バドミントン男子シングルスの元世界王者、桃田賢斗(29)=NTT東日本=が18日、都内で記者会見に臨み、日本代表からの引退を表明した。今夏のパリ五輪代表権を逃した、日本のエースの波乱万丈な代表活動を細野友司記者が「労う」。

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 20年3月6日に東京五輪金メダルの目標を公言したのと同じ会見場で、桃田は日の丸との歩みに別れを告げた。悲壮感はない。空色のネクタイが晴れやかな心を表すように「自分も驚くほどの結果が出せた。長いようで短く、幸せな時間だった」と総括した。

 16年リオ五輪を棒に振った違法賭博問題。謹慎明けの17年以降、桃田は強さ以外の“何か”を求めているように思えてならなかった。世界選手権を2連覇し、年間11勝でギネス記録になっても「自分は、まだまだ」が口癖。試合会場でトイレのスリッパをそろえたり、ゴミを拾って徳を積んだ。それは再起を許された感謝か、恩返しか―。節目の会見で問うと「勝つだけが全てじゃなく、愛される選手になりたかった」と明かした。

 15年に初のツアー年間王者となり「ド派手な生活がしたい」と豪語した頃は強さだけが正義だった。競技生活の危機で広がった視野は、再びの苦境で助けになった。「なんで自分なんだ」と絶望した20年の交通事故。「(理想のプレーと現実の)差がしんどい」と漏らしつつ、応援を力に戦い抜けた。敬愛する08年北京五輪覇者の林丹(中国)のように自国で頂に立てなくても、大舞台を経験できた。“五輪の神様”だけは厳しかったが、世界中のファンに愛された代表生活だっただろう。

 以前、「自分の体育館をつくりたい」と後進育成の構想を語ったことがある。この日も「いろいろな人にスポーツの楽しさを発信したい」と意欲的だった。果たせぬ夢を次代に託し、競技活性化に取り組む桃田の“新章”も楽しみにしたい。(18〜22年バドミントン担当・細野 友司)