■「タマゴとは何?」 細胞レベルまで突き詰める意味

 これから商品開発を通して業務スーパーの考え方をご説明していきますが、「細胞レベルまで分解」する思考法は本書全体に通底するので、もうすこし踏み込んでおきましょう。

「細胞レベルで考える」というのは、「この商品とはそもそも何でできているのか」「どうやって作られているのか」といった根本的な部分まで理解して、そこをスタートラインに考えることです。例えば、食品添加物などは商品の原料として市販されている、調合済みの便利なものもありますが、あれも素材レベルまで分解して理解せねばなりません。

 どうしてそこまで突き詰めるのか。それは、人間はついつい楽をしたい、手を抜きたい生き物だからです。そこまで徹底しないと、どうしたって「今知っている商品」をベースに考えたくなるじゃないですか。でもそれでは、その自分が知っている商品を作った人、その人の常識に基づいたアイデアしか生まれません。これを超えるには、商品じゃなくて、その素材まで分解してから「さあ、ここから何ができるか」と考えるのが一番いいんです。

 例えば、業務スーパーの卵焼きをもとに考えてみましょう。

 神戸物産グループの食品メーカー、オースターフーズ(兵庫県姫路市)には「厚焼玉子」という商品があります。卵焼きと聞くと、「そりゃタマゴで作るものだろう」と思いますよね。実は、この商品には豆乳が原材料に使われています。

 卵焼きとはなんでしょうか。タマゴをほぐして焼いたものですね。じゃ、「タマゴ」とはなんでしょう? その主成分は?

 突き詰めて考えると、タマゴとはすなわち「タンパク質」です。タマゴのタンパク質が熱されて、凝固したものが卵焼きとなるわけです。

 ということは、卵焼きとは「タンパク質焼き」といってもいいでしょう。そう考えると、タンパク質が豊富な大豆でも代用できるのではないか。要素分解することで、そんな考えが出てくるわけです。

 最終的には、タマゴと豆乳を配合して、タマゴの割合を下げるという製造法を考えました。もともとの卵焼きは70%がタマゴで、残りは出汁で作られていました。豆乳のコストはタマゴの10分の1程度です。実際に作ってみるとタマゴ70%の時よりも柔らかく、まろやかな味わいの卵焼きができました。