●上々のプレシーズンから一転…。浦和レッズの厳しい船出

明治安田J1リーグ第2節、浦和レッズ対東京ヴェルディが2日に行われ、1-1の引き分けに終わった。ここまで2試合を戦った浦和が奪ったゴールは、この試合におけるPKによる1点のみ。豊富なタレントが揃う攻撃陣を、ペア・マティアス・ヘグモ監督はなぜ活かせていないのだろうか。(取材・文:元川悦子)
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 清水エスパルスで3年連続2ケタゴールのチアゴ・サンタナやノルウェー代表のオラ・ソルバッケン、スウェーデン代表のサムエル・グスタフソンら外国人選手に加え、個の打開力に秀でた前田直輝、マルチロールの渡邊凌磨、ベルギーから戻ってきた松尾佑介など有能な新戦力を大量補強した浦和レッズは、2024シーズンのJ1優勝候補筆頭と目されていた。今季から就任したペア・マティアス・ヘグモ新監督の戦術浸透もスムーズで、プレシーズンの練習試合も全勝と、前評判が非常に高かった。

 しかしながら、ふたを開けてみると、2月23日の開幕節ではサンフレッチェ広島に0-2の完敗。まだ初陣とはいえ、チーム全体に危機感が高まった。ただ、3月3日の第2節の相手・東京ヴェルディ戦はJ1昇格組。総合力では浦和の方が優位なはず。それを実証するためにも、内容ある勝利を手に入れることが必要だった。

 指揮官が送り出したスタメンは広島戦と全く同じ。だが、松尾祐介と関根貴大の左右のウイングのポジションを入れ替えた。前回ノッキングを起こした松尾がより能力を発揮しやすいように、本職の左に配置したのだろう。

 これで浦和のサイド攻撃が活性化されると期待されたが、東京Vの城福浩監督は松尾と関根を簡単に前を向かせないように対応させた。さらにチアゴ・サンタナのところも谷口栄斗と林尚輝の両CBが厳しく寄せて、ボールを入れさせないような守備組織を構築したのだ。

●「重要なプレーが少し欠けていた」ヘグモ監督が指摘したのは…

 浦和としては、アレクサンダー・ショルツとマリウス・ホイブラーテンの両CBとアンカーのサミュエル・グスタフソンの3人に対し、相手のマークが染野唯月と木村勇大の両FWの2枚ということで数的優位に立てたため、そこでは余裕あるパス回しはできたのだが、そこから前につけることがうまくできない。

 グスタフソンもポジションを変えて、前に飛び出したりしたが、強固なブロックをこじ開けるところまではいかなかった。

 結局、前半のチャンスらしいチャンスは、松尾がルーズボールを拾って左からフィニッシュに持ち込んだ21分のシーンくらい。逆に42分に相手のリスタートから木村に華麗な反転シュートを決められ、1点のビハインドを背負った状態で試合を折り返すことになってしまった。

「相手の裏のスペースを使いたかったけど、なかなかうまくいかなかった。相手の両サイドバックがウイングになかなか見ないくらいのガッチリマークがついていたんで。でもCBとSBの距離を空いていたし、スペースがあったので、もう少しボールを入れられていたらよかったし、誰かがランニングをするとか工夫が必要だった」と松尾は反省点を口にしていた。

 ヘグモ監督も「前半はインサイドハーフの裏抜けという重要なプレーが少し欠けていた。ウイングも背後に抜けて相手の脅威になるという場面が少なかったので、相手にとって守りやすいプレーになってしまった」と指摘した。新たなメンバーの多い前線の連係面が確立されていないことも、こうしたギクシャク感の要因と言える。

 とにかく「前半シュート数1本」というのは今の浦和が求めるところではない。攻撃面はいち早い改善が求められた。

●興梠慎三が感じたギクシャク感の要因

 後半に入ってからもしばらくは形が作れなかったが、変化が起きたのは、61分に興梠慎三、岩尾憲、大畑歩夢の3枚が投入された後。彼らの有効な動きによって敵を揺さぶる形も増えてきたのだ。

「外から見ていて、アタッキングサードまで攻めが行っていないという気がした。横パスが多すぎて相手にハメられる場面が多いし、真ん中でコンビネーションを作らないと、数的優位を作れないし、いい攻撃ができないと僕自身は思っていた」と興梠もストレートに言う。

 そこで彼はクサビのパスを受けて、ワンタッチで落としてサイドに展開する意識を鮮明にした。それは岩尾や大畑も同様だった。この3枚替えとその後の中島翔哉の出場によって、リズムは確実によくなっていったのだ。

 さらに終盤は4−4−2にしてパワープレーに打って出た。1点を取るためにはなりふり構ってはいられないということだったのだろう。それが奏功したのが87分。左に開いた中島のクロスに興梠が飛び込み、こぼれ球に反応した大畑が相手右SB山越康平に倒され、PKをゲット。これをショルツが確実に決め、1−1にドローに持ち込むことに成功する。浦和としてはホーム開幕戦で勝ち点1を確保。最悪の事態を回避したと言っていいだろう。

 ただ、最終的に浦和のシュート数は6本にとどまっており、攻撃の迫力不足が大いに感じられた。これだけのタレントが揃っているのに、躍動感ある攻めを繰り出せないのは気がかりだ。そこは興梠も語っていた点だ。

●「内容が悪い…」「今は厳しい状態」

「開幕も負けて、今回も内容がいい引き分けだったらまだ選手たちも気持ちの切り替えが簡単にできるけど、内容が悪いのは正直言って心配。今はちょっと厳しい状態かなっていうのはありますけど、でもそんなにナイーブになることではない。いい選手は沢山いるので、1つ勝ちが取れればまた変わってくると思います」と37歳の大ベテランは前向きになることの重要性を強調していた。

 そのためにも、選手1人1人が敵陣に迫っていく意識をより高めていく必要がある。今はヘグモ監督の新たな戦術を理解し、実践することに頭が行っている部分が大なのだろうが、それに囚われてしまっていたら、得点力アップは見込めない。松尾もそう指摘していた。

「『ボールが入らない入らない』と言ってますけど、要求していくことや少し無理して強引に行くっていう姿勢が僕自身もイマイチ見せられていない気がします。怖さもそうだし、『アタックしていくんだ』っていう気概があんまりないと言うか。そのあたりがチームとしてうまくいってない要因かなと感じます。

 それに今はシステマチックすぎる。もう少し選手がピッチ内で判断することがあってもいい。今は簡単に言うと相手にとって対策しやすい状況になっている。戦術を浸透させる段階なんで難しいけど、いい意味で自分で崩していくことも大事だと思います」

 それはチーム全体の共通認識ではないか。選手個々が意識を高め、自らアクションを起こして敵を剥がし、アタッキングサードに入る回数を増やすことで、ゴールに近づいていくはず。10日の次戦・北海道コンサドーレ札幌戦に向け、浦和がどこまで前向きな変化を起こせるか。その動向を注視したい。

(取材・文:元川悦子)

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