包容力という言葉がぴったりとハマる、とびきり柔らかい物腰と笑顔が印象的なトマシ ソンゲタ選手。フィジーの小島、人口わずか300人の村で育った“ココナッツ・ボーイ”だ。来日12年目を迎え、今やHonda HEAT最年長となる。ホームシックにかかるも先輩が救ってくれた経験から、外国人選手や若手選手のケア&サポートに励む彼に、リーダーとしての心得を聞いた。

―世話の焼きすぎは、選手の可能性をつぶしてしまう!
今年7年目の僕は、現在48人が在籍するHonda HEATでは最年長。キャプテンを支えるリーダー7人のうちの1人で、役割にやりがいを感じているよ。なかでも最も力を入れているのが、外国人選手のサポート。

海外では時にとてつもない孤独感に襲われるもの。言葉が通じ、家族や友人に囲まれた自国では感じないストレスやプレッシャーが原因かな。僕自身の経験から、よりハッピーな選手生活を送れるよう頻繁に声をかけ、助けを求めやすい環境づくりを意識している。

ただしある程度の期間を過ぎたら、世話を焼きすぎないように気をつけているんだ。コンフォートゾーン(居心地の良い範囲)から一歩踏み出し環境に適応していくことも、人生の大事なレッスンの一つだからね! これも経験で学んだことだけど、いつまでも人に頼ってばかりいたら選手としても成長できないから。まずは一人でチャレンジして、どうしてもうまくいかなかったら通訳や僕に頼ればいい、とアドバイスしているよ。

―尊敬する先輩から学んだ、若手の成長を促す環境づくり
それからもう一つ、キャリアを重ねるにつれて重要視するようになったのが、若手の意見を引き出すこと。12年前に来日した時、日本ラグビー界はガチガチのトップダウンだった。若手がリーダーにもの申すなんて、ありえないことだった! でも外国人の選手やスタッフ、海外留学経験のある日本人選手が増えるにつれ、かなりオープンな雰囲気になったと思う。

それは日本ラグビー界にとって素晴らしい進歩だと思うし、その結果として日本代表チームの躍進につながった気がする。それでも日本人選手は、僕が今まで出会ったどの国の選手よりもシャイで従順だけどね(笑)。トレーニング中やクラブハウスで不満や困惑の表情を見かけたら、すかさず自分から話しかけるね。

後輩のケアを大切にするようになったのは、Honda HEATの先輩、川添学元選手の影響。ラガーマンとしての才能はさることながら、面倒見の良さもピカイチ。とてもフレンドリーな性格で、外国人選手が少ないなか、あるときは良き友達、あるときは厳しい先輩としてたくさんのアドバイスをくれたよ。今でも迷いや悩みがあると「川添さんならどうするだろう?」と考えるほどさ!

現在のHonda HEATは若手が多く、他のチームに比べて圧倒的にベテランが少ない。未熟な選手が多いことは、大変なこともある代わりに将来がとても楽しみなんだ。彼らが成長したとき、僕たちはとても強いチームになれるはず。川添さんとも話すんだけど、二人で期待に胸を膨らませているよ。

―負けてしまったら、後悔よりも勝つ準備を!
とはいえ僕だってまだまだ現役の選手。人のことばかりかまっていられないよね!(笑)僕が自分の成長のために心がけているのが“勝つ準備”を整えること。スポーツ選手ならば、負けることを考えてゲームに挑む人はいないだろう。それでも負けてしまうからこそ悔しさ、やるせなさを感じてしまう。

でも残念な気持ちを引きずっていいことって、ひとつもないんだよね。基本的に試合は土曜日に行われることが多いから、悔しさは週末中に処理することを鉄則にしているよ。若い頃はパーティへ出かけたり、仲間と飲んで発散したりしていたけど(笑)、今はひとりで部屋にこもって試合の動画を見るんだ。

その際には自分がどんなミスをしたか、何ができていなかったかなどの気づきをすべて書き出す。そして反省点を踏まえて今後どのように対策すべきか、それらを強化するためにどんなトレーニングを行うべきかを考える。そうすることで自然と自分の中の不満がきれいさっぱり解消されるんだ!

月曜には気持ちを切り替えて、自分が打ち出したトレーニングに専念するのみ。週のあたまにはチーム全体のミーティングがあるから、そこで自分への指摘が上がれば“やることリスト”に書き加える。自分では気付けないことは、必ずあるからね。年を重ねて他人から指摘される機会が少なくなったからこそ、その意見を一層大切にしているよ。

―精神を強化して、エイジングに打ち勝つ!
6歳でラグビーを始めて30年が経ったけど、ラグビーは年々、急速に変化している。フィジカル面、スピード面ともにかなりレベルが上がったし、トレーニングのメソッドもガラリと変わった。自分が慣れ親しんできたトレーニングを変えたり、新しいメソッドで育ってきた若い選手と張り合ったり……正直、大変だし、よくここまで続けているなと自分でも思う(笑)。

36歳になって、よく「体力的にキツいのでは」と聞かれるけれど、僕にとってはメンタル的なつらさのほうが強い。一番は、けがへの不安かな。リカバリーにかかる時間や、その後の選手生命を考えると、体当たりなプレーをするのが怖くてね……。でも保身を第一にしていては勝利はつかめないから。メンタル面を強化することが、今後の課題の一つ!

ちなみに僕は、フィジーの小さな島で生まれた“ココナッツ・ボーイ”(笑)。300人ほどの小さい村で育ったから、始めて東京を訪れたときは大興奮したよ! 当初は2年間だけ滞在する予定が、なんと今年で12年目だよ……! ああ、だめだだめだ。年数を振り返るたびに自分の歳に気づいてヘコむから、もう数えないことにするよ(笑)。成長した若手選手とともにトップへ登りつめるまでは、現役を貫いてやる!

トマシ ソンゲタ 1983年8月16日生まれ、フィジー出身。ポジション:ナンバーエイト。190cm/123kg。フィジーの小島に誕生。人口わずか300人の村で、6歳の頃からラグビーに親しむ。ニュージーランドのウェズレイカレッジを経て、2008年、サントリーサンゴリアスに加入。2010年にキャノンイーグルスへ移籍し、2013年より現在在籍するHonda HEATでプレー。