“青春映画といえば”の古厩智之監督にかかるとどんな若手俳優も活気づいてきらめく。長澤まさみ初主演作『ロボコン』(2003年)でも高専の学生を主人公に、ロボットコンテストの熱気を画面からふるわせた。

 古厩智之監督 2024年3月8日から全国公開されている映画『PLAY! 〜勝つとか負けるとかは、どーでもよくて〜』(以下、『PLAY!』)では、徳島の高専に通う少年たちが、eスポーツ全国高校生大会に挑む奮闘を描く。単なる自転車の走行でさえマジカルな一瞬として映ってしまう不思議……。

 イケメン研究をライフワークとする“イケメンサーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が、大学時代の恩師でもある古厩智之監督に前編・中編・後編のロングインタビューを行った。

 中編では、小池徹平主演映画『ホームレス中学生』(2008年)の撮影秘話など、作品を越えて俳優たちが共振するかのような“古厩マルチバース”を読み解く。

「みんな僕を通過点としてビッグになっていく(笑)」

 ©2023映画『PLAY! 〜勝つとか負けるとかは、どーでもよくて〜』製作委員会――古厩監督は、これまで10代の青春をライフワーク的に繰り返し描いてきました。佐野岳さん主演の『「また、必ず会おう」と誰もが言った。』(2013年)では、主人公のキャラ設定で苦労し、自分に引き寄せて考えたそうですね。当時40代だった監督フィルターを通じた10代だったわけですが、『PLAY!』ではどうでしたか?

古厩智之監督(以下、古厩):主人公となるティーンの気持ちを考えることは毎回難しいところです。例えば、奥平(大兼)くんが演じている郡司翔太は過酷な家庭環境ですよね。

 でも僕はこんなに厳しい家庭環境で育っていないし、現代にある貧しさをほんとうの意味では知らない。それでもわかりたいと思う。自分が理解できないことは脚本として書けませんから。

 奥平くんと鈴鹿(央士)くんともディスカッションしました。題材について自分で納得がいった段階で、あとは二人の演技に委ねました。

――奥平さんと鈴鹿さんはすでにめざましい活躍ですが、古厩作品をきっかけに若手俳優がその後目覚ましいキャリアを重ねていく姿を見ていてどんなことを感じますか?

古厩:みんな僕を通過点としてビッグになっていく(笑)。それは冗談としても、その後の活躍を見ていると、みなさん、いい現場や監督と巡り合っているなと思います。

若手俳優から“もらえるところ”を探す

映画『PLAY! 〜勝つとか負けるとかは、どーでもよくて〜』――若手俳優を送り出すとき、彼らからどんなことをキャッチしているのか。演出の秘訣を教えてください。

古厩:まず大前提として撮影が一番楽しいものです。撮影はライブです。脚本段階では、作品全体の7割くらいしか書けないものであった方がいい。

 撮影をともにする俳優さんから残りの3割をもらうことにしています。僕は俳優に対して演出を施すというより、「いいところはどこだろう?」、「もらえるところはどこだろう?」と探ることを心がけています。

 例えば、翔太は優しいけれど、とても受け身のキャラクターです。それは今っぽい若者の特徴だなと思いました。その受け身のキャラクター性自体は奥平君が見つけたもの。僕はそれを感じて、いいところとしてもらいます。

――『のぼる小寺さん』(2020年)の伊藤健太郎さんも受け身の人で、終始、工藤遥さんを眼差す側でしたよね。

古厩:そうでしたね。



「受けるということ」はものすごく映画的

――受けるということは、古厩作品の人々に共通することでしょうか?

