“子煩悩な夫、可愛い盛りの娘、そしてワーママライフを満喫している私、立山春奈。幸せの絶頂におとずれたのが、チカチカだったのです”

 「隣の家からのチカチカが止まらない話」(KADOKAWA)サル山ハハヲ (著)『隣の家からのチカチカが止まらない話』(KADOKAWA)は、背筋も凍るようなコミックエッセイ。しかも、実話に基づいて書かれているのだから驚きです。

家族3人、順風満帆だったのに

チカチカがはじまったのは、立山一家が念願のマイホームを手に入れ、引っ越してきた矢先のことでした。チカチカとは、お隣さんの2階の部屋から向けられる光です。

春奈と娘のみのりが車で帰宅すると、決まってガレージを標的に光が点滅します。まだ小さな娘の声がお隣に響くのかもしれないと危惧し、春奈は努めて静かに生活します。が、立山家に向けられるチカチカは止まらずに、むしろ執拗(しつよう)になってくるのです。

チカチカ1 チカチカ2

チカチカ3 チカチカ4

チカチカ6 チカチカ7

チカチカ8 チカチカ9

チカチカ10 チカチカ11

チカチカ12 チカチカ13

チカチカ14 チカチカ15

チカチカ16 チカチカ17

チカチカ18

実害はないとはいえ、気持ちが悪い

夫の冬樹に相談するも、のらりくらりとかわされるだけ。光をあてられるだけなので実害はなく、警察も取り合ってくれません。とはいえ毎日チカチカが繰り返されて、春奈は悶々とするばかり。ついに友人ふたりを自宅に呼び、チカチカを検証してもらうのです。

お隣の2階には、いわゆる引きこもりの息子がいるという情報をキャッチ。チカチカを原因に、何人かの住民が引っ越していった事実も突き止めました。春奈も引っ越しを考慮したものの、夫・冬樹はもちろん大反対です。

やがて春奈は、チカチカにはある法則があることに気がつきます。チカチカに隠されたメッセージはなんなのか。物語は一気に闇へと突入。それは単なる嫌がらせやご近所トラブルを超えた、人間関係の闇と、人の心に潜む闇でした。

人はこわい、でも捨てたものでもない

読んでいる最中、「これは本当にリアルにあった出来事なのか?」と頭を抱えそうになります。世の中の怖さを知ると同時に、まだ捨てたものじゃない人とのつながりも感じます。なんとも不思議で、つい目をそむけたくなる物語ですが、読み終えたあとはなぜか泣けてくるのです。

気にしなければいい。なかったことにすればいい。そんな小さなモヤモヤを、日々抱えて生きている私達。でも春奈は、心に芽生えたモヤモヤから逃げずに、正面きって奮闘しました。そんな春奈に、私は最大級のエールを送りたいのです。なぜなら、今作に登場するさまざまな闇も光も、私達のすぐ隣で起こっているからです。

私達もいつ、春奈と同じ体験をするかわかりません。人生の一寸先は闇、でも光があるからこそ闇もできるのです。何があっても、顔を上げて果敢に生きていかなくてはならない。作者が伝えたかった本当のメッセージは、生きていく怖さではなく、生きていく強さではないでしょうか。一読すれば、あなたもきっと勇気がわいてくるはずです。

<文/森美樹>

【森美樹】
1970年生まれ。少女小説を7冊刊行したのち休筆。2013年、「朝凪」(改題「まばたきがスイッチ」)で第12回「R-18文学賞」読者賞受賞。同作を含む『主婦病』(新潮社)、『母親病』(新潮社)、『神様たち』(光文社)を上梓。Twitter:@morimikixxx