MVNOのイオンモバイルが、4月1日に料金プランを改定する。中容量帯の30GBから50GBを値下げするとともに、60GB以上のデータ容量を選択可能にする。改定後の最大容量は200GB。これを家族でシェアすることで、1人あたりの料金を節約できるというのが改定の狙いだ。背景には、データ使用量の増加や、シェアの利用が拡大していることがあるという。ここでは、その中身や、イオンモバイルの狙いを解説する。

●データ容量を最大200GBに拡大、家族シェア前提での安さを打ち出す

 イオンモバイルは、4月1日に料金プランを一部改訂する。目玉になりそうなのが、「さいてきプランMORIMORI」に追加するデータ容量だ。同社の現行料金プランは主に「さいてきプラン」と「さいてきプランMORIMORI」の2つに分かれており、前者は0.5GBから10GBまでを用意。1GB以上は1GB刻みでデータ容量が用意されており、細かなユーザーのニーズに応えている。これに対し、さいてきプランMORIMORIは、20GBから50GBまでを10GB刻みで展開する。

 このさいてきプランMORIMORIに、50GB超のデータ容量が追加される。新設されるのは、60GBから100GB。その上に、150GBと200GBの超大容量プランも加わる。料金は、音声プランの場合、60GBが4158円。10GB増えるごとに550円上がっていき、200GBは1万1858円で利用できる。また、30GB、40GB、50GBは料金を値下げし、音声プランでそれぞれ2508円、3058円、3608円になる。

 安さが売りのMVNOだが、さいてきプランMORIMORIは音声プランが20GBで1958円。大手キャリアのオンライン専用プラン/ブランドと料金水準は近い。100GBプランに至っては6358円で、「ahamo大盛り」を4958円で提供しているドコモよりも高くなってしまう。ただし、これは1人で利用した場合の話。さいてきプランMORIMORIはデータ容量のシェアに対応しており、複数人で使うと料金が安くなる仕組みだ。

 例えば、20GBプランを家族4人で利用した場合、1人あたりのデータ容量は5GBだが、料金は4人全員で3168円しかかからない。1人あたりの金額に換算すると792円。MVNOの5GBプランはおおむね1000円前後で提供されているが、1人あたりの金額はその水準を下回る。また、20GBプランを2人でシェアした場合はそれぞれ10GBずつ利用でき、1人あたり1254円、計2508円の料金がかかる。大手キャリアとの比較したときだけでなく、MVNOの中でも安い料金といえる。大容量プランを追加するのは、この特徴をさらに強化するためだ。

●値下げで急増するシェアユーザー、データ使用量の増加も引き金に

 やや複雑な仕掛けに見えるシェア前提の料金設計だが、イオンモバイルはイオンの店頭で、料金プランをきちんと説明できるのが強み。選択できるデータ容量を増やしても、それを伝えるための基盤が整っている。1GB/10GB刻みで細かくデータ容量を選択できるのも、いわば料金のコンサルティングができるからだ。こうした背景もあり、シェアプランの比率は2022年ごろから急増しているという。

 20GB以上の料金プランに絞ると、2021年9月には11.1%だったシェアプランの比率が、1年後の2022年9月には27.8%に増え、23年9月には37.9%まで拡大している。直近の2024年2月には、その割合が40.4%に達した。イオンリテールでイオンモバイルの商品マネージャーを務める井原龍二氏は、「イオンモバイルはシェアで伸びている」と語る。結果として2022年度以降は減少していた契約者数が純増に転じただけでなく、解約率も1.36%まで下がっている。

 シェアプランが受け入れられていることに加え、ユーザーのデータ利用量も伸びているという。料金プランの平均契約容量は、2017年3月時点で3.3GBで、2021年までは3.6GBと増え方がなだらかだった、2022年からその勢いが拡大。2024年2月には、6.2GBに達している。「スマホのコンテンツがリッチ化し、広告が動画になっていることも多く、普通に使っていてもデータ量が増える」(同)のが、その理由だ。シェアプランに、より大容量のプランが求められる状況になりつつあったといえる。

 200GBを現状の上限である5回線でシェアすると、1人あたりのデータ容量は40GBになる。料金は1人2701.6円なので、40GBの音声プラン(月額3058円)を個別に契約するよりも安く済む。さらに、イオンモバイルはデータ容量の追加と合わせ、シェアできる回線数を5回線から8回線に拡大する。仮に8回線で200GBをシェアしたとすると、1回線あたりのデータ容量は25GB。料金も、1人1853.5円まで下がる。

 1GBあたりの単価はデータ容量が大きいほど安いため、大容量プランでシェアを組んだ方が安くなるというわけだ。井原氏によると、実際に「5回線では足りないという声があった」という。8回線であれば、夫婦とその子どもだけでなく、夫婦の親をシェアプランに組み込んだり、1人がスマホとタブレットの両方に回線を入れたりすることもできる。大容量の追加とシェアできる回線数の拡大で、料金プランの柔軟性が増した格好だ。

●中・大容量に生存領域を広げるMVNO、イオンモバイルは目標100万回線を掲げる

 低容量が“生存領域”といわれていたMVNOだが、ここ1、2年は、中・大容量の料金プランを訴求することも増えてきた。先に引用した井原氏のコメントのように、スマホで閲覧するコンテンツのデータ量が大きくなっていることが背景にある。また、「5Gで(高速に)つながることもあり、データの消費量が増えている」(同)というのも、理由の1つといえる。MVNOにも、中・大容量化の流れがきているというわけだ。

 実際、MVNOでトップシェアのIIJmioも、3月に30GB、40GB、50GBの大容量プランを新設。イオンモバイルと同様、家族間やデバイス間でデータ容量をシェアする使い方を訴求している。IIJmioのギガプランはもともと20GBまでしか選択肢がなかったが、「20GBを使い切っているお客さまがだいぶ増えてきたという実感があった」(MVNO事業部 コンシューマサービス部長 亀井正浩氏)。一部のユーザーは、選択肢がないことで「他のMVNOに移っていた」(同)という。

 また、老舗MVNOの日本通信は2023年11月に、データ容量20GBだった「合理的20GBプラン」を30GBに増量。名称も「合理的30GBプラン」に改称した。約1年前までさかのぼると、2023年3月には、NUROモバイルが40GBの「NEOプランW」を導入している。中・大容量帯を新設したわけではないが、シェア2位のmineoは、2月に開始したキャンペーンで「マイピタ」の全プランを6カ月間990円に値下げしており、最大容量の20GBプランを訴求している状況だ。MVNOでも、中・大容量プランが激戦区になりつつあることがうかがえる。

 話をイオンモバイルに戻すと、同社の契約者数は2019年に50万を突破。2021年はahamoをはじめとするオンライン専用ブランド/プランの台頭やサブブランドの料金値下げが相次いだ結果、純減に見舞われてしまったが、2022年の料金改定でその勢いを徐々に取り戻している。その要因として「大きいのは解約率(の低下)で、お客さま満足度を上げることで、1%台まで下げることができた」(井原氏)。

 大容量プランの導入や一部容量の値下げにより、この勢いを加速させていく構えだ。目標は100万回線。数値自体は変わっていないが、達成時期を「28年度末までに何とか達成したい」(同)と、時期を明言した。目指すのは、「コンシューマー市場でのシェアナンバー1」(同)だ。ただ、先に述べたように、シェア上位のIIJmioやmineoも中・大容量プランに注力し始めており、MVNO間の競争も激化している。イオンモバイルは、イオングループが展開する金融商品との連携を強化しているが、「安さ」以外の魅力をどう打ち出していけるかも今後の行方を左右するカギになりそうだ。