「長谷部祐とギア問答!」は、国内外大手3メーカーで、誰もが知る有名クラブの企画開発を20年超やってきたスペシャリストの長谷部祐氏に、クラブに関する疑問を投げかけ、今何が起こっているのか? その真相を根掘り葉掘り聞き出すものです。クラブ開発の裏側では、こんなことが考えられていたんですね……。

今も昔もアマチュアが打てるのは「29度」まで。この限界線は変わらない?

GD 今日はジャパンゴルフフェア2024の会場である横浜パシフィコにやってきました。長谷部さんは、何に注目しているんですか?

長谷部 ミズノ、ピン、キャロウェイが出した小顔のストロングロフトアイアンを見ようかと思いまして……。

GD 7番アイアンのロフトが30度、女子プロの使用も考えられるアスリートモデルになると思うのですが、いよいよ、プロの領域までロフトのストロング化がやってきたということですか。7番アイアンのロフトといったら大昔は「37度」だったと記憶しています。それが現在はツアーモデルで「34度」……。

長谷部 今はそれを飛び越えて「20度台」のものも珍しくありません。7番アイアンまで飛ぶ、飛ばない議論が発生して、結果的に「7番で150ヤード」という呪縛に、みんながかかってしまっています。

GD 7番アイアンは昔、難しい番手ではありませんでした。

長谷部 初心者が7番アイアン1本練習しておけって言われた番手ですからね。

GD 今の7番は感覚的に言うと昔の5番アイアン化している? そんな感じじゃないですか。

長谷部 そうですね。今の6番は昔の4番。

GD 昔は5番までは打てるけど4番は打てない。今は7番は打てるけど6番は打てない。ここに一線があるような気がします。

長谷部 「37度」はそうとう昔の話であって、「34度」でも今となると飛ばない気がしますよね。

GD 長谷部さんが持っているミズノ『MP-15』は、確か「32度」。私もその前のモデル『MP‐59』を使っていましたが、34度の時代の32度はちょっとストロングですが、プラス2度に惹かれました。

長谷部 そう、7番は「32度」がいい感じじゃないかと。

GD 『MP‐59』が2011年、『MP-15』が2014年発売ですから、この10年で2度ロフトが立ったわけですが、立たせた理由はなんですか?

長谷部 それは飛距離競争でしかない。メーカーはもう7番からのセットでいいみたいなことを視野に入れているようにも見えるし、5番が打てないから、5番を外すメーカーが出始め、6番からのセットが増えはじめました。そんな状況でも試打クラブは相変わらず7番アイアンだったから、店頭でも7番で飛んだ、飛ばないの話をされると、「じゃあ飛ぶほうを買いましょう」ってなるのが普通ですよね?

GD 番手とロフトの関係が、ここにきてかなり無理が生じてきているような気がするし、「打てるロフトの限界」があると思うんです。昔だったら5番アイアンは打てます、4番アイアンは打てませんっていう線引きがあったじゃないですか。
それが今は7番アイアンは打てます、6番アイアンは打てませんになりつつあって、番手で言ったら2つ下がってきています。ロフトを見れば、37度時代の5番アイアンは29度、4番アイアンは26度。結局、ロフトを見ると、打てるのは29度までで、それ以下になると打てないというのは、昔も今も変わらないという見方ができます。

長谷部 打てないのはロフトのせいであり、長さのせいでもあった。それが今は下の番手にずれていている。

GD 単純に番手ずらしとしか思えなくなっちゃう。

長谷部 長さは短いかもしれません。

GD ブリヂストンの『LT100』ってわかります? 1980年代のアイアンです。

長谷部 はい。マッスルバックの……。

GD 日本アマ6勝の伝説のアマチュア中部銀次郎氏が最後の日本アマ(1987年/浜松シーサイド)で使用していたアイアンですが、中部さんがどんなアイアンを使っていたのかを知りたくて、シャフトを軽量スチールにして実際にプレーしたことがあるんです。

長谷部 それこそ7番で37度、ロフトが立つ前のアイアンですよね。

GD 今でも覚えていますが、スタートホールで残り150ヤードを7番で打ったら20ヤードショートしました。飛ばなさに驚いたというよりも、昔の人はこれで150ヤード飛ばしていたの? しかも糸巻きボールでと思いました。

長谷部 体力が劣っているとは言いたくないけど、アイアンの打ち方も含めて、飛ばせなくなってきているのかもしれませんね。ロフトを立てて飛ばすのが昔のアイアンの打ち方で、ダウンブローに打っていたからロフト以上の飛距離が出ていたのかもしれません。いずれにしても、ヘッドの設計とボールのパフォーマンスを考えたら、今の時代のほうが飛んでいなきゃいけないのに、実は飛ばなくなってきているとしたらちょっと不思議ですよね。

GD 不思議です。昔のほうがダウンロードでみんな打っていたっていうこと?

