イケメンという存在についてこんなに考えさせてくれる俳優って他にいる?



 いつでもさらりとどんな役柄もこなしてしてしまう岡田将生だが、2024年2月8日に公開されていたマクドナルドのCMについては、再検証する必要がある。

 イケメン研究をライフワークとする“イケメンサーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が、キモさが限界突破する岡田将生を徹底解説する。

一周まわって“まー君”呼びがしっくりくる

 『天然コケッコー』DVD(角川エンタテインメント) ぼくらが知ってる岡田将生はどこへ? マクドナルドのCMひとくちチュロス「なめらかになった」編でのキモさを見る限り、『花ざかりの君たちへ〜イケメン♂パラダイス〜』(フジテレビ、2007年)では、まだ生田斗真の後ろに控えていた“まー君”の面影はないに等しい。

 あるいは、実年齢と役柄が符号する10代の青春一本勝負作『天然コケッコー』(2007年)は、岡田将生第1時代、つまりは、初々しさと劇的なまでのチャーミングが渋滞していた“まー君”呼びがいかにも相応しい光明の時期だった。同作公開からすでに16年以上が経っていることを考えると、軽くめまいがする。

 その間、めまぐるしい勢いと根気強さで出演歴を重ね、俳優として持続力のある存在になった。同時にどこかで、かつての面影をのぞかせては隠れる。結局、一周まわって、やっぱりまー君がしっくりくるなんてことも。

第2期のターニングポイント

 『ハルフウェイ』DVD(ポニーキャニオン) どうしてこうもややこしいんだ。もともとそうだったのか、いつからかややこしくなったのか。文頭で確認したように、デビュー当初はあの呼び名を思わず発したくなる、ふわふわマシュマロみたいな。

 どの時点で岡田は大転換したのか。彼の出演作品を追うとき、作品ごとで演じる振り幅の大きさに驚かされることがある。

 2009年公開の『ハルフウェイ』や『ホノカアボーイ』など、映画俳優としてさわやかにたたずみながら、キャラクターの内面世界まで透けて見える主演作を経過し、2013年公開の『潔く柔く』へといたるのが、第2期だとする。

 ターニングポイントは、ちょうど2016年放送のドラマ『ゆとりですがなにか』(日本テレビ)あたりだろうか。同作の岡田扮するクソダサ営業マンの坂間正和は、ゆとり世代代表のひとりとして、イケてないけど、でもイケメン(?)みたいな疑問符を提示した。



『星の子』『ドライブ・マイ・カー』で見せたのは…

 『ドライブ・マイ・カー』Blu-ray(TCエンタテインメント) このダサキャラが紛れもないはまり役だったし、世代的な親しみやすさは、明らかにまー君呼び適用範囲。『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』(2017年)のツッパリ兄貴役もこの範囲に含め、これで第3期は呼び名復活かなと思いきや、芦田愛菜主演の『星の子』(2020年)で、芦田を前に困惑と無言の好演を響かせてくる。

 あれ、まー君、やっぱ違うの? みたいに狐につままれたこの感じ。さらにダブルパンチ。濱口竜介監督作『ドライブ・マイ・カー』(2021年)で演じた人気俳優役の潜在的な暴力性は、まるでヴァンパイアのようで、血の気が引く、寒々しい怪演だった。

 この役を引っ提げて、日本映画初のアカデミー賞作品賞ノミニーとなった同作の授賞式レッドカーペットでは、世界が岡田の存在を発見したかのように、カメラのフラッシュがパシャパシャ。あれよあれよという間に世界の人に。やっぱ狐につままれてる……。

荒業俳優に白旗を降る

 こうなれば、もうふざけた呼び方はできなと筆者は深く思ったのだけれど、どっこい、日本に戻れば、『天然コケッコー』の山下敦弘監督との再タッグ作『1秒先の彼』(2023年)や『ゆとりですがなにか』の劇場版『ゆとりですがなにか インターナショナル』(2023年)がさらりと公開されてしまう。

 ダブルのダサキャラが飛び道具となる。すさまじい荒業俳優っぷり。もうこの際、一度すべての出演作品をリセットさせてもらう。その上で、改めてもう一度、岡田将生をまっさらな気持ちで見つめてみると……。

 画面中央で驚異の動きで身体をふるわせる。くねくね、くねくねする岡田。あぁ、まただよ。もう嫌だ。マクドナルドのCMひとくちチュロス「なめらかになった」編で、くねくねダンスを披露する岡田には、もう大人しく白旗を降るより他ない。



キモさレベルが限界突破



 オフィスでのひと幕。伊藤沙莉がチュロスを一口食べようとすると、向かいに座る岡田将生が、かぶりつきで聞く。「チョコがなめらかになったんだよね?」。それがどれくらいなめらかなのかをダンスでいきなり表現する。

「これくらいなめらかかなぁ」とオフィスフロアーをいったりきたり。足さばきは、横ムーンウォークみたいで、確かになめらかな動きだけれど、キモさレベルがとうとう限界突破してしまった(このなめらかな動きが、岡田本人によるものか、ダンス監修者との合成であるのか、ネット上では話題)。

 3月8日から全国公開されている主演映画『ゴールド・ボーイ』では、めずらしく殺人犯役を演じて新境地だと呼び声高いのに、こんなキモカワの境地をくねくねダンスで表現するなんて。これなら胸を張ってもう一度、まー君呼びができそうじゃないか!

 毎週金曜日よる10時から放送されている『不適切にもほどがある!』第7話では、めちゃイケだけど、でもうっすらダサい感じも漂う美容師役でハイブリッドなゲスト出演をサラッと決める。どうせまたアカデミー賞級のストレートな演技を軽々と投下するんだろうなぁ。

<文/加賀谷健>

【加賀谷健】
音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu