●ナマコなど休漁で激減

  ●排せつ物は漁場を豊かに

 七尾市石崎漁港で今春、養殖カキを新たな特産品に育てる漁師たちの挑戦が進められている。能登半島地震で休漁が続き、漁獲量が激減している特産のナマコやトリガイに代わる新たな収入源を確保し、カキの排せつ物で漁場を豊かにする効果も狙う。津波に流されながらも奇跡的に無事だった稚貝は6月ごろにも初出荷できる見込みで、苦境にある漁師町復興の希望の光になっている。

 石崎漁港は元日の地震で海側に地盤が沈んだ。海底に網やロープが漂着し、津波で打ち上げられた船も。同漁港で盛んな底引き網漁の出漁は難しく、漁師一丸で海底の清掃に取り組んでいる。

 カキの養殖に乗り出したのは震災前の昨年12月。県漁協七尾支所の竹内大生運営委員長(38)を中心に、プラスチック製のかごに稚貝を入れてロープを通して漁港周辺の海に浮かべた。

 通常のマガキは産卵を終えた夏には身が痩せるため出荷しないが、石崎漁港では産卵しない「3倍体」と呼ばれる品種を選んだ。冬の味覚である七尾西湾の名産「能登かき」と差別化を図り、6〜8月の出荷を予定している。

 今季は4月15日に終了したナマコ漁の水揚げは460キロで、例年の50〜100トンに比べて大幅に落ち込んだ。収入の約7割を占めるだけに、漁師の瀬戸善広さん(52)は「地震で一番多くとれる冬に何もできんかった」と唇をかむ。温暖化の影響による漁港周辺の水温上昇、藻場の減少が原因とされ、高級二枚貝のトリガイの漁獲量も年々減少している。

 カキ養殖は収入源確保だけでなく、カキのふんでナマコの餌となる有機物が増え、ナマコが育ちやすくなる可能性も期待されている。支所は養殖場の下に設置する漁礁に小さなナマコを放流する計画という。

 約5万個の稚貝を入れた養殖用の網は津波にさらわれたが、沖合に流された船に運よく引っ掛かって回収でき、養殖プロジェクトを諦めずに済んだ。竹内さんは「地震を乗り越えたカキが石崎の希望の光になってほしい」と話した。