長谷部 それはあると思います。ダウンブローに打てばロフトは1度、2度立ちますからね。今は低く打ち出してスピンでフワっとした球を良しとしない傾向があって、スイープな打ち方が流行りはじめてアイアンの低重心化もはじまった。本当の意味で、芯でとらえられていない可能性もある。それに低重心にしすぎると芯に当たらないから……。

GD メーカーの話を鵜呑みにすれば、飛距離が伸びていることになるわけじゃないですか。

長谷部 マットの上ではね。

GD そうか……、マットの上ではってことか。

7番のロフト30度で、ウェッジ「3本体制」が確定!

GD 基本的にアスリートゴルファーって飛ぶアイアンを使いたがらなかったじゃないですか。

長谷部 タテの距離が今までの感覚とズレるから。

GD それがだんだん容認されるようになってきている?

長谷部 プロが一番嫌うのは初速が速いこと。初速が速い故に、初速が落ちたときに、タテ距離で10ヤードぐらい平気で変わってしまうことがあるから、反発のいいアイアンとかドライバーは、「試合向きじゃない」ってことで大体却下されてきました。でも、最近はそこも慣れてきているのか、許容されています。全然気にせず、反発のいいアイアンを使うプロが増えてきているので、いわゆる小ぶりのヘッドで、中空構造ものが製品化される流れになっていることは興味深いですね。

GD 女子プロのアイアンって言ったら、ゼクシオの時代があったじゃないですか。でも、今ゼクシオを使っている女子プロはほとんどいません。スリクソンだったら『ZX5 MkⅡ』とか、タイトリストだったら『T200』、『T350』とか。飛び系ではありますが、ゼクシオよりはワンランク上のアスリートモデルを使うようになっています。

長谷部 めちゃめちゃでかいヘッドのアイアンを好んで使う人が減ってきているってことでしょう。やっぱり女子プロも少なくなってきているし、一般のアマチュアも中空アイアンに手を出しやすくなれば、フェースのでかいキャビティアイアンを持つ必要はありません。小ぶりなヘッドでもいいから飛ぶやつが欲しいっていうマインドとかニーズがあるように見えます。

GD 止まる止まらない問題があるじゃないですか。結局は、止まらなくても、そのゴルフに慣れている?

長谷部 そういうことでしょうね。スウィング技術で高いボールが打てるようになっていることもあるでしょうね。

GD 『ミズノプロ243』の印象はどうでした? 7番32度、PW44度でロフト的には飛び系でも良い感じですが。

長谷部 やさしいという印象はないんですけど、JPXもですけどPWが(46度から2度立って)44度なので、PWの下を打つギャップウェッジが必要になります。

GD そうなると、PWを除くウェッジ3本体制というのは確定的ですね。4度ピッチでいけば、44、48、52、56、もしくは58。PWが46度だったら52、58でカバーできたものが、このロフトだとウェッジ3本は大前提ですね。

長谷部 ウェッジのロフトもバリエーションとして用意してあるから、こういうロフト設定ができるわけです。

GD ピン『i530』はどうでした? 7番27.5度、PW41度とかなりのストロングロフトです。見た目、カッコいいアイアンですが。

長谷部 セミアスリートじゃないですけど、ちょっと力の衰えたシニアの上手な方に受けそうなアイアンです。でかいヘッドは使いたくないけど、ちょっと飛距離が落ちているから、「飛ぶアイアンないか〜」となったとき、この精悍な顔つきがうけるのかなと思います。そんなに市場は大きくないけど、使いたいという人たちの評価は高くなりそうな、ターゲット層にはミートしていると思う。

GD シンプルなデザインで……。

長谷部 余分なものがなく、ロゴも小さくちゃんと入れていることも、そういったベテランゴルファーの嗜好に合っていると思う。

GD キャロウェイは『Xフォージド』と『Xフォージド スター』の2モデルあって、スターが7番29度、PW43度。ノーマルが7番33度、46度で一番手ロフトが立っています。これは明らかにターゲット層を分けていますね。

長谷部 スターのほうは女子プロアイアンを意識しているのかな。シルエット的には兄弟モデルだから、「5、6、7番」はスターを入れたほうが楽だなという人が、コンボにするかもしれません。

GD コンボの可能性はあっても、同じシリーズで1番手ズラしで出してくるキャロウェイの狙いはなんでしょう。

長谷部 明確なライバルがあるってことでしょう。日本仕様で、ロジャー・クリーブランドの監修ではなくグローバルモデルとの差別化をはかっているクラブなので、日本の鍛造アイアンを間違いなくターゲットにしています。

GD それってミズノだったり、スリクソン、ブリヂストンだったり?

