1.労働条件通知書とは
企業が労働者に交付する労働条件を明示した書面
労働条件通知書とは、人を雇う際に使用者*が労働者に提示する、賃金や労働時間、勤務地などの労働条件を明示した書面です。労働基準法第15条で、労働条件の明示について以下のように定められています。
労働基準法第15条
使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
労働条件通知書がないのは違法
前述のとおり、労働条件通知書を交付しない(労働条件の明示がない)のは労働基準法違反となります。提示方法は以前は書面のみでしたが、2019年から労働者が希望した場合は電子交付(メールやSNSメッセージでのファイル添付、FAXなど)もできるようになりました。
なお、書類の名称としては「労働条件通知書」以外に「雇入れ通知書」「就労条件通知書」などと記される場合もあります。明示すべき事項がきちんと記載されていれば、これらのような書類名でも問題ありません。
雇用契約書との違い
労働条件通知書 | 雇用契約書 | |
---|---|---|
交付の義務 | あり | なし |
関連法規 | 労働基準法第15条 | 民法第623条 |
ない場合の罰則 | 30万円以下の罰金 | なし |
署名 | 会社のみ | 双方 |
労働条件通知書は交付の義務があるのに対し、雇用契約書は作成の義務がないのが大きな違いです。労働条件通知書は雇入れに際して必ず発行しなければなりませんが、雇用契約書がなくても労働契約(雇用契約)は成立します。主に業務内容などの認識の共有やトラブル防止、労働者の同意を確認するために作成されます。
また、労働条件通知書は使用者(会社側)が労働者に提示する書面なのに対し、雇用契約書は「契約書」として双方が署名・捺印する形式をとります。労働条件通知書に双方の署名・捺印欄を設けることで雇用契約書を兼ねることも可能です。
2.【2024年4月改正】労働条件明示の新ルール
労働基準法施行規則の改正により、2024年4月から労働条件の明示についての新たなルールが追加されます。転勤の可能性がある人や、契約社員など有期雇用契約で働く人に関わる内容ですのでチェックしてみてください。
(1)就業場所・業務の「変更の範囲」を明示
すべての労働者を対象に、労働契約の締結または更新のタイミングで就業場所・業務の「変更の範囲」まで含めた明示が必要になります。
改正前は就業場所と業務内容について雇入れ時の条件明示のみでしたが、転勤や異動の可能性がある場合はその範囲も対象になりました。「会社の定める営業所」「会社の定める業務」などと示されていれば、すべての拠点や業務への配属可能性があることになります。「◯◯県内の事業所」などと書かれていれば、決まったエリア内で転勤の可能性があります。
(2)有期契約の更新上限の明示
有期雇用契約の締結・更新の際に、契約期間または更新回数の上限の明示が必要になりました。すでに締結されている有期雇用契約でも、2024年4月以降、契約更新の際には使用者に上限の明示が求められます。
また、通算契約期間を短くしたり、更新回数を少なくしたりするなど更新上限を新設・短縮する場合にも、該当する労働者に対して事前の説明をしなければなりません。
(3)無期転換機会・無期転換後の労働条件の明示
有期雇用契約の更新が5年を超え、無期転換申込権が発生した労働者に対しては、契約更新時に無期転換申込機会の明示が必要になりました。明示すべき内容には、無期転換後の労働条件も含まれます。
無期転換後の労働条件の明示は、無期転換申込権が発生する契約更新時と、実際に無期雇用に転換して労働契約を結んだときの両方でおこなわなければなりません。
3.労働条件通知書の明示事項
労働条件通知書の内容には、前述の改正点も含め必ず記載しなければならない条件(絶対的明示事項)と、制度を設ける場合には記載の必要がある条件(相対的明示事項)があります。
絶対的明示事項
- 労働契約の期間
- 有期契約の場合、契約更新の基準
- 就業場所および業務内容
- 始業・終業時間、残業有無、休憩、休日・休暇、交替勤務
- 賃金額、賃金の計算・支払方法、締め日・支払日、昇給
- 退職、解雇
契約の期間や就業場所、業務内容や賃金など働く前提となる条件は、絶対的明示事項に含まれています。もし労働条件通知書にこれらの項目が見当たらなければ、正確に記載したものを発行してもらえないか会社に確認してみましょう。
相対的明示事項
- 退職金の対象者、決定・計算・支払方法、支払時期
- 退職金以外の臨時手当、精勤手当、勤続手当、賞与、最低賃金
- 労働者負担の食費、作業用品
- 安全および衛生
- 職業訓練
- 災害補償、業務外の疾病扶助
- 表彰および制裁
- 休職
相対的明示事項は、上記の制度がある場合に記載されます。あくまでこれらも「明示事項」ですので、制度を設けるかどうかは会社の任意ですが、制度があれば記載しなければなりません。
また、明示事項は書面で交付しなければならないものと、口頭でも良いものに分かれています。書面の交付が必要な事項はおおむね絶対的明示事項と一致していますが、昇給に関するルールは口頭でも問題ないとされています。
書面の交付による明示事項 | 口頭でも問題ない明示事項 |
---|---|
・労働契約の期間 ・就業場所および業務内容 ・始業・終業時間、残業有無、休憩、休日・休暇、交替勤務 ・賃金額、賃金の計算・支払方法、締め日・支払日 ・退職 | ・昇給 ・退職金の対象者、決定・計算・支払方法、支払時期 ・退職金以外の臨時手当、賞与など ・労働者負担の食費、作業用品 ・安全および衛生 ・職業訓練 ・災害補償、業務外の疾病扶助 ・表彰および制裁 ・休職 |
4.労働条件通知書に関するよくある疑問
Q.労働条件通知書の交付は義務ですか?
A.労働基準法第15条により、使用者には労働者への労働条件通知書の交付が義務付けられています。雇用期間の定めのない正職員だけでなく、契約社員、パート、アルバイト、日雇いなどいずれの雇用形態でも必要です。
Q.労働条件通知書はいつもらえる?
A.内定時、または入社時に交付されることが一般的です。労働条件の明示は「労働契約の締結に際し」おこなうと定められています。同様に、有期雇用契約の更新時にも明示が必要です。
労働契約は使用者と労働者が合意した時点で成立するものとされており、いわゆる即入社のような内定日と入社日が近いケースを除き、内定通知と同時に労働条件通知書を交付するのが望ましいとされています。
Q.労働条件通知書はどうやって入手する?
A.労働条件通知書は使用者が発行するため、労働者がやらなければならない手続きはありません。内定をもらったら、会社(事業所)から労働条件通知書が送られてくるのを待ちましょう。
なお、労働者側が希望すれば書面ではなくメールなどでの交付も可能になっています。内定までの間もメールで連絡しているなど、紙の書類でなくても支障なければ内定先にそのことを伝えても良いでしょう。
Q.労働条件通知書をもらってないときはどうする?
A.内定後、労働条件が示されていなければ会社(事業所)に労働条件通知書がまだ届いていないことを伝え、発行してもらいましょう。労働条件通知書の明示事項が不足している場合も同様です。
発行を依頼しても入社時まで労働条件通知書が交付されない場合は明確な労働基準法違反となります。内定辞退を含めて慎重に検討するか、事前に聞いていた業務内容と条件が異なるなど悪質な場合は、そのやりとりの記録をもって労働基準監督署に相談しても良いでしょう。
参考
e-Gov法令検索|労働基準法