女子SPA!で大きな反響を呼んだ記事を、ジャンルごとに紹介します。こちらは、「結婚」ジャンルの人気記事です。(初公開日は2021年3月1日 記事は取材時の状況)

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 結婚したら子どもを持つのか持たないのか。わざわざこれを恋愛中に話し合うカップルは多くないのかもしれない。

 子どもがほしくてもできるとは限らないという問題もある。人は「恋愛」という気持ちよさに溺れて、つい「結婚」がゴールであるかのように考えがちだ。

 子どもはいらないという夫との離婚を視野に入れている女性に話を聞いた。

 写真はイメージです(以下同じ)

新婚旅行から避妊を欠かさない夫

 自分が家庭を持つとき、人はあらためて子どもがいたほうがいいかどうかを考えるものなのだろうか。アカリさん(36歳)は、結婚後、そんな思いにとらわれた。なぜなら、新婚旅行から、夫は避妊を欠かさなかったからだ。

「同い年の夫と出会ったのは30歳のとき。2年つきあって、どちらからともなく結婚しようという話になったんですよ。私は彼のことが大好きだったし、彼も私のことを好きだと確信していたし。なんの問題もない結婚だったんですよね」

 結婚後もお互いに仕事を続けるため、ふたりとも通勤時間が30分くらいですむ場所に新居を構えた。

「家賃は彼、光熱費と生活費は私、1ヶ月後にもし私のほうが多く出していたらそれは折半というアバウトな話し合いはしました。お互い、束縛するのが嫌な性格。だからなるべく自由に暮らしていこうとも言っていたんです」

結婚 それでも結婚してからは、一緒に映画を観に行ったり、それぞれの母校の大学のラグビー観戦へ一緒に行ったり。これまでお互いに自宅住まいだったので、「帰るところが同じというのが楽しかった」という。

 最初、アカリさんは夫が結婚後も避妊しているのは、まだ子どもをもつ時期ではないと考えているからだと解釈していた。

「ただ、私はそろそろ第一子がほしかったんですよ。だから結婚して1年たったころ、夫に『私も仕事が落ち着いてきたし、今なら産休や育休もとりやすいから、子どものことを考えてみない?』と言ってみたんです。すると夫は『へ?』という感じで、『ごめん。オレ、子どもいらないと思ってるんだよね』と。今度は私のほうが『へ?』ってなりました」



子どもについてまったく別の考え方の夫

 結婚前、ふたりで電車に乗っているとき、目の前にいた赤ちゃんが彼の手をとって離さないことがあった。彼は好きなようにさせながら、「かわいいよね」と言ったはずだ。

「赤ちゃんはかわいいと思うよ。だけど自分が子どもをもつかどうかは別の話じゃん、と。

 いやいや、それはおかしいでしょという話になって。結婚するということは、子どもが生まれてもいいということじゃないの? と私は頭がこんがらがっていきました」

 結婚は家庭をもつこと、イコール当然のこととして子どもを受け入れることだと、アカリさんは認識していたのだ。だが、夫はまったく別の考え方をしていた。

赤ちゃんがすぐそばにいたのに不倫したのはおかしい

「自分の人生が阻害されるから」

 夫の真意を知って、アカリさんは戸惑(とまど)い、悩んだ。子どもを持たない結婚生活を送り続ける気持ちはなかったからだ。

 もちろん、子どもができないことはあり得る。だが、できないことと、できるかどうかわからないけれど最初から持たないと決めることとは意味が違う。

「夫を説得したんです。ごく普通に妊娠したら、それを受け入れたい。私は子どもがいる家庭を望んでいる、と。でも夫は子どもはいらないの一点張り。どうしていらないのかと言ったら、『自分の人生が阻害されるから』って。ショックでしたね、あの言葉が」

 きみもてっきり子どもを望んでいないと思っていた。夫はぽつりとつぶやいた。そういえば、アカリさんは彼とつきあっているとき、子どものいる女友だちが愚痴っていると話したことがあった。だがそれは、あくまでも友だちの話。自分が子どもはいらないと言った記憶はない。



「それなら離婚して」と叫んだ

「夫とはそれからも性的な関係はありましたが、やはりきっちり避妊されてしまう。だんだん虚しくなってきて、私は行為を拒絶するようになりました。同時に、早くしないと出産できなくなってしまうという焦りがだんだん激しくなってきています」

 子どもがいらないなら離婚して、とつい先日、夫に叫んでしまったという。夫は静かな口調で、「それもしかたがないよね」と言った。

セックスレス、破局離婚不仲夫婦カップル「夫はそろそろ起業したいと考えているみたい。だから子どもはもてない、と思い込んでいるんです。でも大変でもいい、私は子どもがほしい。

 義母も実母も、悪気はないんでしょうけど『子どもはまだ?』と言うんですよ。義母に全部打ち明けてしまおうかと今、思い悩んでいます」

 こんなことで苦しむとは思わなかった、彼もごく普通に結婚する段階で子どもを受け入れるつもりだと思い込んでいた、とアカリさんは何度も言って涙ぐんだ。

 あと1年、あと1年と引き延ばして結婚4年がたってしまった。もう時間がない。年内に彼の考えが変わらなかったら、「年末に引っ越します」と彼女は力なくつぶやいた。

自分の常識は他人の非常識

 結婚後の青写真をきちんと作りすぎて計画通りに生きていくのも、あまり楽しい人生とは思えない。だが、子どもをもつかどうか、それぞれがどういう仕事のしかたをしていくかくらいは、ゆるくでもいいので、すり合わせておいたほうがよさそうだ。自分が「当たり前」だと思っていることが、相手には「当たり前ではない」こともあるからだ。

 自分の常識は他人の非常識。これは結婚相手を選ぶときにも頭の隅に置いておきたい言葉かもしれない。

―シリーズ「結婚の失敗学〜コミュニケーションの失敗」―

<文/亀山早苗>

【亀山早苗】
フリーライター。著書に『くまモン力ー人を惹きつける愛と魅力の秘密』がある。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。Twitter:@viofatalevio