長谷部 ツアーでシェアの高い遠藤製もターゲットでしょう。ただオフセットはどちらも強くなかったので、そこは米国のブランドらしくスッとしたきれいな形状にまとまっていた印象です。

GD そうなるとスターも上級者モデル?

長谷部 上級者を意識しているとは思うけど、そこまで難しいキャビティには見えないですよね。重心を低くしていることと、ソールにこだわっているということだけあって、ソールの面取りは大胆にやってあるから、昔で言えばブリヂストンのグライディングソール、今で言えばスリクソンもフェースとバック両方の面取りが施されています。

GD 両方ってリーディングエッジとトレーティングエッジ?

長谷部 両方を大胆に削るってことがアイアンにはすごく重要で、リーディング側を三日月型に削って、後ろ側の面取りを意識してやっているからバウンスが強くても抜けがよくなるのでシャープなアイアンになります。

GD このアイアンはいわゆる1枚ものじゃないですか。軟鉄だけで作られている? なにかヘッドに埋め込まれているのかな?

長谷部 完全な1枚ものですよね。中空にしたり、マレージングにしたり、反発をよくして飛距離を稼ぐというアイアンとは違って、カチッとした打感を日本のメーカーじゃないのにしっかり作られています。

GD 日本のメーカーの鍛造アイアンで気になったのはヨネックス『CB501』。キャロウェイとは違って日本のアイアンって感じがして、いいなと思いました。7番32度、PW46度、グースもまあまああって、昔ながらのマッスルバックが感じられます。

長谷部 ヨネックスのグースは独特ですよね。ヒール側のネックとの繋がり感、ここに膨らみをもたせるのは日本の古き良き形状、ジャンボプロモデルとかの雰囲気が色濃く残っていますよね。

GD 池田勇太もヨネックスを使ったということも……。

長谷部 そういう関係者の好みが、ヒールの高さに安心感を感じるのでしょう。ヒールで打ちたいイメージに持っていかせるのと、インに引きやすいとか、「フトコロ」ってよく言うんですけど、しっかり肉を盛ってくるのが、昔のベンホーガンなどのアイアンにあったフェードヒッターならではの形です。

GD 昔ながらの日本のアイアンといったら、マスダゴルフがありましたね。

長谷部 これはジャンプロ(ジャンボMTN Ⅲ)ですよね。

GD 少し現代風になっている?

長谷部 少しブレードがシャープかな?ぐらいで基本変わっていない。この形状が好きな人は、いつまでも好きなんだろうなって思います。こういう個性は大事ですよね。

GD ヨネックスといい、マスダといい、嫌いじゃないな……。

長谷部 トウの下側を削って、トウの頂点を手前に持ってくることで、フェースがかぶって見えないようにしているのが特徴ですが、むかし昔のスポルディングとか、ベンホーガンの特徴をそういったところに残していて、日本のゴルファーはこの形で育ってきているから、好きな人は好きなんだと思います。

GD 米国アイアンには、この感じありませんよね。

長谷部 それはネックまわりに肉があると芝が絡まって抜けにくいというのがわかっているから、いかにネックを細くして抜けやすくするか。特にショートアイアンはウェッジみたいに絞った方がいいってことは米国のメーカーはわかっているから、昔のピン(アイ2)が代表的で、かなりネックを絞った形になっている。
日本のメーカーのアイアンがこうやって独自の路線を歩んできているのは、日本の高麗芝だったり、ラフがそんなに長くないという環境の中でやっているから、これでも十分球は打てる。 だけど米国に行ったプレイヤーは必ずぶち当たるのが芝生の違いなので、すぐにアイアンを変えますよね。

GD 尾崎直道がPGAツアーに参戦して米国ブリヂストンの『プリセプト7TP』を使ったのもそういうことですか。随分昔の話ですけど……。

長谷部 レイモンド・フロイド監修でピン『アイ2』を模したって言われそうな形状のアイアンでした。ネックに特徴のあるアイアンでしたけど、直道プロがすぐにスイッチして使ったということは、見た目の違和感よりも抜けの良さにメリットを感じていたのでしょう。

GD ネックの細さに日米のアイアンの違いがあるんですね。今度からそう言う見方でアイアンを見てみます。

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