車を使わない山歩きの楽しみの一つは、電車やバスを組み合わせて登山口までの最適なルートを見つけ出すことだ。利用したことのないバスの停留所を探し、登山に必要な時間を計算しながら計画を立てるのは、パズルを組むような面白さがある。最近はバス会社が運転手不足で路線や便数の維持に苦労しているというニュースをよく見るようになったが、県南部では各バス会社によりかなりきめ細かな路線網が維持されている。今回目的地に選んだのは旧黒瀬町(東広島市)と旧熊野跡村(広島市安芸区阿戸町)にまたがるように裾野を広げる小田山(こたさん 718.8メートル)。車を使って行くのが一般的なこの山に、電車とバスを利用して向かった。

 

モアイ岩の上から見た黒瀬の市街地。遠く瀬戸内海と芸予諸島も見える

 

▼今回利用した交通機関 *時刻は休日ダイヤ
行き)JR山陽線(おとな片道590円)/横川(6:50)→西条(7:42)
中国ジェイアールバス西条線(おとな片道780円)/西条駅(8:05)→(8:32)賀茂医療センター口乗り換え(8:55)→庚ハイツ(9:08)
帰り)中国ジェイアールバス西条線(おとな片道630円)/中黒瀬(14:40)→(15:16)西条駅
JR山陽線/西条(15:21)→横川(16:04)

 

 

JRバスを乗り継いで

事前のプランニングは、どこのバス停が登山口の最寄りになるかを探すところから始まった。バス会社の路線図はデフォルメされているので、なかなか実際の地図と一致しない。ネットの地図とバスの路線図を突き合わせて、どうやらJR西日本グループの中国ジェイアールバスの庚停留所が一番近そうだとわかった。JR西条駅からは広島国際大学行きのバスに乗って賀茂医療センター口でいったん下車。23分ほど待って呉駅行きのバスに乗り換えれば9時8分に庚ハイツに着く。ここから登山口までは15分ほどの距離だ。日帰り登山には十分余裕がある。

当日は快晴。ほぼ時間通りに庚停留所に着いた。住宅団地の道路を少し上って東広島呉自動車道の下をくぐり、自動車道沿いを南に向かう。数百メートル先に4人の登山者らしいグループが歩いていた。路肩に数台車が止められていたので、マイカー利用の人たちだろう。前方には青空を背景に小田山が雄大な姿を見せていた。

 

小田山へ向かう。前方を登山者のグループが歩いていた

 

東広島呉自動車道付近から見上げた小田山。こちらから見ると鋭鋒だ

 

緩斜面のち岩場上り

ちょうど体が温まったところで「小田山南登山口」に着いた。十畳岩ルートの入り口だ。手持ちのガイドブックにはこのルートは掲載されていない。登山アプリYAMAPを見てバス停から歩けるこのルートで計画を立てたのだ。

 

小田山南口。十畳岩ルートの入り口だ

 

登山口に掲げられた地図には「整備 2021.09.20」「YAMAP紹介 2021.10.09」とある。わりと最近登山道が整備されたようだ。

 

登山口にあった案内図。この登山道が比較的最近整備されたことがわかる

 

登り始めは樹高の低い林の中の緩斜面。道沿いに咲くピンクのツツジが目を楽しませてくれる。20分ほど歩き、標高350メートル付近から傾斜が急になり、岩場の上りになる。岩場とはいっても要所にはロープが設置されているので問題はない。樹木が少ないので眺望を楽しみながら上ることができる。前回の湯来冠山(https://hread.home-tv.co.jp/post-365186/)はルート上にほとんど眺望ポイントがなく、修行のような山行だったのでうれしい。

 

緩斜面の登山道で見つけたツツジ。ダイセンミツバツツジだろうか

 

標高350メートル付近から傾斜が急になり、岩場上りの道になる

 

約30分でルート名の由来となった十畳岩へ。確かに十畳くらいはありそうな堂々たる巨岩だ。岩の上から振り返ると、眼下に黒瀬の街並み、正面には野呂山(https://hread.home-tv.co.jp/post-125581/)が鎮座している。

 

ルート名の由来となった十畳岩

 

さらに岩登りを楽しみたい向きはこちらへどうぞ。当方はパス

 

山頂が少し近付いてきた

 

480メートル付近で岩場上りはいったん終了。この尾根の上部には人待ち岩と名付けられた岩があった。健脚の登山者が後から来る仲間を待つ場所という意味だろうか。その上には亀の背。またがってみると、名の通り亀の背に乗っているようだった。

 

人待ち岩

 

亀の背

 

奇岩・巨岩が次々と

亀の背の反対側を見ると「向いの尾根に男岩」の標識。目をこらすと、それらしい奇岩が見える。正面口からの登山道と合流し、さらに進むと男岩。案内標識に「さすってご利益を」とあるのには苦笑した。さらに20分ほど上ると天国岩。切り立った絶壁になっており、落ちたらそれこそ天国行きだ。その脇にはお立ち台。立てる場所は狭く、さすがに上がるのはやめにした。

 

男岩展望所

 

男岩。後方は小田山の山頂

 

崖上に立つ天国岩。落ちたら天国行き?

