《はしか、欧州急増し世界的に流行 ワクチン接種減影響か、日本でも》

3月2日、共同通信は、欧州を中心に世界各地ではしか(麻疹)の感染が拡大していると報じた。日本でも、3月8日東京都内で、20代女性の感染が報告、この患者は、3月1日に大阪府で発表した事例と同じ国際便の飛行機に搭乗していた。

ナビタスクリニック立川の内科医・久住英二さんが語る。

「WHO(世界保健機関)によると、欧州で発生したはしか患者数は、2022年は約950人でしたが、2023年には4万2千200人と、45倍にも急増しています」

その原因と考えられるのが、コロナ禍によって6千100万回分のワクチン接種の機会が失われたことなどがあげられる。

「また、ワクチンに対するネガティブな情報などにより、接種をためらう人が少なくないのではないでしょうか。

ただし、はしかは集団の95%に免疫がなければ流行してしまう危険性があり、本来2回受けるワクチン接種率のわずかな低下でも影響が出る可能性があります。

実際に患者が急増している欧州では、2019年の1回目のワクチン接種率は96%でしたが、2022年には93%に、2019年の2回目の接種率は92%でしたが、2022年には91%に減っています。このわずかな差で、大流行が起きているのです」(久住さん、以下同)

それほど感染力が強いのが、はしかの特徴なのだ。

■インフルエンザの9倍もの感染力が!

「空気感染するため、換気が行き届かない建物の中に1人感染者がいれば、建物にいる全員が感染する可能性があるほどです。マスクで予防することもできません。

基本再生産数を見ても、新型コロナは1人の感染者から3人程度、インフルエンザは2人程度に感染しますが、はしかは12〜18人に感染します。単純計算するとインフルエンザに比べ6〜9倍の感染力があるといえます」

そのため、世界では定期的に局所的な、小規模な流行が発生してきた。

「2015年、アメリカのカリフォルニア州では、ディズニーランド来園者などから、はしかが流行。流行した地域のワクチン接種率は、わずかに下がっていたと報告されています」

日本国内でも、感染例が報告されている。

2016年には関西空港の空港職員などが集団感染した。2018年には台湾から沖縄観光に来た1人から、沖縄で流行。このとき名古屋では、沖縄旅行をした男性から女性が感染するなどして、愛知や東京などにも感染が広がった。

また、コロナ禍のなかの昨年4月、インドから帰国した男性が、発熱などの症状を訴え、はしかに感染していることが判明。同患者と同じ新幹線に乗り合わせた30代女性、40代男性への感染も相次いで確認されている。

「ワクチン接種や自然感染をせず、免疫を持っていなければ、ほぼ100%感染します」

そのワクチンも、2000年4月2日以降に生まれた人は2回接種をしている可能性が高いが、1972年9月30日以前に生まれた、今年52歳以上となる人は、1回もワクチン接種をしていない可能性が高い世代だ。また1972年10月1日から2000年4月1日までに生まれた人は1回接種の世代となる。

「多くが自然感染しているはずですが、免疫を持っていない、また十分でない人は要注意です」



■特効薬がないので治療は対症療法だけ

はしかは10日ほど潜伏期間があり、初期症状は普通の風邪と同じで、せきや鼻水、発熱など。

「発症3日目くらいから症状が強まり、40度を超す熱が出たり、結膜炎を起こしたり、全身にぶつぶつと赤い発疹が出てきて、1週間ほどで治ります。

インフルエンザに対するタミフルのような特効薬はないため、治療は高熱が出れば解熱剤を服用するなど、対症療法となります」

また、国立感染症研究所の資料によると、約30%の患者が合併症を発症するという。その半数を占めるのが肺炎。

「肺炎は高齢者の場合、死亡することもあります。脳炎を起こせば、錯乱したり意識レベルが低下したり、最悪、死に至ります」

1千例に1人は脳炎を起こすといわれている。

さらに、患者10万人に1人の割合で起こる亜急性硬化性全脳炎は、はしかに感染して7〜10年ほどで発症する中枢神経疾患。

「治療薬はなく、発症後は知能障害や運動障害が進行し、数カ月から数年で死亡します」

妊婦も要注意。感染すると、重症化しやすく、30〜40%の確率で早産や流産、死産となるというデータもあるのだ。

「はしかの死亡率は0.1%程度といわれています。ただし、コロナ禍でも経験したとおり、感染が爆発的に広がると医療崩壊が起きて、死亡率が上昇します。

2019年、フィリピンではしかが流行した際には、死亡率が3.2%だったと報告されています」

日本でもコロナ禍で人との接触が限られ、手洗いやアルコール消毒の習慣が続いているため免疫力が落ちているので、感染すれば症状が重くなることも考えられるという。

「過去2回のワクチン接種や感染歴がわからない人は、抗体検査やワクチン接種を検討しましょう。

自費の場合、抗体検査は5千〜8千円ほど、ワクチン接種は1回あたり9千円〜1万1千円ほどです」

“はしかのようなもの”と若気の至りとして扱われているはしかだが、決して甘く見てはいけない病気なのだ。