インタビューでは穏やかな表情と冷静な様子を見せ、もはやベテランの雰囲気だった鶴川達彦選手。実際は2019ー20シーズンのルーキーで24歳。現在のポジション・プロップになってからもわずか4年。ポジション変更にうまく対応できた心掛けは“引きずらない”ことなのだとか! スクラムは今も試行錯誤中。鶴川選手のこれからの進化に期待が高まります。

ー9番以外のポジションを経験
もともと父親がラグビー経験者で、テレビで一緒に試合を見たりしていました。それで興味を持っていて、中学入学の時にたまたま勧誘されたのでラグビー部に入りました。それまではサッカーや水泳をしていたのですが「周りの子がやってるから……」という気持ちだったので、スパッとラグビーに打ち込むことができたのかも。

それから今までの僕のラグビー人生では、ポジションが変わることが多かったんです。でも「新しいものを学べる」「動き方が違う」と常に新鮮な気持ちでラグビーに向き合えたから続けてこられたのかなと思ってます。

ポジションは、9番(スクラムハーフ・SH)以外ほぼ一度はやったことあるかな(笑)。大学1年まではバックスで、主にセンター(CTB)をやっていたんですけど、2年生にはナンバーエイト(NO8)、3年からはプロップ(PR)に転向しました。
いろんなポジションを経験したので「ここのポジションは、今だったらこう動いてほしいだろうな」と気持ちを理解できる方だと思います。なので、ボールを持ってる選手のサポートもなるべくできるように動いてますね。パスワークや運動量はわりと自信があります。

ープロップへの転向は、最初は抵抗があった
プロップに転向したのは、その時のチーム事情もありました。最初はポジションを変えることに少し抵抗があったので、1〜2週間くらい答えを出すのを迷ったんですけど、「試合に出たい」という気持ちのほうが強かったので受け入れました。

ースクラムはやればやるほど奥深い
プロップはスクラムの最前列でぶつかり合う専門職というか、職人みたいな人が集まるポジションなんです。それを一から始めて、周りに追いつくまで苦労しました。

転向を決めてから3〜4カ月で、100kgだった体重を15kg増やしました。今はちょっと絞って112kgくらいかな。大学の食事環境が整っていたので、基本は1食ずつの量を少し増やしただけで、あまり苦労はしませんでした。

でも、練習はすごくつらかったです。他のポジションとは比べものにならないくらい(笑)。スクラムを組んだままの低い姿勢をずっとキープしないといけなかったり、全員が最大限のパワーを出して当たってくるのでそれに耐えなければいけなかったり……。練習後の疲労感もすごく増えました。

スクラムの練習を始めた頃は腰が痛くなることが多くて、練習後は毎回マッサージをしてもらっていましたね。ただ、スクラムは組み方やポジション取りなどやればやるほど奥が深く、やっていて楽しかったです。

今もチーム内でスクラムを強化しているので、全体練習のあとに同じポジション同士で集まって自主練をしたり、筋トレをしたりしています。筋トレはけが防止のためにも、特に腰と首を強化中。他のポジションよりも終わる時間が遅いことはよくあります。

ー外国人との会話は単語をよく聞き取る
学生時代と社会人のチームで一番大きく違うのは、外国人の選手やスタッフがいる環境。外国人の方がいるほうが開放的で、先輩後輩的な関係があまりなく、フラットな雰囲気があるように思えます。

僕は米国出身ですが1歳くらいまでしかいなかったので、ほとんど記憶もないし英語も話せません(笑)。なので少しでも外国人の選手やコーチとコミュニケーションが取れるように、社会人になってから英語の勉強をし直しました。会話で出てきそうな単語をなるべく多く覚えて、会話をするときも単語を聞き逃さずにしっかり理解しようと心掛けています。

見習いたいのは、練習と試合、プライベートの切り替えがしっかりしてる部分。僕もわりとプライベートではラグビーのことは考えないようにしてるタイプですが、外国人の選手やスタッフは気持ちがいいくらいハッキリしてます。

ーその日の気持ちは引きずらない
性格は穏やかな方です。ラグビーに関しては、ミスや何かがあっても引きずらないタイプ。毎回落ち込んだり、ずっと引きずっていたりしたらきりがないじゃないですか。反省はしますけど、あまり考え込まないようにしてます。そういうタイプだから、ポジションが変わっても「やるしかない」と思って向き合えたのかもしれません。

気持ちを切り替えるときに役に立っているのがNetflixです(笑)。出かける予定がなければ、オフの日はずっと見てますね。ジャンルは何でも見ますけど、最近はアニメが多いかな。同チームにいる同期の土井(暉仁)がよくおすすめの作品を教えてくれます。

ースクラムの駆け引きにぜひ注目を!
プロップとしての経験はまだ3、4年。ベテラン選手や自分よりも体の大きい外国人選手を相手にスクラムを挑んで、押し切ってボールを奪えたときはうれしいです。

スクラムはラグビーの試合の中でも重要なプレーの一つなので、試合を見るときはぜひスクラムにも注目してください! 体がぶつかり合う力勝負のところはもちろん、組むときの位置取りの駆け引きを見るのも楽しいと思います。

鶴川達彦(つるかわ・たつひこ)1995 年5月21日生まれ、米国出身。ポジション:プロップ(PR)、182cm/112kg。桐蔭学園中等教育学校(6年間)に入学した際、ラグビー部に勧誘されて始める。その後、早稲田大学に進学し、5年間で卒業。2019年よりHonda HEATに所属。ジュニア・ジャパンに選出経験あり。酸味が少ないコーヒーが好き。