①男色は今日的な同性愛とは異なる

 北野武監督の映画作品『首』では、中年男性が中年男性の胸を舐めるようなシーンが印象的に描かれていて、「これでは『首』じゃなく『乳首』だ」という感想を漏らす友人もいた。これを見て戦国時代の男色をそのまま再現していると思った観客は少なくなさそうだ。

 しかし、当時の男色は、「未成年男性への性愛」であって、成人した「男同士の自由恋愛」ではなかった。だから、中年男性同士が性的に交わる例は史料に例が認められていない。少なくとも「あって当たり前」なものではなかったのである。

 もちろん当時に今風の同性愛もあっただろうが、史料から探れる範囲では表立ってそのような関係は結ばれていない。タブーではなかったと思うが、他人に公表する理由がなく、社会的にも取り上げる必要がないと思われていたのか、そうした記録は残っていないのである。

 武士の男色に思いを馳せる場合、ここを前提としておく必要があるだろう。