「MT-28」「MTIウェッジ」など数々の名器を世に送り出し、日米両ツアーで多くのプロ支給品を手がけてきたクラブ設計家、宮城裕治氏が流行に惑わされないクラブ選びとクラブ設計の真実をクールに解説。今回は60度ウェッジのメリットとデメリットについて教えてもらった。

60度ではボールが飛ばない

み:石川遼選手は昨シーズン、43度、48度、52度、56度、60度とウェッジ5本体制で戦っていました。一時期は62度を使ったという話もあります。しかし、今季開幕戦はアイアンのPWの下に50度、54度、58度のオーソドックスな3本体制になりました。やはりプロでも60度よりも58度のほうが使い勝手がいいのですか?

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宮城:遼くんには今ごろ気付いたのかと言いたいですね(笑)。62度や60度はコンパクションの軟らかい日本のグリーンではほとんど必要ありません。もし必要な状況であれば58度を開けばいいだけです。

み:去年はどのロフトを使うか悩むことがあったけれど、基本の58度に戻ったことでアプローチがシンプルになったとも話していました。

宮城:元々彼は遊び感覚でフェースを開いたり閉じたりして打つのが上手かったんです。そういうイマジネーションと結果が一致するのが58度なのでしょう。アマチュアもプロのセッティングをそのまま真似るのではなく、得意クラブがあればそれを生かすセッティングを考えたほうがいいと思います。

み:周りのアマチュアで60度を入れている人もいます。自分も60度でミケルソンのようにピタッと止まる球に憧れますが、アマチュアはやっぱり58度ですか?

宮城:ウェッジはロフトが寝れば寝るほど、ボールを当てる範囲が狭くなるので、60度より58度、58度より56度のほうが確実にやさしいです。60度はアタックアングルが大きくないと、ほとんどトップになるので、クラブを上から入れられない人はロフトの立っているものを使うべきです。また、PGAツアーでも60度を入れている選手のバッグには56度も入っています。タイガーやミケルソンについて回るとわかりますが、アプローチで使うのは基本的に56度。60度は56度でどうしても寄らない状況で使うだけです。52度の下が60度というアマチュアもけっこういますがそれは本末転倒というか、あり得ないセッティングです。

み:なぜでしょう。

宮城:60度はボールが飛ばないからです。遼くんがマスターズに出たとき、オーガスタ用に60度を作りましたが、その翌週の日本の開幕戦はこれに戻してねと言って58度を渡したのですが、彼は60度のままコースに出てほとんどショートしていましたから。どうしても60度を入れたいのであれば56度も入れておくべきです。ただし例外もあります。

み:例外とは?

宮城:ショートアプローチでインパクトがゆるんでしまう女性に60度を作ってあげたことが何回かあります。女性の力で60度ならフルショットしてもせいぜい30、40ヤードしか飛びません。とにかく振ればいいので恐怖心を克服できます。

み:飛ばないことがデメリットにもメリットにもなるわけですね。