。また射出成形時に金型を腐食するガスを9割削減するフェライトPPSコンパウンドも開発した。金型の寿命を伸ばすことで金型メンテナンス費用を抑制できる製品である。自動車用モーター・センサーの部品だけでなくエアコンの部品にも利用可能で、用途開発にも力を入れている。なお、磁石成形事業会社である江門協立の買収により、素材から部品加工まで一貫生産体制が構築されるなどシナジー効果も見込まれ、磁石事業の収益性向上が見込まれる。



※ポリフェニレンサルファイド樹脂:耐熱性、化学耐性、電機絶緑性などに優れた複合材料。





中期事業計画では2024年3月期に磁石材料で100億円を目指していたが、2023年3月期には磁石材料の売上高が114億円まで高まった。2024年3月期は江門協立買収による増分も含め120億円を目指している。世界のボンド磁石市場はEVの普及で拡大しており、同社も2025年3月期以降の成長加速に期待がかかる。



(執筆:フィスコ客員アナリスト 岡本 弘)