 

天国岩の隣にある「お立ち台」。怖いので立つのはやめた

 

天国岩の上から北側を見ると、イースター島のモアイ像の横顔のような巨岩が立っていた。あれがモアイ岩だ。この岩は登山道から標高差にして60メートルほど下ったところに立っている。案内標識には「危険性有り」「要注意」の警告文字。ロープはあるのだが、脅しではない急斜面が続く。10分ほどかけて慎重に下り、たもとまで来たらモアイ岩の上へ登る。ロープはあるのだが「ロープは補助です 頼らない」と注意書きがあった。岩の上には天使のモニュメントと「モアイ:2021」の看板が設置されていた。この岩は巨大なこともあり、近くからでは全貌を見ることが難しいのだが、岩上からの眺めはすばらしい。

 

警告満載のモアイ岩入口

 

モアイ岩への最後の急登

 

モアイ岩の先端部分

 

遠方から見たモアイ岩。モアイ像のように見える?

 

奈良時代の高僧の伝説

小田山には、奈良時代に東大寺の大仏建立にも貢献した高僧・行基(668-749)が建立したとされる廃金鶏山本照寺があったという伝承がある。その遺構とされているのが手水鉢岩だ。二つの巨岩が重なり合っている。旧黒瀬町と西条営林署が作成した説明板が岩のたもとに置かれている。それによると、上の岩は直径4メートル、高さ3メートルほどあり、上部は平坦で手水鉢に擬せられる水たまりがある。下の岩は直径6メートル、高さ12メートルもあるという。古代の祭祀遺跡という見方もあるそうだ。

岩の上に上ってみる。眺望は抜群だ。眼下の黒瀬の街並みはもとより、野呂山や灰ヶ峰(https://hread.home-tv.co.jp/post-174890/)、芸予諸島が見渡せる。この日は透明度がいま一つだったが、条件が良ければ四国の愛媛県今治市方面も見えるそうだ。

 

行基ゆかりの寺の遺構と伝えられる手水鉢岩

 

上部には手水鉢のように水が溜まっていた

 

手水鉢岩の説明板

 

手水鉢岩を後に数十メートルほど歩くと登山道脇に「展望台」「展望テラス」の表示。はしごのつけられた巨岩を越えると、まさにテラスと呼ぶにふさわしい、見晴らしの良い小広場があった。お昼を食べるには絶好のロケーションだ。山頂はすぐそこなので、先にピークを踏むことにする。

山頂は広場になっているのだが、木立に囲まれてまったく展望がない。引き返して展望テラスで昼食を取ることにした。

 

樹木に囲まれた小田山の山頂広場。残念ながら眺望はなし

 

展望テラスに引き返して昼食にする

 

今回のメニューは4月8日に発売されたばかりの「カップヌードル和風魚介ぶしカレー」。鰹節と鯖節のWぶしを効かせたカレー味だそうだ。和風の味わいが新鮮だった。食後のドリップコーヒーも淹れて充実のランチになった。

 

本日のランチは新製品の「カップヌードル和風魚介ぶしカレー」

 

名残のミツマタに会いに行く

今回の登山のもう一つの目的は、ミツマタの花だ。林道沿いに群生地があると聞いていたので、再び山頂に戻り、北側のあーと村登山口に向かう道を下る。

ミツマタはコウゾとともに樹皮が和紙の原料になるジンチョウゲ科の落葉低木。早春に黄色い小花が集まったぼんぼりのような花を咲かせる。時期的にはもう遅いくらいだが、咲き残っている花もあるだろうと期待した。

10分ほど歩いて林道に合流すると、道路脇に事前の情報にはなかったミツマタの小群落を見つけた。ただ、花期はもう終わったようで、ほとんど黄色は失われていた。少しがっかりしたが、気を取り直して林道を下っていくと、まだ色を残している花をつけた木もあり、ぎりぎり楽しむことができた。群生地の花もすっかり終わっていたが、ピークの時期に訪れたらさぞ見事なものだろうと思った。

 

黄花が残っていたミツマタの花

 

林道下のミツマタ群生地

 

林道起点のゲート。車が走れるような路面状況ではなかった

 

ミツマタを見終えると林道歩きは退屈この上ない。路面が荒れて路肩が崩れているところもあったので、1時間余りかけてゆっくり下った。庚バス停に戻ってきたのは13時40分。次のバスまでは約1時間あり、JR西条駅に行くにはまた乗り換えが必要になる。なので、西条駅行きの直通バスが通る中黒瀬バス停まで歩くことにした。2キロ余りの道のりは基本下り基調だったので、それほど消耗することなくたどり着くことができた。

総歩行距離は10.7キロ。登山ルートは複数あるが、岩登りと絶景が楽しめる十畳岩ルートがオススメです。

 

2024.4.14(日)取材 《掲載されている情報は取材当時の内容です。ご了承ください》

ライター えむ
50代後半になってから本格的に山登りを始めて5年ほど、中四国の低山を中心に日帰りの山歩きを楽しんでいます。できるだけ公共交通機関を利用しますが、やむを得ない場合に時々レンタカーを使うことも。安全のためトレッキングポールは必ず携行。年齢のわりに歩くのは速い方です。
■連載コラム「バスと電車と足で行くひろしま山日記」