古厩:見るという行為も受け身ですよね。映画を観るなど、受け身は楽しいものです。映画だと、客席の向こう側に光を出すものがあって、客席ではその光を受ける。夕日を浴びてる人が美しいように、受けてる人も美しい。

 ここで重要なことが。受け手にとっての光源である夕日そのものは、光っていてカメラでは撮れないんです。だから光を浴びてる(受けてる)ほうを撮ることで、夕日の美しさを表現するんです。

 フランスの映画監督ジャン=リュック・ゴダールが、「映画の真髄は何か」と聞かれて、「光のほうにキャメラを向けること」だと答えています。僕はこの言葉を光源と受け手との関係性だと解釈していますが、だから、受けるということにはものすごく映画的なことがあるんです。

――『のぼる小寺さん』では、まさに夕日の中でベンチに座る場面があって、どこからともなく映画的瞬間がやってくる感覚がありましたね。

古厩:あの日はうまくいきましたね(笑)。「こっちが西側で太陽が来ます」と照明技師と相談しながら、「明日、天気だから撮ろう」と現場で狙ってました。やはり狙わないと撮れないものですね。

『ホームレス中学生』当時の小池徹平

古厩監督――小池徹平さんが日本アカデミー賞新人賞を受賞した『ホームレス中学生』冒頭場面でも木漏れ日が印象的でした。主人公が校門前で会話していると頭上に木漏れ日が差す。そうかと思えば、さぁっと雲間に隠れて、木漏れ日が差さなくなる。木漏れ日の変化で小池さんの魅力を引き出していたかのかなと思いましたが。

古厩:よく気づきましたね。あの場面の演出について初めて指摘されました。びっくりです(笑)。あの木漏れ日、実際には木が立ってなくて、スタッフが葉っぱだけで木漏れ日を作っています。

――木漏れ日の場面が象徴するように爽やかな青春の瞬間にきらめていた小池さんが、今や『離婚しない男-サレ夫と悪嫁の騙し愛-』(テレビ朝日)で不倫ドラマに活路を見出しているという(笑)。

古厩:ドラマはまだ見ていないんですが、かなり強烈な演技だと方々から聞いています。

――『ホームレス中学生』での小池徹平さん(当時22歳)はどうでしたか?

古厩:2005年にウエンツ瑛士さんとの「WaT」でメジャーデビューし、ソロデビューも果たした直後の作品でした。俳優としてもどうやって地盤を固めていくかというタイミングだったと思います。

 演じた役柄は中学生。けれど、小池くん自身はもう少年ではありませんでした。小池徹平くんにはめちゃめちゃハードなミッションでした。何をやったって「麒麟の田村とちゃうやんけ。しかも中坊ちゃうし」と言われてしまう何重苦というか……。

 徹平くんに何て言おうかと思ったんですが、無理すんのやめよう、田村さんぽくとか、中坊っぽくとかやめて、ただ素直にやろうと言いました。すると徹平くんも「僕もそれでやろうと思ってます」と言いました。追い詰められた2人というか(笑)。あのとき共闘できると思えました。



まるで“古厩マルチバース”!?

――『ロボコン』で部長役の伊藤淳史さんが、『離婚しない男』では小池さんにえげつないほど苦しめられる。作品の垣根を越えた、まるで“古厩マルチバース”だなという感じがしていて……。

古厩:(笑)。そう思いながら作品間を横断して見ていたら、楽しいですよね。

――奥平さんの俳優デビュー作『MOTHER マザー』(2020年)が長澤まさみさん主演映画です。長澤さんは『ロボコン』で映画初主演。こうして監督のフィルモグラフィーから時を経て出演俳優たちが共振するかのような巡り合わせを感じることはありますか?

古厩:はい、嬉しいことです。それで思い出しました。もともとブロードウェイのミュージカルだった『キンキーブーツ』。あの作品には驚きました。『ホームレス中学生』と同じ年に公開された『奈緒子』の主演の三浦春馬くんが主演、相手役が小池くんで、すごく面白かったです。

――まさにマルチバース共演ですね。

古厩:単なる偶然の重なりですが、今後の監督作でも是非、マルチバース共演を探してみてください(笑)。

<取材・文/加賀谷健 撮影/山川修一>

【加賀谷健】
音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu