ワークマンが子ども服の新ブランド「Workman Kids(ワークマンキッズ)」を展開し始めた。通常の大人が着る同じ素材やデザインを採用して、親子のペアルックを提案する。2月18日に開催した製品発表会で初披露し、ステージショーでは10人のキッズダンサーが参加して、ステージを盛り上げた。

 1号店は2月22日に沖縄県北中城村の「イオンモール沖縄ライカム」に出店。好評につき、3月5日には、東京・池袋の「サンシャインシティアルパ」にも出店を果たした。ワークマンでは、全国のショッピングモールに「#ワークマン女子」の出店を進めており、ワークマンキッズの商品は、#ワークマン女子のショップ内に設置したコーナーで販売する「インショップ」形式を採用している。2024年度は、関東3店舗を含む7店舗の出店を計画している。路面店として多く展開する「ワークマン」「ワークマンプラス」にも、子ども服のコーナーを設けていくという。

 厚生労働省の人口動態統計速報によれば、23年の出生数は75万8631人で8年連続の減少となっている。一方で死亡数は159万503人で3年連続の増加。死亡数が増え続けて、出生数の倍以上という現状だ。

 ベビー・子ども服の市場は22年時点で約8200億円とされているが、残念ながら今後は縮小が見込まれる。しかも、既に西松屋チェーン、三起商行、ナルミヤ・インターナショナル、赤ちゃん本舗のような専業アパレルのみならず、ユニクロ、しまむらのような低価格のファストファッションも参入してきてしのぎを削っている。

 果たして、限られたパイの中で勝機があるのか。ワークマンの狙いを検証する。

●売り上げが5年で倍以上に成長

 ワークマンが作業服にとどまらず、本格的に高い機能性を売りにしたタウンウェアに進出したのは、18年9月に1号店をオープンしたワークマンプラスからだ。同社が路面ではなく商業施設内に出店したのも、この店が初だった。

 ワークマンプラスは大きな反響を呼び、ワークマンとの併設店や、ワークマンからの業態転換、さらに新規出店と勢いを増していった。18年7月時点でワークマンの店舗は全国に825店あったが、24年3月末には、1008店にまで増えている。ブランドの分化が進み、内訳はワークマンが405店、ワークマンプラスが548店、#ワークマン女子44店、ワークマンプロ10店、ワークマンカラーズが1店だ。

 店舗の増加もさることながら、注目すべきは売り上げの急増だ。ワークマンの営業総収入は18年3月期に約560億円だったが、23年3月期には約1282億円と、たった5年で倍以上になっている。

 近年は、20年10月から展開している、女性を主たるターゲットに高い機能性で日常に寄り添うタウンウェアを販売するブランドの#ワークマン女子が、特に地方のショッピングセンターで好調だ。一方、ロードサイドの店舗は、ワークマンからワークマンプラスへのリニューアルを進めている。

 そのため、元々のユーザーだった職人からは「最近は駐車場が混み過ぎている」「お店がきれいになり過ぎて入りにくくなった」との声も聞こえてくるようになった。そこで、職人向けの商品比率を高めたワークマンプロを、21年12月から展開し始めた。

●「大人ありき」の商品開発 価格は大人の5〜7割

 ショッピングセンターで拡大中の#ワークマン女子は、男性向けや男女兼用のユニセックスの商品も数多く取りそろえている。しかし、店名からして男性は入りにくく、若者の集客も強くないので、23年9月には機能性を抜きにしてファッション性だけで成立する商品群を扱う、ワークマンカラーズを新しく立ち上げた。今のところ銀座に1店あるだけだが、10〜20代にリーチするパイロットショップとして期待しているようだ。

 今後、ワークマンが老若男女に親しまれる国民的ブランドに成長するには、ベビーからスクール世代の子ども服が課題だった。今回のワークマンキッズの展開は、その空白部分を埋める試みといえよう。ワークマンの広報によると、既存店、特に#ワークマン女子に来店した人から「子どもにも着せたいから、私が着ているこの服をまるごと小さくした服はできないのかと、多くのお客さまからリクエストをいただいた」という。

 ワークマンキッズの商品を扱う、#ワークマン女子のサンシャインシティアルパ店の面積は132坪あり、同社の首都圏商業施設内の店舗では最大規模の旗艦店だ。同店オープン時のプレスリリースによれば、同社が有する製品カテゴリーの中で最も伸びている女性用の機能ウェアを中心とした店舗で、当時27店あった全店に勢いがある、といった状況での出店だったという。

 実は、この頃から試験的な子ども服の導入が始まっていた。サンシャインシティアルパ店がオープンしてから間もなく、子ども服をコーナー展開し始めたのだ。当初は小学校高学年向きの140センチと150センチのサイズから導入した。男児用から展開したが、次第に女児用のスカート、ワンピースなども開発。現在は、さらに下のサイズとして120センチ、130センチまでラインアップを拡充している。その他、防水機能の付いた靴、靴下なども販売する。

