分厚いミッドソールで知られるパフォーマンスフットウェア、アパレルブランドの「HOKA(ホカ)」。2009年にフランスで誕生した同ブランドは、トレイルランナーなど足を酷使するアスリートから支持を得て、一般消費者にも人気を広げてきた。

 12年にはフットウェア・アパレルの販売・卸売を行うDeckers Brands(デッカーズ ブランズ、米国)の傘下となり、17年春から日本に本格進出。現在は、軽井沢、横浜(2カ所)、原宿に計4つの直営店を持ち、4月には名古屋にオープンする。

 原宿店は立地の良さもあり、オープン直後は行列ができるほどの人気に。その他の直営店も売り上げが伸びている状況だという。世界的にも好調で、HOKAの24年度第3半期(10〜12月)の純売上高は4億2930万ドル(24年3月時点のレートで約650億円)となり、前年同期比で21.9%増だった。

 HOKAは、どんな強みを持ち、どのように支持されているのか。デッカーズジャパン HOKA インテグレイテッド マーケティング マネージャーの藤井俊志氏に、国内でのビジネス戦略を聞いた。

●HOKAのDNAである「3つの特徴」

 09年に山が連なるフランス南東部で誕生したHOKAは、山道や下り坂でもケガなく快適に走れるようなパフォーマンスランニングシューズをコンセプトにしている。同ブランドが強みとしているのが、以下3つの特徴だ。

(1)クッション性の高いミッドソール

 従来のランニングシューズと比較して、非常にボリュームのあるミッドソールながら軽量で、衝撃吸収性にすぐれている。

(2)アクティブフットフレーム

 足全体を包み込むフットフレームで、足とシューズの一体感を増している。踏み込んだときの縦横の揺れやズレを防ぎ、高い安定性を保つ。

(3)メタロッカー

 スムーズな足運びを促すために、かかとからつま先までの高低差(ドロップ)を小さくして、つま先とかかと部分を滑らかに削ぎ落とした独特のソール形状をしている。車輪のようなローリング運動を導くことで、自然な体重移動を実現している。

 「HOKAが誕生した当時は、ミッドソールが薄くドロップが小さい素足感覚で走れるベアフットシューズが主流でした。そんな時代に、厚底のミッドソールを特徴とするHOKAは異端だったかなと。近年は厚底のランニングシューズが一般的になっていて、ゲームチェンジャーのような存在だと思います」

 独自の強みが誕生した背景を聞くと、技術的なことは非公開としつつ、ランナーたちの声を真摯(しんし)に聞いて商品に反映していると藤井氏。

 「足を酷使するトップアスリートの方の声を多く聞き、走りやすく、疲れにくい、足にやさしいシューズを追い求めてきました。そういった点が、製品への信頼や満足度につながっていると思います」

 現在は、レース、ロード、トレイル、ハイキング、ライフスタイルなど、カテゴリーごとに製品を展開しており、ランナーのみならず、日常的な外出に履く人も多い。ビジネスシーンで履く人も増えているそうだ。

●コミュニティーを作り、草の根的に広げる

 パフォーマンスランニングシューズの特性上、HOKAは中級以上のランナーやトライアスロン選手、トレイルランナーなど、パフォーマンスにこだわるアスリートに受け入れられ、一般層に広がった歴史を持つ。

 「販売戦略としては、莫大なマーケティング予算をかけて製品の魅力を声高に宣伝するというより、まず履いてもらう機会を提供することに注力してきました。試走会、試し履きなどを積極的に行い、フィードバックを得て、改善を繰り返しています」

 特に米国では、口コミを中心とした草の根的な活動で人気を広げてきたという。HOKAでは、自社のシューズを着用する現役スポーツ選手を「HOKAアスリート」、選手を引退した元スポーツ選手の愛用者を「HOKAアンバサダー」としてパートナシップを組み、彼らの存在を通して、じわじわとシューズの認知を拡大してきたそうだ。

 日本においても、17年春の本格的な進出から口コミを狙ったマーケティング戦略を展開している。国内での人気拡大に貢献している施策の一つが、22年秋冬シーズンに発足した公式ランニングクラブ「HOKA RUN CLUB(ホカ ランクラブ)」だ。

 HOKAの最新シューズを試し履きしたり、アンバサダーをゲストに呼んでランニングしたり、夜に集まってナイトランをしたりするイベントを実施し、ランニング後に交流タイムを設けるなどして、コミュニティーを形成している。イベントは1回30人前後を募集していて、毎回抽選になるほど人気だという。

●体験を届ける直営店

 さらに、ブランドの認知拡大やコミュニティーの形成に欠かせないのが直営店の存在だ。HOKAは軽井沢、横浜、原宿に計4つの直営店を持ち、4月23日には名古屋への出店が決まっている。

 「直営店では単に製品を売るだけでなく、ブランドの世界観や製品の特徴を感じられる『HOKA体験』を提供したいと思っています。幅広い種類の試し履きができるのは直営店ならではですし、HOKA RUN CLUBのメンバーが使えるコミュニティゾーンもあります」

 4つの直営店のうち、「HOKA 軽井沢・プリンスショッピングプラザ店」には簡易のランニングステーションを、「HOKA Yokohama MARK IS Minatomirai」と「HOKA Harajuku(以下:Harajuku)」にはコミュニティゾーンを併設している。

 「コミュニティゾーンには、着替えができる更衣室、荷物を保管できる鍵付きのロッカー、飲み物を飲みながら休めるスペースがあり、スマホの充電もできます。最新シューズの試走やランニングの前後に利用するほか、アスリートに会えるイベントも実施予定です」

●原宿店は行列も

 24年2月にオープンした国内最大の直営店「Harajuku」は、オープン直後に入場待ちの長い行列ができる反響ぶりだった。人通りが多く目立つ神宮前交差点に位置することから、以前からのファンだけでなく、HOKAのシューズを履いたことがない人も多く訪れるという。

 「私たちが想定していた以上の客足です。SNSを中心に多くの方に話題にしていただきました。初めて履く方からは、『これほどの厚底なのに軽い』といった驚きの声が聞かれ、体験して初めて伝わる点が多いのだろうと思います」

 「Harajuku」では、営業時間の午前11時から午後8時までランニングシューズを屋外で試し履きできる「FEEL HOKA キャンペーン」を3月31日まで実施している。これもHOKAの特徴を伝えるのに役立っているそうだ。

 「Harajuku」のオープン以来、その他の直営店の売り上げも向上しているというHOKA。引き続き直営店を増やしたい意向があり、さらに人気が拡大する可能性がありそうだ。

(小林香織)