ユイのてっぺんにフィニッシュ地が設けられて、今大会で40回目。以来、数あるクラシック難所の中でも指折りの激坂は、その年のベストパンチャーだけに微笑みかけてきた。アルデンヌクラシック最高の名物にして、フレーシュ・ワロンヌ唯一絶対の勝負地を、この春は、誰が真っ先に上り詰めるのか。

大いなるマンネリズムであり、あまりにも特殊。2003年大会を最後に、逃げや事前アタックが勝利に結びついたことは、一度たりともない。足自慢たちは、ただひたすら、道の終わりにそびえるミュール・ド・ユイを待ち続ける。加速すべきはラストほんの数百メートル。仕掛けは早すぎても遅すぎてもならない。全長1.3km、平均勾配9.6%、最大勾配26%の怪物退治には、正確なタイミングと、正確な力配分とが求められる。

正解はチャンピオンによって異なる。かつてのアレハンドロ・バルベルデにとっての勝利の方程式は、チーム総出で早めに最前列ポジションを確保したら、ラスト200m前後で軽やかな加速を切ること。これにて大会史上最多優勝5回+表彰台4回の快挙を成し遂げた。ジュリアン・アラフィリップは初出場から2大会連続でひどく悔しい思いを味わった後──とは言ってもいずれも2位──、その後は出場した3大会連続で両手を上げた。いずれも先に仕掛けた選手の勢いを利用し、フィニッシュ手前ぎりぎりで追い抜く作戦を成功させている。

今年もおそらく、全てはユイの「最終登坂」で繰り広げられる。たとえ大会史上初めて、2024年大会の男子プロトンが、ユイを合計4度よじ登らねばならないとしても!

例年であればユイの直前に組み込まれてきたコート・ド・シュラヴ(全長1.3km、平均勾配8.1%、最大勾配13%)が、今年は工事のせいで通行止めとなった。この難所でさえ、たいして集団を絞り込む役目を果たせないというのに、もはや終盤に残る上りは平凡なコート・デレフ(2.1km、5%、9.8%)だけ。ますます勝負はラスト一発頼みになってしまいそう……。

だからこそ、2024年大会の開催委員会は、発想を大胆に転換した。これまでユイの前に難所を入れてみたり、ステージ前半に登りを組み込んでみたりと、どうにか変化のあるレースを作り出そうと試行錯誤を繰り返してきたが、今年は極めてシンプルに行く。全長198.6kmのコース前半の登りは、コート・ディヴォワール(2.1km、6%)ただ一つ。スタートから85km前後で周回コースに入ると、あとはエレフ坂とユイの壁をセットで4回こなすだけだ。

つまり1年前はシュラヴ→エレフ→ユイを登って降りる37.5kmの周回を3回走ったが、今回は32.6kmのサーキットを4周回。集団を絞り込む難所がもはやユイしかないからこそ、2回目、3回目のユイ登坂から早くも、強豪チームは大胆な戦闘モードに入るかもしれない。また周回距離がほんの少し縮まったことで、たとえば3回目の壁登坂で飛び出し、そのままフィニッシュまで逃げ切りを図る野心家だって登場するかもしれない。

なにより、週の真ん中の水曜日に「チャペルの小道」に集まったファンたちは、激勾配でもがく選手たちをいつもより1回多く応援できるというわけだ。

ただ残念ながらディフェンディングチャンピオンのタデイ・ポガチャルは、タイトル保守には乗り込まない。昨春はクラシックで大暴れし、アルデンヌ3戦全勝にさえ王手をかけたが、今年は初のジロ・デ・イタリア&ツール・ド・フランス連戦を控えて出走数を極限にまで絞り込んだ。過去3勝のアラフィリップも、ほんの1週間ほど前に、実は3月から左膝に故障を抱えていたことを公表し、大好きなアルデンヌは全欠場。また3年前にそのアラフィリップとやりあったプリモシュ・ログリッチも、バスクツアーの落車の影響で、しばらくは静養の日々を過ごすとのこと。

幸いに2年前の覇者にして、プロトン屈指の激坂巧者ディラン・トゥーンスは、ちょうど1週間前のブラバンツ・ペイルで2位に飛び込んだ脚で、今年のフレーシュ・ワロンヌにやってくる。しかも所属チームのイスラエル・プレミアテックには、頼もしい面々が揃っている。5年前にあと一歩で勝利を逃した39歳大ベテランのヤコブ・フルサンに、やはり名うての激坂ハンターのマイケル・ウッズ。さらにはダウンアンダーの山で大暴れしたスティーブン・ウィリアムズも、エースの任務を分け合う。

2020年に初出場であっさりユイを攻略してしまったマルク・ヒルシも、かつてのセンセーショナルなほどの好調さを取り戻しつつある。日曜日のアムステルゴールドレースは4人での小スプリントで2位に泣いたが、水曜日は笑顔で終えられるか。そもそもポガチャル抜きでも、今大会のUAEチームエミレーツはとてつもなく強力だ。フアン・アユソにブランドン・マクナルティ、フィン・フィッシャーブラックという今シーズン絶好調の選手を大量に引き連れて大会入りするし、ジロ・デレミーリャ自慢の「壁」サン・ルーカで2度2位に食い込んだジョアン・アルメイダや、登りフィニッシュには相変わらず強いベテランのディエゴ・ウリッシも控えている。

2度の表彰台経験を経て、今年のアムステルゴールドレースでついに英国人初の勝者となったトム・ピドコックだが、フレーシュ・ワロンヌは3度走って6位が最高順位。英国人初のユイ王者への扉を、こじ開けることはできるだろうか。昨大会2位マティアス・スケルモースや、2年前初出場3位のアレクサンドル・ウラソフも、間違いなく優勝候補の一角に挙げられる。

東京五輪覇者リチャル・カラパスの、凄まじい爆発力と一瞬を突くセンスは、誰にとっても脅威でしかない。ストラーデ・ビアンケ表彰台で高き才能を証明したマキシム・ファンヒルスは、故障や病気続きのロット・デスティニーに明るい話題をもたらしたいと誓っている。

4年前2位のブノワ・コスヌフロワは、「ユイは僕にはきつすぎる」とは言いながらも、ブラバンツ・ペイル制覇の勢いで激坂制覇を夢見る。パリ〜ニースは失意に終わったが、4月13日のツール・デュ・ジュラを勝ち取り、ダヴィド・ゴデュもどうやら本調子を取り戻した。21歳の若きロマン・グレゴワールの、ユイ登り初挑戦も大いに注目すべし。

我らが新城幸也も、今大会おそらく最年長39歳ライダーとして、7年ぶりのフレーシュ・ワロンヌ参戦。前戦アムステルゴールドレースで大いにレースを活気づけたペリョ・ビルバオや、昨リエージュ3位サンティアゴ・ブイトラゴのために、長い経験で培ったノウハウを惜しみなく発揮してくれるに違いない。

文:宮本あさか