 ワークマンキッズの特徴として、まず大人の商品ありきとなっている点がある。ワークマンの商品は機能性と価格の安さがウケているわけだが、機能とデザインは同じまま、サイズを小さくしただけの展開となっている。親子そろってペアルックを楽しんでもらう趣旨だ。カラーリングに関しては子どもらしく、大人の商品と変えてビビッドカラーを打ち出した商品もある。布の使用量が少ないからか、子ども服の価格は大人用の5〜7割となっている。

 ワークマンキッズではこれまで30アイテムを発売したが、フルラインで取り扱う#ワークマン女子の店舗だけでなく、評判が特に良い一部の商品は、全国のワークマンやワークマンプラスの路面店、1000店舗以上で販売している。販売目標は、#ワークマン女子のインショップとして、年間6000万〜7000万円だ。

●ワークマンキッズの人気商品、トップ5は?

 ワークマンキッズの商品を先行して展開したイオンモール沖縄ライカム店における人気商品トップ5は、次のようになっている。

1位:AERO GUARD コットン半袖Tシャツ(680円)

2位:AERO STRETCH クライミングパンツ(980円)

3位:パフスリーブTシャツ(780円)

4位:BAGin レインジャケット(2900円)

5位:耐久撥水 どろんこシェルジャケット(1500円)

 「AERO GUARD」は防虫加工を施したアウトドア向けの商品で「AERO STRETCH」は伸縮性に優れ、吸汗速乾性やUVカットといった機能を備えている。3位の「パフスリーブTシャツ」は、デザイン性が優れながら、汗をかいたり洗濯したりといったときに乾きやすく、機能性が高い。4位の「BAGin」は、その名の通りバッグを中に収納できるサイズ感で、背負ったリュックやランドセルを雨から守る機能が光っている。「耐久撥水どろんこシェルジャケット」は、はっ水に加えて泥水汚れが付きにくい機能を付加した。

 トップ5の人気商品はいずれも、防虫・伸縮性・速乾・はっ水・泥避といった、ワークマンならでは高機能を備えているわけだ。親は、実際に自分が「着てみて良かった」と思える商品を、子ども向けにも買い求める傾向があるため、非常に効果的だ。

●2年連続の利益減も、ワークマンキッズに期待

 現在ワークマンは47都道府県に出店しており、特に18年以降は職人向けに開発した高い機能性と買い求めやすい価格、タウン用途でも着られるデザイン性で、一般の消費者のファンを増やしてきた。20年以降は女性向けの販売を本格化し、24年からは子ども向けにも注力と、ステップを踏んで年齢層を拡大してきた。

 しかし、アウトドアブームの終焉(しゅうえん)もあって、スノーピークをはじめアウトドアブランドが苦戦するのと歩調を合わせるように、ワークマンの業績にも陰りが出てきた。24年3月期第3四半期の決算では、営業総収入の約1061億円は前年同期比で5.3%増と伸びている。ところが原材料費・人件費・配送費・光熱費といったコスト高のため、営業利益・経常利益・四半期純利益はともに2年連続で減少しており、例えば経常利益の約210億円は同0.5%減となった。

 とはいえ1年前、23年同期の経常利益は、対前年同期比で8.0%も減っていたため、コストを吸収する力は付いてきている。今期が最終的にどうなるかは分からないが、来期には利益も伸ばせるような道筋は見えてきた。そこにワークマンキッズが貢献しそうだ。

●ベビーにシニア、職人と「伸びしろ」は多い

 アウトドアブームが終われば、大人はキャンプにあまり行かなくなり、ワークマン製品の購入も減るかもしれないが、遊び盛りの子ども向けの商品では、アウトドア向けの機能は重宝される。また、子どもは成長が早いため買い替え需要も多く、ショップに来る頻度も増える。

 子ども服を購入するために親がショップにやって来ると「ついでに自分の服も」と、購入する人は増えるだろう。ワークマンの場合、子ども服も大人の服も、基本的に同じデザインのペアルックなので、親も自分用の服を見つけやすい。

 ワークマンキッズではまだ、ベビー服など幼児向けの商品は出していないが「反応を見て、ニーズがあるようなら」(同社広報)と、既に計画自体はあるようだ。その他、今後は過疎地で需要が多いシニア向け商品の強化、一般顧客が増えてお店に入りにくくなったという不満が聞こえる職人用商品の再構築と、ワークマンにはまだまだ改善の余地が十分ある。

 それらのニーズに応えるには、より一層の変化を遂げる必要がある。生みの苦しみで、一時期業績が落ち、踊り場を迎えるかもしれない。しかし、ワークマンの主力工場がある中国は、デフレの長期化が見込まれており、カントリーリスクもあるとはいえ、良い方向に転ぶと、安価で長期間、商品の調達が可能になる。

 他方、日本は今後緩やかなインフレが進行すると思われ、物価に見合った商品価格の値上げは可能だ。そうなると、ワークマンはより安価で仕入れた製品を、より高額で売れることで、高収益を長期間維持できる。果たしてシナリオはどのように進行するだろうか。

(長浜淳之介)